コンピュータビジョンはブランディング広告を変えるか? GumGumの挑戦 GumGum, Inc. CEO Phil Schraeder氏 / GumGum Japan K.K. Managing Director 若栗直和氏

人間の目が行うこと、たとえば顔やものを判別したり、物体を認識したりするコンピュータビジョンは近年、目覚ましい勢いで進化している。それに伴い、デジタル広告の世界も劇的に変わろうとしている。その一端を担うのがGumGum。AIを活用した独自の視覚情報処理技術を持つ、カリフォルニア発の企業である。AIが記事の文脈を理解し、不適切な内容が含まれていないかを判断し、広告の配信を見極める。そうした画期的なサービスが世界各国の主要ブランドから高く評価されてきた。日本では、2017年後半から本格的に広告ソリューションの提供を開始。これまで獲得型広告が主流だった日本のデジタル広告業界はGumGumの登場により、真の意味でのブランディングに目を向け始めた。

カリフォルニア発。AIを活用した独自の広告プラットフォーム

–御社の事業モデルと現在の取り組みについて教えてください。

Phil 当社の創業は2008年。アメリカのカリフォルニアで誕生しました。AIを活用した独自の視覚情報処理技術を用いて、日々生成される膨大なビジュアルデータの持つ潜在価値を顕在化し、さまざまな課題の解決に活かすことを目標に活動を展開しています。現在は北米、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界各国でサービスを提供しており、日本では2017年後半から広告ソリューションの提供を開始しています。

若栗 当社は、パブリッシャー(媒体社)の方々がお持ちのコンテンツを新たな広告配信面として活用。AI視覚情報処理技術を用いて配信面の文脈を識別し、文脈に沿ったクリエイティブ表現を通して、ユーザー・ブランド・パブリッシャーそれぞれに有益な環境を構築しています。現在、日本国内ではおよそ100のプレミアムパブリッシャーと連携※。新しい収益の獲得や高いユーザーエクスペリエンスの実現など、多くの面で貢献しています。

–日本市場でのビジネスを本格化した意図は?

Phil 当社にとって、日本は4番目の市場です。比較的早く日本市場をビジネスの視野に入れました。というのも、日本市場は欧米と異なる、独自の特質と可能性を持っているからです。欧米と異なり、日本のデジタル業界はこれまで獲得型広告が主流であり、ブランド広告領域にはそれほど手をかけていませんでした。しかし現在、ブランド広告領域へシフトする傾向が強まっており、私たちは日本のブランド広告市場における発展の可能性に、大きく注目しています。

–近年の広告トレンドについて、どのようにお考えですか。

Phil 世界レベルでデジタル広告を考えると、さまざまなトレンドが起きています。そうした中で、私たちが最も注力し、課題解決に大きく寄与しているのではないかと自負しているのが、ブランドセーフティの問題です。ブランドは当然、自分のブランド価値を守りたいという気持ちが強い。だから、安全かどうかわからない場所、すなわち、広告を出稿するのにふさわしくない場所に、意図に反して広告を配信してしまうことはとても怖い。これは当然ですよね。もちろん、ブランドによって「安全か、そうでないか」という基準は異なりますし、広告配信に適正と確度を求めるなら、一つ一つ、文脈を判断する必要があります。特に日本のブランドは、欧米に比べて保守的な傾向が強いため、「こういうコンテンツに広告出稿は控えよう」と考える基準が、他国と比較してもっと厳しいかもしれません。
そうした点において、当社のテクノロジーはまさに有効に機能します。たとえば、一般的な視覚情報処理技術でも、「画像内に武器が写っている」ということは把握できます。しかし、そうした認識技術を私たちの自然言語処理と組み合わせることで、世界一ブランドセーフなプラットフォームを作ることができるのです。そうした点で、当社のサービスと日本の市場は非常に親和性が高いのではと考えています。

–個人情報の取り扱いについても、現在ではますます厳しくなっています。

Phil 欧米では近年、パーソナルデータ活用のプライバシー問題についての議論が積極的に行われ、消費者の権限強化の必要性が一般に共有されてきました。特にEUは、2018年5月に一般データ保護規則(GDPR)を施行し、個人のプライバシーを保護する権利を強化していますし、こうした傾向は今後もますます強くなっていくでしょう。これまで多くの企業がリターゲティングやcookieデータの解析に注力してきましたが、今後はそうしたものへの投資が少なくなると見込んでいます。そうした中でも、当社が展開するAIを活用した独自のコンテクスチュアル広告は、ブランドが自分にとってふさわしい広告スペースを選択できる、そして、個人情報に頼ることなく効果的にターゲティングできるという点で、今後もますます多くのブランドにソリューションを提供できるのではないかと考えています。

若栗 これまで日本の多くのブランドは、獲得型広告に大きな予算を配し、ブランド広告キャンペーンにはそれほど多くを投下してきませんでした。しかし今後、日本ではブランディングがますます重要になってくると考えられます。特に、デジタル世代である若者たちは、生まれた時からインターネットをメインのメディアとして活用しています。これまでの世代は新聞やテレビなど、従来型のメディアでブランドの認知形成を行なってきましたが、今の若者たちは当然のように、インターネットでブランドに対する認知を確立させています。そうした点で、今後ますますデジタルにおけるブランディングが重要になってくると考えています。

ブランドリフト効果は10〜20%

–日本における現在の展開は?

若栗 先ほどお話しした通り、現在は約100のパブリッシャーと連携し、月間の広告配信は4億PV。リーチできるユーザー数は3,000万以上と考えています。つまり、Facebookやインスタグラムと同等規模のプラットフォームということです。
一方、ブランドのカテゴリーはさまざまであり、食品や飲料メーカーから、銀行・保険などの金融関係など多岐にわたっています。

–事例を挙げていただけますか。

若栗 最もわかりやすい事例の一つが、このANAハワイ線へのA380就航の広告です。ターゲットとして「ハワイ旅行」やトラベル関係の文脈を取り上げ、その中で、「ANAのハワイ線にA380が就航する」というニュースを出すのに、適切な文脈を判断。その記事内画像の下部にイン・イメージ広告として掲載しました。広告にはエンゲージメントを高めるためにアニメーションを採用。視認性の高いスペースへ広告を配信し、アニメーション・動画など自由度の高いクリエイティブ表現を用いることで、ポジティブなメッセージを確実に届けることが可能です。さらに、そうした自由度の高いクリエイティブ表現により、ブランドリフト効果にも力を発揮。つまり、この広告を目にした視聴者に対して、単純に「記憶してもらう」「覚えてもらう」だけでなく、ブランドに対して好意的な認知を醸成させることができるのです。
こちらのANAハワイ線へのA380就航の広告については、広告主であるANA様からも、画像認識を使った独自のターゲティング手法の面白さ、文脈識別の精度の高さ、エンゲージメントなどのパフォーマンスの良さにおいて、非常にポジティブな評価をいただいています。

–一般に、ブランドリフトの効果はどれくらいですか。

若栗 キャンペーンのメッセージや広告表現のクリエイティブ性にもよりますが、平均して10〜20%のブランドリフト効果を実現しています。ブランドリフトについて考えるときは、必ず競合に対する印象も計測することも必要。競合と比較して、イメージシェアやマインドシェアを多く獲得することができれば、市場におけるそのブランドの優位性はますます高まるでしょう。

–御社ではスポーツスポンサーシップという取り組みを行っていると聞きました。

Phil スポーツスポンサーシップとは、ブランドやライツホルダー向けに、テレビ・ストリーミング・SNS上でのスポンサーシップのメディア価値を評価・分析するサービスのこと。たとえば試合を撮影した画像や映像の場合、ホームゲームであることやロゴが含まれていることなどを認識し、さらに、「いいね!」などの数や放映された時間などからメディア価値を評価します。アメリカでは非常に成功を収めているソリューションで、放映権の保有者とブランドが意思決定をする際の共通認識となっています。まだ日本ではこのサービスを展開していないのですが、今後、時期をみて日本にも導入する予定です。日本ならではの文化や特性を配慮して、サービスの展開を決めたいと考えています。

若栗 こうした「日本ならではの文化や特性への配慮」は、あらゆる点で必要と考えています。実際、日本独自の商習慣は未だに根強く存在していますし、ある特定のビジネスが欧米で成功したからといって、それをそのまま日本に持ち込んでも、同じようにうまくいくとは限りません。あるブランドに対しては、レポーティングの頻度や回数を増やすことが求められるかもしれませんし、内容をもっとリッチにする必要があるかもしれません。そうした点を踏まえ、個別にワークフローを設定。綿密なプランニングと人的リソースの最適化を繰り返しながら、日本でのサービス展開を加速している状況です。

Phil 私はアメリカ出身なので、日本では信頼を醸成することを先に行わなければなりません。信頼やリスペクトが基盤にあるからこそ、日本でのビジネスがうまくいくのです。私たちの製品サービスや戦略ビジョンは世界的にみてどこもほとんど変わりませんが、各地域で展開させるためにそれらをローカライズさせる必要があります。そのため、ローカルリーダーシップ制を設け、私たちの商品ソリューションがその国や地域で意味を成すように調整していきたいと考えています。

