デジタル広告が本来、あるべき姿とは?〜広告主とメディアが理想的な関係を築くために 連載1 Integral Ad Science Japan株式会社 アカウント・エグゼクティブ 山口 武氏 / アウトブレイン ジャパン株式会社 顧問/アビームコンサルティング株式会社 顧問 本間 充氏 / アウトブレインジャパン株式会社 代表取締役社長 嶋瀬 宏氏

2019年、デジタル広告業界でキーワードとなるのは、「ブランドセーフティ」「アドフラウド」「ビューアビリティ」だ、とする声が頻繁に聞かれている。だが一体、それらの言葉はどれだけ正しく理解されているだろうか。対策をすでに始めている企業も増えているとはいえ、トラブルが起こった時の火消し役に徹していたり、リスクの計算に追われていたりすることはないだろうか。またデジタル広告の出稿には、広告主とメディアを中心に、多くの登場人物が関わっているにも関わらず、それぞれの立場で閉鎖的に状況を見ているという現状も、概念の実践を難しくしている理由かもしれない。
ここでは3回にわたって、デジタル広告が本来あるべき姿を追