デジタルにおけるブランディングの可能性を追求

–現在、広告業界が抱えている課題について、どう考えていますか。

Phil 現在、多くの企業において、広告の予算が分離されています。たとえば、予算の一部はパートナーに預ける、他の一部はソリューションに回すとか……。でも、そうやって予算を託したパートナーやソリューションは、他のライバル企業も同様のサービスを使っているかもしれず、そうなると、広告の差別化はますます難しくなってきます。また、多くの企業はデジタル広告を配信する際、ほとんど似たようなパブリッシャーを使っています。「安心できるから」という理由もあるのでしょうが、それでは広告の単価はますます高くなりますし、広告の独自性を打ち出すことも難しくなります。
その点、当社では日本で約100のパブリッシャーと連携していますが、それぞれ個性豊かな編集記事を制作していますし、また、専門的な情報を配信しているブログなど、これまであまり広告スペースとして注目されてこなかったところについても広告配信の可能性を探っています。
また、広告は全てインハウスで制作しており、各国ごとにローカルのクリエイティブチームを結成。それにより、ブランドに対してクイックなレスポンスが可能になり、自由度の高いクリエイティブを実現しています。

若栗 それから、広告の効果測定に一貫性がないという問題もあります。効果測定はどちらかというとデジタルの方がやりやすいものの、評価指標がCTRなどに終始しがちで、ブランドの認知やエンゲージメントの「質」を評価する考え方がまだ浸透していない。しかしそうした中でも、アトリビューションを測定するツールは少しずつ増えています。こうしたツールを使うことで、真の意味でブランド広告の価値を測るとともに、「デジタル広告でも効果的にブランディングができるのだ」ということを実感していただきたいと思います。

–最後に今後の展望について教えてください。

若栗 現在、日本でサービスを開始して約2年。徐々にGumGumの認知度が高まってきて、キャンペーン展開例は約150近くに上ります。これからももっと多くの方に当社のサービスを理解していただき、実際に活用していただくことで、ブランディングに貢献していきたい。同時に、パブリッシャーとの連携もますます強化して、ネットワークを拡充していきたいですね。

※2019年2月末時点

 

Phil Schraeder (フィル・シュレーダー) 氏
GumGum, Inc.
CEO

GumGumのCEO。グローバルにおける事業計画及、セールスマネジメント、財務計画、人材管理等を行う。『Adweek』『Huffington Post』等のメディアへの定期的な寄稿を行う他、2017年には『Los Angeles Business Journal』による『CFO of the Year』アワード受賞。
GumGum参加以前には、グローバル電子決済・リスク管理ソリューションプロバイダー『Verifi 』のVP of Financeとして活動。また、3Dテクノロジーライセンシング企業『RealD』、フィルムスタジオ『New Regency Entertainment』、 監査・税務・アドバイザリー企業『KPMG』等でアカウンティング・ファイナンス業務を歴任。
Northern Illinois Universityで会計学でのBachelor of Scienceを取得する他、コミュニケーションも専攻。旅行、フットボールを楽しむほか、フロリダキーズでの友人との休暇が趣味。

若栗直和氏
GumGum Japan K.K.
代表

GumGum Japanの代表 /カントリーマネージャー。2000年より、広告会社『オグルヴィ・アンド・メイザー』にて、グローバル及びアジア・パシフィック市場向けのブランディングに従事。香港・上海・東京・シンガポールなどを拠点に、『フォーチュン500』企業向けのブランド戦略・ブランディング企画・キャンペーン運営を手がける。2018年よりAI画像認識を活用した広告事業を展開するGumGum(ガムガム)の日本オフィス代表を務める。
1998年東京外国語大学英米語学科卒。

データを駆使して“人”を読み解く。新時代のコンテンツマーケティングとは アウトブレインジャパン株式会社 代表取締役社長 嶋瀬宏氏

かつて雑誌広告が全盛だった時代には、ページをめくるたびに新しい発見と出会うワクワク感があった。だがデジタルマーケティングの興隆に伴い、予想外のものと出会う高揚感や期待は重要性を失い、その代わり、「ユーザーの興味関心に沿った広告を、どれだけ的確に表示できるか」という効率性が重視されるようになった。しかし本来、「ユーザーに新たな世界を提示し、豊かな時間を提供する」ことも広告の役割であると考えれば、確度の高さだけが広告の価値と考えることはできない。「広告によるユーザーエクスペリエンスを高めるためにも、ディスカバリーの要素が必要」と語るアウトブレインジャパン株式会社の代表取締役社長嶋瀬宏氏に、今後のデジタルマーケティングについてうかがった。

トレンドが一巡。広告の本質的な部分に回帰する傾向

–現在、日本のコンテンツマーケティングにおけるトレンドについて、どのようにお考えですか。

 いくつかのトレンドがありますが、まず一つはブランドセーフティ。欧米諸国では3年くらい前からよく聞かれていましたが、日本でも外資系企業を筆頭に、多くの企業でブランドセーフに対する意識の高まりが見られるようになりました。
 また、これまではどちらかというと、より多くのユーザーに対してどうやってリーチするかという点に主眼が置かれてきましたが、今後はエンゲージメント、つまり、どれだけ深くユーザーとコミュニケーションを図れるかという点が重要視されるようになるのでは、と考えています。今後、通信網が発展し、モバイルでできることがますます増えれば、よりインタラクティブ性の高いコミュニケーションの手法が一般的になるのではないでしょうか。

–そうしたトレンドの中、御社の取り組みについて教えてください。

 当社ではインタラクティブ性の高い動画コンテンツに力を入れており、中でも、ユーザー自らが動画を選択して視聴できる新しい配信サービス「FOCUS」は、ユーザーに「スキップされる動画」ではなく「選んでもらう動画」として、広告主の皆様にご好評をいただいています。また、広告のクリエイティブな部分に再度目を向けなおし、「どのようなコンテンツがユーザーに深く刺さるか」を考察。配信の手法や広告のフォーマットももちろん大事ですが、それ以前の課題として、「ユーザーに刺さるコンテンツとは一体何か」という、いわば、広告の本質的なテーマに今後、デジタルマーケティングは回帰していくのではないかと見込んでいます。
 では一体、どのようなデータがユーザーに「刺さる」のか? これを考えるには、データが大きく貢献するでしょう。つまり、インタレストデータを読み解くことでより確度の高いコンテンツを制作する。そして、どういったコンテンツがエンゲージメントに効いたのかアトリビューションを解析する。これらによって高速に PDCAを回し、よりユーザーに「刺さる」コンテンツを制作することができるでしょう。

–一般に、マーケティング先進国である欧米に比べ、日本は3年程度遅れていると言われています。

 確かに、そのような傾向もあるでしょう。先ほど述べたブランドセーフティについても、欧米ではすでにその概念自体が標準化していますし、デジタル広告を含めた運用自体もインハウス化されていて、リアルタイムに運用型広告を最適化したり、コスト効率を改善したり、透明性を担保したりしています。それに比べて、日本ではまだデジタル広告のインハウス化が進んでおらず、人員的にも体制的にも改善の余地がある。しかしその一方で、一部のアーリーアダプターたちは欧米と同様、もしくは、それよりも早い取り組みを見せています。彼らが最も進化している分野こそデータの活用であり、その分野に限って言えば、この1、2年の進化は非常に目覚しいと言えるでしょう。そういう意味では、日本におけるデジタルマーケティングは二極化が進んでおり、今後も益々この傾向が強くなるのではないでしょうか。
 
–そうした中で「刺さるコンテンツ」を作るための着眼点としては、どのようなものがありますか。

 私は、“3つのM”が関係していると考えています。一つ目は、「Mode(モード)」。たとえば、ユーザーが積極的にコンテンツを探しに行き、自らの意志で広告にアクセスすれば、当然、そのコンテンツはユーザーにとって深く刺さるのものになるでしょう。受動的に眺めるだけの広告よりも、その効果は明白です。このように、ユーザーのモードに合わせたコンテンツは、エンゲージメントに深く影響しています。
 二つ目は、「Moment(モーメント)」。コンテンツを作る際にはペルソナを設計します。もちろん、ペルソナはとても重要な役割を果たしますが、もっと細かく見れば、同じ人物でも朝と夜ではペルソナが変わります。つまり、今までのような1 format, 1 messageではカバー仕切ることができないとういこと。今後は様々なモーメントに合わせるため、コンテンツはより多くのバラエティを持つことが求められるようになるでしょう。
 三つ目は、「Measurement(メジャーメント)」。コンテンツマーケティングの成否は、KPIがしっかり設定され、それを実際にメジャーメントできるかという点が大きく関係しています。トレンドの移り変わりを的確に捉えながら、コンテンツをリアルに改善していくことが、刺さるコンテンツ作りに必要な3つ目の要素と言えるでしょう。

–メジャーメントについては近年、ツールの進化が目立っています。

 当社のパートナー企業であり、アトリビューションサービスを提供するTRENDEMONの登場に示されるように、ここ2〜3年でマーケターがデータ分析を行うのに最適な環境が整いつつあります。コンテンツの8割はカスタマージャーニーに貢献していないという調査結果もあり、データに基づいて問題点を改善すれば広告の雲鷹効率は単純計算で5倍に上がります。
 しかし、データの読み方には何通りもあるということも忘れてはなりません。つまりどれだけ計測ツールが進化しようとも、データを読み解き、対策を講じるのは人間である以上、どうデータを読み解くかというのはマーケターや編集者のカンや経験に頼る部分も少なくなく、そうした経験値は今後ますます重要になってくるでしょう。現在、データ分析は個の力に依存する部分が目立ちますが、ある企業はデータ分析のプログラムを自社で開発したりするなど、かなり意識の高い試みを見せています。その一方、まだ的確なKPIを設定せずに広告運用を行っている企業も多く、今後もこうした二極化はますます進むだろうと見込んでいます。

–日本におけるデジタルマーケティングは今後、さらに二極化が進むということですが、これを改善するには?

 日本の企業はそもそもの文化として、縦割りの事業部制が浸透しています。しかし企業によっては、ECサイトも運営すれば、楽天やAmazonでも商品を扱う、また企業サイトだけでなく、オウンドメディアやマイクロサイトも展開するなど、ユーザーとの接点は非常に多岐に渡ります。そうした中でメディアごとに担当者を分ける従来の体制では、全体を俯瞰的にみて戦略を講じることはほぼ不可能。つまりCMOが全体を俯瞰し、マーケティングの戦略を横串で繋げていき、企業全体で最適化を測っていくことが必要であり、体制そのものを根本的に変革していく必要があるのではないかと考えています。

–そうした中で、今後、必要とされる人材とは?

 デジタルマーケティングの領域は、現在、統廃合が進んでいます。どんどん新しいテクノロジーも開発されていますし、プロダクトのリリースも相次いでいます。各社が新しいツールを次々と提供する中では、適切なツールを、適切に使える人材が必要。決して新しい手法を取り入れ、先駆的な取り組みをすることがゴールではなく、定めたゴールに対して適切なツールをどう組み合わせて使っていくか、全体設計の視点においてツールを選択する視点がまず必要となるでしょう。
 しかしその一方で、最終的にユーザーのエンゲージメントを確保するという点では、より、クリエイティブの領域が重要性を増すだろうと考えています。今まではどちらかというと、デジタルマーケティングの領域では、計算や論理的思考を司る左脳が重要とされてきましたが、今後は、右脳的な創造性が必要になるのではないでしょうか。このツールを使って、このようにファネルを設計して、こうやってリタゲして…とどれだけ完璧に設計しても、そこを流れるコンテンツが良いものでなければ、ユーザーには刺さりません。どんなに高級なレストランで、インテリアやサービスが素晴らしかったとしても、そこで提供される料理がいまいちであれば、お客は満足しませんよね。それと同じ。つまり、デジタルマーケティングの領域では、よりクリエイティブ性が必要とされ、ユーザー経験の価値を高めることが重要視されるのではないでしょうか。

FOCUSのウィジェット例。動画の再生ボタンをクリックすることで初めて再生。
興味をもったユーザーのみが
主体的に視聴する。

確度だけではない。今、広告に必要な要素とは

–そうした中で、サービスやプロダクトの方向性についてはどのようにお考えですか。

 先ほど申し上げた3つのMのうち、モードとモーメントに関しては、アウトブレインが誕生以来、主軸に据えている分野であり、それらをコミュニケーション起点としてそもそものサービスが設計されています。そうした中で、今後、より重要になると捉えているのがメジャーメントです。つまり、我々が持っているユーザーのインタレストデータに、たとえばクライアントが持っているファーストパーティのデータや、パブリックなサードパーティのデータなどを結合させ、クライアントにとってもっと効果的なマーケティングを考えていくことが今後、ますます求められていくでしょう。

–それによって、ユーザーの行動変容はどのように起こりますか。

 適切なモードやモーメントはエンゲージメントの深さにつながります。それに加え、メジャーメントによって客観的な視点を加え、広告精度を上げていくことで、ユーザーのエンゲージメントは深まるだろうと考えています。
 しかし、矛盾するように思えるかもしれませんが、データはあくまでも過去の履歴でしかありません。つまり、未来を予測する領域にはまだ到達していないのです。たとえば、私がこれまでネパールの情報に触れておらず、現時点で興味を持っていないとはいっても、私がネパールを好きではないかというと、決してそうではありません。ネパールの広告を当てることによって、新たな興味を喚起し、行動変容につなげる可能性もあるのです。
 私たちは、広告にはディスカバリーの要素が必要だと考えています。つまり、ユーザーの興味関心に沿って、「その人に好まれるだろうな」という情報を提示することはもちろん大事ですが、その一方で、遊びの要素も必要であり、新たな世界を示してあげることも大切だと思うのです。自分の世界観に合致する広告ばかりが提示されれば、はじめはユーザーの関心を誘っても、やがて広告自体が飽きられてしまうでしょう。そこではフレッシュなお勧めがないからです。
 もともとアウトブレインは、「雑誌を読んでいるときの、次のページをめくるときの高揚感や、次にどんなコンテンツと出会うかわからない不確かさ」といったものにインスパイアされ、設立されたという経緯もあります。これまではデジタルマーケティングの精度を高めることに注力し、ユーザーが好みそうなコンテンツの配信に意識が向けられてきましたが、現在はその揺り戻しが起こっており、「広告をみる楽しさ」という原点が改めて見直されているのではないかと思います。たとえていうなら、情報のセレクトショップとなるでしょうか。どんなに優れたショップでも、品物を一つしか持っていなければすぐにユーザーに飽きられてしまうでしょう。しかし、「あなたはこういう商品が好きですよね、でも、こういうものもありますよ」と新しい世界を示してあげる。そうすることでユーザーの広告体験は価値が高まり、エンゲージメントにも貢献するのではないかと思うのです。

–“情報のセレクトショップ”は、オンラインだけでなく、オフラインにも拡大していくのでしょうか。
 
 当然、そうなるでしょう。今、クライアントと話していると、イベント重視の傾向が出ているように感じます。たとえば、自社の商品を愛用しているユーザーの中から影響力のある人たちを招待して、リアルなイベントを開催する、そしてその様子をSNSで拡散するといったインフルエンサーマーケティングも、ますます重要視されています。デジタルマーケティングというと、数値やデータだけで完結すると勘違いされてしまいがちなのですが、その先には「人」が存在しています。その人の感情や行動を細やかに読み取り、マーケティングに還元していくという、一見時代に逆行していくかのような施策が、今後のデジタルマーケティングにおいては価値が見直され、ますます求められていくのではないかと考えています。

嶋瀬 宏氏
アウトブレインジャパン株式会社
代表取締役社長

2001年三菱商事株式会社入社。国内外における新規プロジェクト開発などを担当。同社退職後、新規事業のインキュベーション・コンサルティングを行う株式会社ステラ・ホールディングスを設立。2013年11月より世界最大級のディスカバリー・プラットフォームを提供するアウトブレイン ジャパン株式会社の社長に就任。『適切なユーザーに適切なモーメントで』コンテンツを届ける同社のプラットフォームを通して、オンラインパブリッシャーとコンテンツマーケティングを展開するさまざまな企業をサポートている。

2018年日本上陸。新たな分析ツールがコンテンツマーケティングを変える TRENDEMON JAPAN 株式会社 カスタマーサクセスマネジャー 嶋添心悟氏

TRENDEMONというユニークな名前のもと、日本でサービスを開始したのが2018年夏。 「コンテンツの価値」を誰でも簡単に分かりやすく可視化できるという画期的なアトリビューション分析ツールで、現在、多くの企業のデジタルマーケティングに貢献している。一般に、“Content is king, distribution is queen”と言われるが、それらに続く第3の役割を担うべく、イスラエル発のコンテンツアトリビューション解析ツールTRENDEMONは、今後、日本のデジタルマーケティングをどのように変えるのか。TRENDEMON JAPANでカスタマーサクセスマネージャーを務める嶋添心悟氏にお話をうかがった。

“Content is king, distribution is queen”に続く、第3の役割として

–日本で正式にローンチしたのは2018年7月。現在の状況はいかがですか。

2014年にイスラエルで設立され、日本で正式にサービスを開始したのが2018年7月。お客様の多くがオウンドメディアを運営し、コンテンツマーケティングに注力されている企業の方達です。日本で正式にローンチしてからまだ半年ほどですが、お陰様で既に国内では大手企業を中心に延べ50社近くのお客様にご導入頂いています。
 その背景にあるのが、当社のサービスの独自性と利便性です。ご存知の通り、従来のWEB計測分析ツールにおいては国内でも既に複数あります。いずれも素晴らしいツールですが、そういった計測ツールのほとんどが広告のROIを可視化するものであり、デジタル上の「コンテンツ」にスポットを当てた計測ツールがこれまでほとんど見当たらなかったのも事実だと思います。そういった現状に対して、弊社では誰でも簡単に「コンテンツがビジネスゴールに与えているインパクト」を分析することができるようなダッシュボードをご提供しています。

–御社のサービス「TRENDEMON」では広範囲に渡ってカスタマー・ジャーニーを可視化することで、 どのようなコンテンツがビジネスゴールに貢献しているのか把握することができるのですね。

 現在、デジタル上でのカスタマー・ジャーニーはますます複雑になり、長期化しています。その背景として、広告に反応しづらくなっている方が増えているということも挙げられます。ニールセンの調査によると現在の生活者は「購買行動を行うまで平均で11個以上のコンテンツを消費する」というデータがあります。そこでTRENDEMONではワンタグをご設置頂くだけでクロスドメインかつクロスデバイスでカスタマージャーニーを一気通貫で分析できるようになっています。しかしながら、ユーザーのデジタル上でのカスタマージャーニーのデータ量は膨大な大きさになります。ただでさえ忙しいコンテンツマーケティングのご担当者様が集計や分析に多くの時間を割くことは現実的ではありません。
 そのため、TRENDEMONは予め膨大なジャーニーデータからご担当者様が実際にすぐ、改善アクションに移れるようなインサイトを複数ダッシュボード上でご提供しています。

–料金体系についてはいかがですか。

 通常、SaaS系のプロダクトは、オプションで価格をアドオンしていくケースがほとんどですが、当社の場合は金額体系を可能な限りシンプルにしようと 考え、PVによる従量課金制をとったサブスクリプション型の年間契約が基本となっています。
  まだ立ち上げフェーズという状況もありますが、現時点ではご導入頂いた企業様には必ずオンボーディングから分析、レポーティングなど含めカスタマーサクセスチームがサポートさせて頂いております。弊社の理念として、TRENDEMONを使って頂くことが目的ではなく、責任を持ってお客様のビジネスを一緒にグロースさせて頂くことが弊社の最終的な目標にあります。

–グローバル企業と比べて、日本企業ならではビジネス特性もあるのではと思います。

 確かに国内ではディテールオリエンテッドな気質が あるように感じています。グローバルの場合、 PLAN(計画)してからアクションするまでのスピードが早いかと思うのですが、国内ではディテール部分をしっかりと詰めてからでないとなかなかアクションに移れない光景をよく目にします。どちらが良いということではないのですが、逆に日本市場のニーズを細かく、正確にキャッチアップし、プロダクトに反映しローカライズすることに成功すれば、間違いなくどこの国でも戦えるプロダクトになっていると、弊社では本国の開発チーム含めて共通の認識としています。

–今後のプロダクトの方向性については、どのような展望をお持ちですか。

 現在、弊社のプロダクトは計測ツールという位置づけではありますが、パートナー企業であるMAやCDPを提供する企業様とのAPI、データ連携もすでに行っています。たとえば、弊社のアトリビューションスコアを元にしてメディア内部の回遊性を上げる、コンテンツのオートレコメンド表示機能であるPERSONALIZATIONや、店舗での購買データから顧客デモグラ情報をベースにしたコンテンツ分析なども順次リリース予定となっています。
 CDPを提供するパートナー企業様との連携では、年代や性別などのデモグラ情報で見た時に店舗での購買者がオフラインでの購入を決断するまでにどのようなコンテンツを多く消費する傾向にあるのかといった非常に興味深いインサイト事例が出てきています。
 更に、現状のWEB施策の大半がCPAベースで施策のパフォーマンスが評価されがちですが、実際にはCPAだけでなく、ブランドに対して興味を持ってもらうという”入り口”としての要素もきちんと評価されるべきだと思っています。
 非常に基本的なことではありますが、広告ごとに役割が存在し、例えば、読み物系のコンテンツを通してブランドに対して興味や親近感、新たな気付きなどを感じてもらったりする中で、態度変容や能動的な行動を促されるようなモーメントが必ずカスタマージャーニー上のどこかで発生します。その重要なモーメントを確実に捉える為に弊社ではATTENTIVE(高頻度接触者)オーディエンスという指標をリリース致しました。ATTENTIVEオーディエンスとは、「過去30日間で2回以上来訪し、尚且3つ以上のコンテンツを読了している」という定義のもとコンテンツに対して通常の来訪ユーザーよりも極めて高いエンゲージメントをもったユーザーを「見込み顧客」として個別にダッシュボード上でインサイト化しています。自社の調査の結果、このATTENTIVEオーディエンスは通常の来訪ユーザーと比較して3倍近くのCVRがあるという実績も出てきております。

–現在、お客様の中で、コンテンツマーケティングに取り組んでいる企業の比率はどれくらいですか。

 グローバルでは多くの企業がコンテンツマーケティングを展開していますが、日本ではまだ数えるくらいというのが現状です。一般に、アメリカのマーケティングが日本へ到達するのに3年かかると言われていますが、その一方、アメリカよりも緻密で高度な分析を行なっているお客様も多いので、一概にアメリカに比べて遅れているとは言えないと思います。
 とはいえ、現実としてコンテンツ制作をする上で依然としてライターさんの属人的な勘や経験値といったものでしかコンテンツの制作、量産化ができていないお客様が国内では多くいるのではないかとも感じています。また、自社の調査によれば、オウンド・メディアのコンテンツのうち、コンバージョンに寄与しているのはわずか15%だったという非常にセンセーショナルなデータもあります。
 国内では特にラストタッチにおける広告のROIにはセンシティブな方が多い一方で、興味深いことに多くの予算と人的リソースも投下されているであろう大切な「コンテンツ」のROIの可視化に取り組もうとしている企業は思った以上に少ないと率直に感じています。
 大きな要因のひとつとしては、冒頭でお話した通り、これまでコンテンツの価値を可視化しようとした時に適切な分析ツールが存在しなかったことが考えられます。
 コンテンツのROIを明らかにすることができれば、さらに国内でのコンテンツマーケティングへの成長スピードは加速すると信じています。

ますます注目を集める「カスタマーサクセス」のポジション

–コンテンツマーケティングがますます活発になると予想される日本のデジタルマーケティング市場において、今後は、どのような人材が求められると思いますか。

  私のような者が言えた立場ではまだないのですが(笑)、自分へのメッセージとしてもあえて言うとすると、 弊社はカスタマーサクセスというポジションを非常に重視しています。その背景として、弊社のようなSaaS系ソフトウェアのプロダクトのほとんどがクラウドベースのプロダクトということもあり、お客様が従来のような最初の契約で大金を支払ってソフトウェア自体を「所有」する必要がなくなってきています。そうした状況の中で一定の契約期間の中で「利用する」ということに重きをおいた、サブスクリプション型のビジネスが現在多く広まっています。
 そういったサブスクリプションの世界では、常にお客様の満足度を上げ続ける必要が出てきます。その中核の役割を果たすのが「カスタマーサクセス」というポジションです。文字通りお客様のビジネスを成功に導くことが最終ゴールのため、お客様視点で物事を考えることが求められます。ですが、とりわけ弊社のような立ち上げフェーズという状況ですとどうしても気がつくと自分も導入社数など、いかにプロダクトのシェアを伸ばすかということばかりに気を取られ、近視眼になってしまう時があります。
 話が脱線しましたが、そういった状況の中でも、そこは焦らず目の前のお客様の視点で物事を考えることができ、適切なアクションが取れるような人がより一層求められてくると感じています。
 自分自身としては上記の役割を果たすにはまだまだ至らないところだらけではありますが、現在は本国の優秀なチームの方達のサポートや国内のコンテンツマーケティングを取り組まれている先輩方からのサポート頂きながら少しでもカスタマーサクセスの役割を果たせるような人材になりたいと思います。

 
–カスタマーサクセスはサブスクリプション型プロダクトに特化するサービスとも言えそうですが、そうしたサービスを受ける企業側にとっては、ビジネスを成長させるためにどのような姿勢が必要でしょうか。

  自戒を込めて言うと、新しい試みに対して進んで挑戦し、最新の事例を作ることに前のめりで取り組めるように、失敗を恐れずにリスクを取り続けるマインドを常に持って日々の業務を行っていきたいと思っています。実際、当社のお客様にもそうした方が多く、私自身、TRENDEMONを新規のお客様にご説明するにあたり、 今までにない概念を持った特殊なプロダクトであるため、当初は提案するのが大変だろうと予想していたんです。しかし実際は、 「こういうプロダクトを待っていたんですよ!」と好意的に受け止めてくださる方も多く、そうしたお客様はサービスの活用によって、ますます業績を伸ばしていらっしゃいます。当社としても、これからますます人員を拡充してサービスを充実させ、 当社のミッションでもある「コンテンツ計測の世界標準」になるべく、コンテンツマーケティングを通してお客様のビジネスゴールに徹底的にコミットしていきたいと思っています。

嶋添 心悟氏
TRENDEMON JAPAN 株式会社
カスタマーサクセスマネジャー

2013年新卒として SEPTENI JAPANに入社。約3年間ソーシャルメディアの立ち上げメンバーとして従事し、Facebook、Twitterのコンサルティングを担当。2016年には 博報堂DY Digitalにて企業のLINE公式アカウントのコンサルティングに従事。2018年からはTRENDEMON JAPANにてCustomer Success Managerとして日本オフィスの創設メンバーとしてビジネス開発に従事している。

透明性とユーザーファーストを実現する“能動的なインタラクティブ広告”の可能性 Teads Japan株式会社 マネージング・ディレクター 今村 幸彦氏

動画広告は現在、まさに過渡期にある。これまでは「接触・認知」から「購入」へ至るマーケティングファネルのうち、最上部と最下部に力点が置かれ、両者の間を埋めるべきものにはそれほど注意が払われてこなかった。いかにして、ブランドに対して興味を持ってもらい、好感と信頼を得てもらうか。実はその中間プロセスにこそ、動画広告が果たすべき役割と意義がある。ビューアブルでブランドセーフな広告プラットフォームを提供するTeads。「良質な媒体社様と戦略的にパートナー関係を結び、ユーザー体験に細心の注意を払う。質の高い広告には、おのずと効果がついてくる」と語るTeads Japan株式会社の今村幸彦氏にお話をうかがった。

日本の動画広告戦略と施策に新しい価値を提供

–成長を続ける動画広告市場ですが、現在のトレンドとしてどのようなことを感じますか。

 2017年、インターネット広告に対する課題が浮上し、特に、アドフラウド、ブランドセーフティー、ビューアビリティーなど、広告全体の質が問われるようになりました。
 これまでは、配信の質やユーザー体験の質、隣接するコンテンツの質などはあまり注目されず、 CPMとCPCの二軸で日本のデジタルマーケティングは成長を続けてきました。しかし、マーケティングファネル全体を見てみると、ミッドファネルにおける指標がほとんど確立されてこなかった。つまり、これまでの動画広告は「接触・認知」と「購買」だけが注目され、「興味・関心・理解」と「購入検討」というプロセスへの指標の評価が重要視されてこなかったんです。KPIのほとんどがユーザーの広告体験の質や、視認性をほとんど考慮しない、再生開始単価・再生完了単価でした。しかしそれでは、「顧客を創造する」という観点からの施策がまったく取られていないことになります。当然、将来的に有望な顧客を育てることもできませんし、購買意欲を想起させることもできません。

–そこでマーケティングファネルにおいて、御社はミッドファネルにターゲットされているのですね。

 もちろん、ユーザーへのリーチや認知リフトというところにも貢献していますし、質の高い広告体験で購買意欲の想起にも貢献していますので、実際には「接触・認知」から「購入」まで、あらゆるファネルで働きかけを行っています。
 そうした中で、現在、当社が注目しているのは、広告への接触時間、つまり、ユーザーが広告に接触する時間をどれだけ長くできるかということです。現在、日本におけるインターネット広告市場は1兆5,000億円ですが、そのうち、動画広告が占めるのは1,900億円。劇的に成長したとはいえ、全体の約12〜13%でしかありません。まだ伸びしろがあるのです。
 動画広告の中では、FacebookやYouTubeの広告が大きな割合を占めますが、Facebookについていえば、平均わずか1.7秒で90%の人が広告から離脱してしまっており、広告との接触時間があまりにも短いことが課題とされています。一方、YouTubeでは一定時間必ず広告が表示されることによって、接触時間を確保することはできていますが、ユーザーの広告体験の質という観点からは好ましいとはいえません。また、不適切なコンテンツに広告が表示されてしまうかもしれないというブランドセーフの問題もあります。
 そこで当社では、ブランドセーフやビューアビリティなどの課題をクリアし、ネット広告の健全性を高めた上で、いかにして広告に対するユーザーの接触時間を長くするかということをテーマに設定。質の良い広告体験を提供し、好意的な認知を得ることでブランドに貢献したいと考えています。

–御社は創業当初より、「ユーザーファースト」という言葉を掲げています。

 「ユーザーファースト」とは、換言すれば、「質の高い広告体験」ということ。簡単にいえば、「ユーザーに嫌われない広告」ということです。とかく最近は、面倒な広告フォーマットが非常に多く、わざと閉じる”×(バツ)”ボタンをクリックしづらくしたり、そもそもこういったボタンを設置していなかったりする広告も少なくありません。また、無理やり広告を表示することで、視認性を高めようとする広告もあります。これでは本末転倒で、ユーザーはブランドを嫌がり、メディアから離れ、アドブロッカーを設定して、広告全体を遮断してしまうことになりかねません。日本では、アドブロックのユーザー数は10%程度ですが、欧米では4人にひとりがアドブロックを採用しています。これでは、オンライン広告の将来をとざすことになり、ユーザーへの広告機会を喪失してしまいます。

–そこで、御社は「ユーザーファースト」を唱えているのですね。

 当社の広告は記事と記事の間に挿入されますが、興味がなければ飛ばすこともできます。また、画面に広告が表示されて初めて再生が始まるため、確実にビューアビリティが保証されます。さらに、配信前に本当に人間が見ているのか確認しているため、アドフラウドの問題もクリアしています。
 当社は創業時から「ユーザーファースト」「ビューアビリティ」「アドフラウド」を課題にしていましたが、最初はそうしたことに対する認知が低く、実際に取り組もうというブランドはあまり多くありませんでした。近年ではグローバルブランドを中心に、課題として認識してきた感があり、大手ナショナルブランドの中にも、それに沿った形で広告をプランニングするところが出てきました。これは、適切な広告費が正しく投下されているのか、きちんと確認する物差しができてきたということ。ようやく、デジタル広告の“ダークサイド”に審判の光が当たり、正しく判定されるようになったということではないでしょうか。

–御社では270以上のプレミアム媒体とパートナーシップを組み、月間8.5億インプレッション規模のネットワークを構築していると聞きました。

「消費者にとって良質な広告体験」には、「品質の高い配信面」と「嫌われない、記憶に残る広告表現」の二つが必要です。実際、当社のオンライン広告は接触時間が長く、平均約12秒。しかし、デジタル広告に異論を唱え、デジタル広告費を大幅削減したことで知られるP&Gの調査によれば、オンライン広告の平均接触時間はわずか1.7秒だったということです。それと比較すると、当社の「12秒」という数字が驚異的であることがお分かりでしょう。
 この「12秒」という数字の背景には、当社の広告にはエンゲージ要素がふんだんに仕掛けられ、ユーザーの興味を喚起し、飽きさせないという工夫があります。国内の大手グローバルブランドの広告で検証を行ったところ、「対話性のあるインタラクティブ広告は通常の広告に比べて4倍の認知効果がある」ということがわかりました。つまり、本当に質が高く、ユーザーに好まれる広告は、ブランドにとっても大きな価値を生むということ。それを測るための指標のひとつが、「広告接触時間の長さ」なのです。

クリックや動画視聴率では見えてこない、動画広告の真の価値を

–「2018年11月、ハースト婦人画報社に制作ツールを開放」というニュースがありました。

 当社はクリエイティブ広告の制作支援も行っており、そのためのツールのひとつがTeads Studioです。Teads Studioとは、Teads が独自の技術をもとに開発した、リッチでインパクトの高いインタラクティブなクリエイティブを簡単に制作することができる広告クリエイティブ制作ツールのこと。このツールを2018年11月より、国内で初めてハースト婦人画報社様へご提供することになりました。これにより、最先端のクリエイティブ表現を活用した同社の広告商品開発を支援し、同社が保有するメディアの収益拡大に貢献します。
 これまでも、ハースト婦人画報社様は、インリードフォーマットの専売パートナーとしてTeadsを起用され、広告収益における主要プラットフォームとしてご活用いただいていました。こうした協業関係をさらに強化し、戦略的に発展させることを目的に今回、プラットフォームを開放。同社の広告商品開発を支援させていただくことになりました。現在もさまざまな企業様からTeads Studioに関するお問い合わせをいただいていますので、こうした広告商品開発支援はますます加速していく見込みです。

–今後、御社の目指すプロダクトの方向性については、どのようにお考えですか。

 現在、当社で進行中のプロダクトとして、「self-assembled ads」、つまり、「自動生成広告」があります。これは、基本の絵コンテは同じでも、リーチしているユーザーの属性や特徴によって、見せる内容を変えていく広告のこと。その人がどんな人か、どんな記事を見ているときに広告が表示されたのか、どんなシチュエーションで広告に接触しているのかなど、さまざまな点を考慮して、広告のクリエイティブをダイナミックに変化させます。まだ実験段階ですが、今後はエージェンシーと協業しながらさらに展開を進めていきたいと考えています。

–最後に、変化の激しいデジタル広告の業界で、今後、必要とされる人材についてはどのようにお考えですか。

 広告は、現実世界の中でユーザーが触れるものです。そのため、実世界に照らし合わせ、きちんと広告手段を考えることができる人材が必要とされるのではないでしょうか。たとえば、自分自身がある会社の広告を好ましいと思っていないのに、その広告をクライアントへ積極的に提案するなど、そうした行為は信頼を損ねます。当然のことですが、自分が日頃感じていることとクライアントへの広告提案があまりにも乖離していれば、ブランドセーフやアドフラウドを招くリスクは高まります。
 また、開放型のネットワークは危険性を伴っているということも、もっと意識する必要があると思います。それに対して、実践的な対策を取っているメディアやネットワークを選択することも必要ですし、単にエクセルの計算だけに依存してメディアバイイングを行わないことも大切。確かに広告コストは大事な指標ですが、その単価の前提となっている、形となって現れていない数字も把握しなければなりません。クリックや視聴完了率では見えてこない、動画広告の本質へ目を向けなければ、広告の真の価値を見定めることはできないのです。
 さらに、その広告がどういう形でユーザーへ配信されるのか。本当にビューアブルなのか、無理やり見せているのか、そうしたことも考慮にいれなければなりません。
 メディアプランニングを考える上で、考慮すべき事項はますます増えてくるでしょう。しかしこうしたことをすべて代理店任せにせず、今後、ブランドサイドも意識を高く持つ必要があるだろうと考えています。広告本来の目的に立ち返り、一体なんのために広告費を投下しているのか、そこに目を向け、広告の本質を見定める指標を確立する必要があるのではないでしょうか。

今村 幸彦氏
Teads Japan株式会社
Managing Director

1992年ソニー(株)入社。半導体・テクノロジー事業、フォーマットライセンスのビジネスに従事。シンガポールにて同社の事業拡大に参与し、帰国後Sony Computer Entertainmentにて、プレイステーションポータブル等事業の立ち上げに参画。2006年(株)電通入社。デジタル事業、海外ビジネス提携事業を旗揚げするなど要職を歴任。2014年Kenshoo, Ltd.(本社:イスラエル)入社。同社のアジア太平洋地域責任者としてAPACの事業戦略をリード。2016年8月、ビューアブル広告市場を世界的にリードするTeads.tvの日本法人Teads Japan(株)のマネージングダイレクターに就任。Teads Japanの日本市場における事業全般を統括。

デジタル広告の重要トレンド、「ブランドセーフティ」の考え方 CHEQ AI Technologies 日本法人カントリーマネージャー 犬塚洋二氏 / エグゼクティブアドバイザー Gadi Becker氏

インターネット広告配信における次世代型のアドセーフティプラットフォームを提供するCHEQ AI Technologiesが日本法人を設立したのは、2018年5月。以来、半年が経過していないにもかかわらず、その存在感と周辺からの期待はますます大きくなっている。世界的にブランドセーフティに対する関心が高まり、広告配信面への安全性の確認が急務とされている現在、同社が担うべき役割とは-。日本法人カントリーマネージャーの犬塚氏と、エグゼクティブアドバイザーを務めるGadi Becker氏にお話をうかがった。

ブランドにとって、本当の“セーフティ”とは?

–日本法人を設立して約半年。現在の状況はいかがですか。

犬塚 当社は広告の透明性、つまりアドトランスペアレンシーを主軸として事業を展開しています。現在、ウエブ広告の業界では、テクノロジーによるアドベリフィケーションが注目を集めています。DSPなどで配信された広告が、広告主のブランドイメージを低下させるようなサイトに掲載されていないか、また、ユーザーがきちんと認識できる場所にしっかり掲載されているかなどを確認し、配信をコントロールするためのツールを活用するといった取り組みは、日本でも2017年ごろから本格的に始まっています。多くのブランドがそうした事に対して関心を持ち、知識も深まってきたと感じます。

–そうした流れの中、御社が目指す方向性とは。

犬塚 CHEQはすべての広告主がインターネット広告を安心して活用し、マーケティング活動に従事できる環境を創り出すことを目的に、①ブランドセーフティの確保、②アドフラウド回避、③ビューアビリティの確保、の3つを柱に設定。軍事技術をベースとしたAIによる超高速情報処理技術や、NLP技術を駆使した「リアルタイム・アドセーフティプラットフォーム」を提供しています。特徴は、従来型のサービスでは、自社の広告がふさわしくないページに配信された後に検知するという事後報告型であったのに対し、CHEQは広告の配信そのものを未然に防ぐということ。交通事故でもそうですよね、事故を起こした理由を知るよりも、そもそも事故を起こさないようにすることの方が、もっと価値がある。これと同じで、CHEQのプラットフォームでは不適切な広告を事前に回避することを可能にしています。

–2018年8月には株式会社サイバー・コミュニケーションズとのパートナーシップ契約を締結し、同社によるCHEQのアドセーフティサービスの導入サポートも開始しています。

犬塚 現在、CHEQの本社はイスラエルにあり、支社をNYと東京に設置しています。そのうち、東京により多く投資されていて、2020年をめどにCHEQの機能を幅広くご利用いただける環境を創り、デジタル広告の領域において、ブランドが真に安心して広告出稿ができる状態を作りたいと考えています。

Gadi CHEQが目指しているのは「広告の透明性」と「コントロール」。最近までアドバタイジングの世界では、「デジタル広告は紙媒体やテレビと違ってコントロールができないもの」と考えられ、「不適切な広告を制御することはできない」と半ば諦められていました。しかし我々は、軍事技術で活用されてきたサイバーセキュリティーの技術やアルゴリズムを活用すれば、それは無理な話ではないと考えた。ブランドのバリューを守り、高めると共に、限られた広告予算を効果的に投下できるよう、デジタル広告の環境を整備するために、CHEQという会社を創ったのです。

–日本に対し、重点的に投資をしているのはなぜですか。

Gadi よく尋ねられる質問です(笑)普通、外資系の企業が世界へ進出しようとするとき、初めの一歩を日本に設定することはほとんどないでしょう。しかし私たちは、「まずは日本」と考えました。なぜかというと、日本のマーケティングは広告に限らず、非常に高度なレベルを極めているからです。また、CCIさんと組んでいても感じるのですが、アドセーフティに対する要求が極めて高く、非常に精密な設計が求められます。つまり、日本で我々がビジネスを成功することができれば、おそらく、世界のどこへ出かけても成功するだろうということ。日本において我々の真価が問われるだろうと考えています。

グローバルブランドを筆頭に、対策を取り始めている

–アドベリフィケーションというキーワードが注目されつつありますが、現時点では日本企業の中で、どれくらいが対策を練っているのでしょう。

犬塚 広告の安全性や透明性に対して関心を持っている企業は増えてきましたが、実際に対応している企業はまだそれほど多くないと考えています。ただ、昨年9月、NHKの『クローズアップ現代』でWEB広告不正の実態が取り上げられるなど、この分野に対する関心は急激に高まっています。2019年はこれらの問題に対する企業の対策が本格化する年になると感じています。

Gadi 現在、日本でブランドセーフティやアドフラウドについて関心を持ち、対策を取っているのは、大手のグローバルブランドがほとんど。日本のローカルブランドはまだこれからといった感じがします。しかし、市場でインパクトを持つグローバルブランドがデジタル広告の安全性や透明性に関心をもち、対策を始めれば、必ず他の企業も追随する。一旦その波が訪れればそれほど時間をかけずとも、多くの企業が対策をとるようになるのではと考えています。

–現在、予定しているサービスやプロダクトの方向性について、お聞かせください。

犬塚 現在、当社は先ほどお伝えした通り、ブランドセーフティ、アドフラウド、ビューアビリティという3つの側面からサービスを展開していますが、その一方で、媒体社側に立ってみるとマルウェアの攻撃に対する施策の重要性が増しており、当社では、あらゆる種類のマルウェアをリアルタイムに検知・アラートし、即時性のある対策を可能にするマルウェア検知機能、さらに、前述のクローズアップ現代などでも話題になった悪質なトラフィック詐欺を検知、異常トラフィックのソースを突き止めるトラフィックフラウド対策機能などを提供してまいります。現在、最終テストを行っており、2019年早々にはリリースする予定です。

フリーインターネットの未来を守るために

Gadi そもそもCHEQのファウンダーであるガイ氏がなぜ、この会社を創ったかというと、フリーインターネットのコンセプトを守るため。我々が日常的に無料でインターネットを楽しむことができるのは、媒体社側がデジタル広告をマネタイズできているからで、万一、主要なブランドが「デジタル広告は危なすぎるので、これからは出稿を控えます」と撤退してしまったら、たちまちフリーインターネットの未来は閉ざされてしまうでしょう。そのための、いわば“武器”として、我々はCHEQを創ったのです。

犬塚 現在、デジタル広告配信におけるブランド毀損のリスクは、およそ10%前後と考えられています。とはいえ、この数値自体が確実なものではなく、測定手段も明確に定められていいないため、もしかしたらリスク要因はもっと多岐に広がっているかもしれません。しかしCHEQのテクノロジーを活用することにより、そうしたリスクが明確に解消され、広告主は有効なインプレッションだけを買い付けることで、広告予算の投入を最適化することができ、また、媒体社は良質な広告インプレッションを、より高い価値で販売し、広告収益を拡大することが可能になります。

–CHEQ導入の実例を挙げてください。

犬塚 あるブランド様の例です。そのブランド様はブランド管理の観点から、事件事故や災害ニュース、芸能人の訃報など、広告掲載を回避すべきコンテンツが多く含まれるニュース系の媒体へは出稿したくてもできない、という状態になっていました。ところがニュース媒体はご存じの通り、膨大な読者を持つ、マーケティング上重要な媒体です。このジレンマを解消すべく、CHEQのタグを導入してもらい、ニュース媒体においてブランドにふさわしくない記事だけを取り除いて配信する、という施策をご一緒しました。結果として全体のインプレッションの25%くらいの記事が配信対象外として除かれましたが、残り75%もの広告インベントリが有効在庫として復活し、ブランド様は大規模な読者層へ新たにリーチをすることに成功しました。「ニュースは全部、危ないよね」と言ってすべて排除してしまうのではなく、好ましいページに効率よく出稿できる。これはブランドにとってだけではなく、媒体社にとってもポジティブなことです。

–今後のデジタル広告を考える上で、どのような人材が必要と考えますか。

犬塚 従来のブランディングというと、どうしてもアナログというか、トラディショナルな価値観でものを考えることが多かったように思います。しかし、ブランドを守るという視点で言えば、今後、アドベリフィケーションは非常に重要かつ不可欠なテーマ。ブランドサイド、媒体社サイドともにテクノロジーに関する知識を持ち、また、フレキシブルに対応することが必要でしょう。

Gadi 媒体社側の目線でいうと、ときどき、「ブランドセーフティを考えると、広告在庫が売れなくなるのでは」と心配する方がいらっしゃいます。しかし、ブランドセーフティの戦略をどう実現するか、この点を考えることで問題は解決可能です。たとえば、まずはブランドセーフティに対して非常に感度の高いブランドが安全な広告枠を購入する。その他の広告枠はパスバックシステムを活用して、代替広告を設定する。このように、さまざまなアプローチを実践することが可能なのです。ブランドにとっても媒体社にとっても、安全性とスケールの両方を叶えることができ、誰にもダメージを与えないのがCHEQの特徴。今後も広告の透明性とコントロールを使命に、日本の広告主や媒体社への本格的な導入を支援していきたいですね。

犬塚洋二氏
CHEQ AI Technologies
日本法人カントリーマネージャー

1995年立教大学卒、商社勤務を経て2000年1月エキサイト株式会社入社、広告営業部長などを経て、2011年グラムメディア・ジャパン株式会社入社、アドバタイジングセールス・ディレクター、執行役員を歴任、2018年5月CHEQ Japan入社。

Gadi Becker氏
CHEQ AI Technologies
エグゼクティブアドバイザー

エルサレム・ヘブライ大学の数学とコンピュータサイエンスの学位を取得。
1992年コンサルタントとして独立後、イスラエルの先端技術を日本へ紹介し、日本市場での立ち上げをサポートしている。OutBrain、SundaySky、Checkmarx、Panayaなど多くの企業の日本市場立ち上げの実績を持つ。2017年6月よりCHEQ本社のアドバイザリーボードとして日本市場への戦略立案を担当。自身も7年間の日本在住経験を持つ。

「利便性と透明性がもたらす顧客主義の世界」indaHash (IDH Media Ltd.) Country Manager 野村 肇氏

インフルエンサーマーケティングを牽引するポーランド発のindaHash。2018年5月に10拠点目となる東京にて事業をスタートした。世界中で登録しているインフルエンサー90万人以上、グローバルではコカ・コーラやマクドナルドなど、グローバルブランドと約2,000社の キャンペーン実績があり、世界No.1のプラットフォームとなっている(2018年11月現在)。2017年11月には約46億円のICOを成功させ、ますますの勢いを見せている同社は、今後のデジタルマーケティングをどう見るか。そのトレンドや今後の潮流をうかがった。

全世界で90万人以上。世界のインフルエンサーマーケティングをリード

–2017年にICOを成功させますますの勢いが見られます。現在の状況を教えてください。

 当社はindaHashアプリを介して企業の商品やサービスをInstagramなどのSNSで紹介する、またはブランドのニーズにあったコンテンツを提供するインフルエンサーと、企業・団体のフェアトレードを実現する仕組みを確立し、現在インフルエンサー数は全世界で90万人以上。コカコーラ、マクドナルド、ロレアルなどのキャンペーンを2,000件以上も実施してきました。
 日本でもサービスを開始し、現在、多くのインフルエンサーが登録しています。ここ数カ月は1週間に1万人くらいのペースで伸びています。indaHashのインフルエンサーの特徴は、属性が多様であるところ。通常、インフルエンサーマーケティングというと女性が優位なイメージがありますが、indaHashでは男性が47%、女性が53%と、ほぼ半々であることや、フォロワーの幅も広いことが特徴として挙げられます。そのためビューティからファッション、自動車、飲料、消費財、航空会社など、さまざま領域で当社のサービスをご活用いただいています。

–仮想通貨を発行した背景は?

 仮想通貨を使用するとインフルエンサーに支払う際の手数料を最小に抑えることができます。そのため、マイクロインフルエンサーとのビジネスを可能にし、インフルエンサーはより多くの報酬を得ることができます。

–日本ではまだキャッシュレスという文化が育っておらず、諸外国に比べて未成熟というイメージがあります。今後はそうした日本の文化も変化していくとお考えですか。

 私はこの2、3年のうち、日本では「利便性」と「透明性」という言葉をキーワードに、どんどん変化が見られるだろうと考えています。
 近年、消費者は“待てない体質”になっていると思います。たとえばオンラインショッピングで何かを購入し、それが自宅に届くまで2〜3日かかるだけで、「遅い!」と思ってしまう。Amazonで注文すれば翌日、早ければ当日に届きますからね。でも、10年くらい前はそんな感じもありませんでした。急速に生活周りのスピード感が速くなって、それに呼応して、“待てない人”が増えてきたのだろうと思います。
 そのため今後、日本ではますます利便性が追求され、より便利で、よりパーソナライズされたサービスが展開されていくだろうと考えています。AIやテクノロジーを駆使しながら、無駄を省き、ダイレクトに個々の生活者へ届くサービスがあらゆる領域で開発されていくでしょう。
 同時に、キャッシュレスという文化も日本で普及してくるのではないかと考えています。まだ日本は他国に比べて遅れていて、GDPにおける日本のキャッシュレス比率は約20%。約80%は現金が使われているということです。これは海外主要国と比べて大きく遅れ、米国や中国は50%前後ですし、スウェーデンに至っては90%に到達しています。インバウンド対応や現金貯蔵のコスト削減などを図るため、政府は2025年までにキャッシュレス比率を2倍に引き上げる目標を掲げていますから、日本でも少しずつキャッシュレス文化が広まるのではないでしょうか。

–そうなると、日本の利便性がますます高まるということですね。

 利便性が加速する一方で、透明性も尊重されなければならないと考えています。ブロックチェーンがその例です。ブロックチェーンは外部から改ざんすることが難しく、非常に安全性が高い。ブロックチェーンというと仮想通貨の取引を記録する技術というイメージがありますが、国によっては土地の登記や投票などに活用しているところもあります。こうした技術が、今後、私たちの生活にもっと深く入り込んでくるのではないかと考えています。食べ物を例にとれば、生産者が誰で、どこから発送されて、どの流通経路を通り、賞味期限はいつまで、などの管理情報を見ることができ、企業は不正がしづらくなってきたということから今以上に企業のモラルや道徳も求められるでしょう。

マーケットの主語が「企業」から「顧客」へ

–変化していく時代に対応するため、求められるサービスや方向性は?

 企業がマーケットを獲得する際、「規模」という視点はもはや、重要なキーとしては機能しなくなっています。一昔前なら、企業規模が大きくものをいい、マーケットを獲得するためにもっとも重要なファクターのひとつでした。しかし今後、マーケットを考える上で主語となるものは「企業」ではなく、「顧客」。その顧客と常に繋がっていられる仕組みを持つ企業が、マーケットを獲得する上で、大きな強みを発揮するのではないかと思います。
 その仕組みのひとつがSNSです。というのも、現在、企業が個人個人とつながるためのプラットフォームはSNSが中心です。作ってからマーケティングを考えるプロダクトアウト型だけではなく、デジタル上から顧客の声を聞き 開発を行うマーケットイン型の企業も急増しています。このような背景からも、SNSがますます重要な役割を果たすようになるのではと考えています。

–マーケティングの方向性がよりパーソナルになるということですね。

 一昔前の日本ではマス広告が絶大な力を持っていましたし、夕方6時にはお父さんが家へ帰って家族揃って夕食をとり、みんなでテレビをみて、同じCMに影響を受けました。しかし現在では家族形態もライフスタイルも多様化していますから、商材やサービスによってはすべての人に同じメッセージで同じ商品を示しても、あまり響かなくなってしまいました。デジタルマーケティングが活用され始めたころには「30代男性」などのようにセグメントし、戦略を考えることが一般化しましたが、今はそれですら間に合わなくなりました。
 こうしたトレンドが強くなると、コミュニケーションの形式自体も変わり、SNSにおいては企業もアカウントを持っているユーザーの一人に過ぎなくなる。つまり、「企業が大きくて、生活者が小さい」という従来の関係性が崩れ、むしろ、消費者の声の方が大きなウエイトを占めるようになってきます。おのずとマーケティングだけではなく、“守り”と言われていたカスタマーケアなどの領域においても重要な施策が必要となるでしょうし、顧客とのあらゆる接点が何らかのプラットフォームを媒介にして繋がっていくのではないでしょうか。

–自然と企業や企業人のあり方も変わりますね。
 
 たとえばマクドナルドのように、新商品を命名するのも顧客による総選挙で行うなど、消費者巻き込み型のマーケティングがもっと普及するのではないでしょうか。先ほど、日本人は“待てない体質”になっているとお話ししましたが、こうした傾向はあらゆる面で見られるようになると思います。つまり従来のバリューチェーンだと、新商品を市場に出し、売り上げを検証して、なぜ売れなかったのかと分析し、さらに改良品を世の中に出すまで相当な時間が必要でした。しかし、SNSなどで顧客と常につながっていることができれば、消費者のニーズをタイムリーにキャッチすることが可能となり、これらの展開をもっとスピーディに行うことが可能になります。
 これだけ競争が増し、荒波の中で生き抜かなければいけない社会においては、企業は短いスパンでトライアンドエラーを繰り返すことが必要になります。そのため、イノベーティブなチャレンジを恐れない、能動的な人材がますます求められるようになるでしょう。世の中の変化に迅速に対応し、より深く消費者を理解する。前例主義に陥らず、ゼロからイチを生み出してストーリーを紡いでいく。そうした能力が今以上に必要とされるのではないでしょうか。

–最後に、御社の今後の展開について教えてください。

 2018年10月から新しくインフルエンサーと企業のマッチングをもっと精緻化するサービスを開始しました。たとえばこれまでは「ビューティ領域」「トラベル領域」など大項目でインフルエンサーを活用してきましたが、Amazon AIとのインテグレートを行い、インフルエンサーの過去の投稿を分析することで、「マスカラの投稿が多い」「リップの投稿が多い」など、より細かくインフルエンサーの傾向を分類できるようになりました。これにより、もっと個別のプロダクトに寄ったキャンペーン展開が可能になります。
 もうひとつ、同月に「indaHash Deal」というサービスを始めました。これまではインフルエンサーへの報酬は、現金と仮想通貨の2種類でしたが、これらに続きブランドプロダクトやサービスのディスカウントなどで報酬をお支払いするというサービスです。「キャンペーンで商品を告知してくれてありがとうございました」で一時的な関係性を終えるのではなく、実際に商品のユーザーになってもらい、リアルなファンを増やす。こうしたマーケットプレイスの働きを強めながら、これからもより本質的なインフルエンサーマーケティングを実現していきたいと思います。

野村 肇氏
indaHash (IDH Media Ltd.) Country Manager

大手通信会社、ITベンチャー創業、米マーケティングテクノロジー企業を経て2018年5月から同社日本法人の立ち上げに参画。ビッグブランドを中心にコンテンツマーケティングやインフルエンサーマーケティングの設計から支援を行う。神戸出身。

「コンテンツ・マーケティングの変化とトレンド」株式会社アマナデザイン 取締役 釜田俊介氏

世界各国の出版社やデジタルパブリッシャーが保有する“約5000メディア、4000万コンテンツ”の良質なライセンスドコンテンツを、独自のマネジメントシステム「コンテンツ・マーケティング・プラットフォーム」を通して提供する米NewsCred(ニュースクレッド)。そのNewsCredと国内独占パートナーシップを締結したアマナデザインは、今、日本のコンテンツマーケティングについてどう見るのか。現状と未来を語ってもらった。

まさに、今はコンテンツマーケティングの過渡期

–米NewsCredとのパートナーシップ締結について、現状を教えてください。

 2017年に、アマナデザインは国内独占パートナーシップを締結し、NewsCredのソリューションを取り扱い始めました。その後、2018年9月に主催した「ThinkContent Tokyo 2018」を契機として、多くの企業様から引き合いをいただくようになりました。ご相談の内容はさまざまですが、ほとんどに通じているのが、「コンテンツマーケティングにはすでに着手しているけれど、行き詰まりを感じている」という点です。
 もともと日本のコンテンツマーケティングは、スモールビジネスからスタートしていて、たとえば開業医の方々や弁護士事務所が自分でブログを書き、SNSで流して、患者や顧客にきてもらうというようなスタイルが一般的でした。しかし、そのやり方を大きなブランドが取り入れようとすると、もともとターゲットの母数も違うし、伝えたいコンセプトも異なっている。その上、コンテンツはどんどん作らなければならず、ほとんどのブランドがそれを自前で用意しようとするので負担だけが大きくなる。何より、チーム全員で明確なKPIを共有できておらず、プロセスに対する組織内での共通認識が取れていないため、コンテンツマーケティングを実践する上で矛盾が生じているケースが多いんです。

–NewsCredを導入することによって、そうした矛盾が解決できるということですね。

 NewsCredには大きく分けて3つの利点があります。ひとつ目は、コンテンツマーケティングの実施を効率化するプラットフォームの提供。ふたつ目は、多種多様なテーマを網羅するコンテンツの提供。三つ目は、造詣が深い専門家によるアドバイザリーサービスの提供。つまり、NewsCredのフレームワークを採用すれば、おのずとブランド内でKPIが明確になり、 組織内での共通認識が生まれ、効率よくコンテンツマーケティングを行うことができるのです。
 北米ではBtoB企業の約9割がコンテンツマーケティングを実施しているというデータもありますが、国内の上場企業ではおそらくま5〜6割。アメリカと日本では企業文化が違うのでアメリカの水準まで到達するのは難しいかもしれませんが、今後、もっと多くの上場企業がコンテンツマーケティングを活発に行えば、日本独自の企業文化だけでは到底やっていくことができなくなり、もっと世界の潮流に近づくのではないかと思います。

”個人情報”から”コンテンツ情報”へ

–コンテンツマーケティングのトレンドについて、いかがお考えですか。

 近年、FacebookやAmazonなど、個人データの流出問題が相次いだことから、個人情報の取り扱いにはますます厳しい目が向けられています。そうなると、今後は cookieなどのアノニマスな個人情報を使ったマーケティングではなく、一つひとつのコンテンツがどれだけ人に見られていて、それがどのコンテンツの消費につながっていて、というような、コンテンツ自体の消費動向を見ながら費用対効果をあげていくのが主流になるのではと思います。
 その典型が、Netflix。彼らは顧客の個人情報を集めていますが、「誰が、どのコンテンツを好むか」というプライベートな情報よりも、「このコンテンツを観たユーザーは、次にどれを観るか」「何時間観たら、次のコンテンツへ行くか」など、コンテンツの摂取情報にフォーカスしてターゲティングをしており、その情報を元にオリジナルのコンテンツ制作に取り組んでいます。このような傾向が今後、日本でも強くなるのではないでしょうか。特に現代の日本では多様化が進んでいて、同じ20代の女性で、同じ地域に住んでいたとしても、まったく同じものに興味を持つわけではありません。このように、今後は個人情報よりもむしろ、非常に粒度の細かいコンテンツの摂取情報がキーとなるのではないでしょうか。

–コンテンツや興味の摂取は、まさにNewsCredが得意とするところですね。

 近年は、企業が嘘をつけなくなってきた時代です。というのも、ユーザーは「その企業が何を作るのか」ということより「誰が」「なぜ、それを作るのか」という文脈のコンテクストに注目し始め、コンテンツのクオリティが求められるようになってきたと感じるからです。
 ある調査で*、「生活者にとって信用できるソースは何か」と尋ねたところ、「知人からの口コミ」「第三者の口コミ」などに続き、「企業のウエブサイト」という回答が上がりました。企業が嘘をつけなくなってきたということは、そもそも企業が持っている価値を 正直にコンテンツ化しなければ意味を感じてもらえないということ。 この環境においては、コンテンツの「質」が求められるケースが多く、自前主義では必要最低限の「質」を担保することも難しく、
制作の場で培ってきた知見やリスペクトが求められる。そう考えると、日本国内のコンテンツマーケティングはまだ課題が多く、NewsCredのノウハウやアマナが求めてきた表現力が融合することで、 より本質的なコミュニケーション手段を提供できる機会はたくさんあるのではないかと感じます。

ブランドに対する深い愛と、チャネルを横断する視座

–今後、コンテンツマーケティングビジネスで求められるのは、どのような人材だと思いますか。

 コンテンツマーケティングのプラットフォームを提供するNewsCredサイドの視点で言わせていただければ、ブランドサイドに最も求めたいものは、ブランドに対する深い理解とこだわり。各ブランドの担当者様は、当然ながら商品やブランドに対して造詣が深く、その分野においては、誰よりもエキスパートであるとNewsCredでは考えています。そのことは、コラボレーションする外部のクリエイターやマーケターにも良い影響を及ぼし、自然とそのコンテンツマーケティングを活性化させます。もちろん、こだわりが強すぎても衝突が多くなってしまうかもしれませんが(笑)、ブランドやその商品に対する深い理解とこだわりはまず、コンテンツマーケティングを成功させるための前提条件となるでしょう。
 もうひとつ、SNSやマスメディア、屋外広告などあらゆるチャネルを横断して見渡せるリーダーも必要。「この人はSNSの担当」「この人はメルマガ担当」など役割が完全に縦割りになっていて、それらのイニシアチブが取れていなければ、ROIを追求することは難しい。セクションを超えて共通言語を形成し、全てのチャネルを連携させて顧客にアプローチする。こうした視座を持てる人が、今後、より重要なポジションを占めるではと思いますし、NewsCredが提供するプラットフォームを採用することで、おのずと各チャネルの共通言語化が進み、オムニチャネル戦略を追求することが可能になります。 NewsCredではこの分野のことを統合マーケティング(インテグレーテッドマーケティング)と呼び、今年からソリューションとして展開を始めていますが、こうした視点でも、多くの企業にソリューションを提供していきたいですね。

* Statista “Consumer trust in advertising worldwide from 2007 to 2015, by ad format”
https://www.statista.com/statistics/222698/consumer-trust-in-different-types-of-advertising/

釜田 俊介氏
株式会社アマナデザイン 取締役 

NewsCredコンテンツマーケティングアドバイザリーサービス担当。株式会社アマナインタラクティブ新卒入社。プロデューサーとして、モバイルメディア事業、コンテンツマーケティング事業などに従事。2016年より株式会社アマナデザインに転任。現同社取締役。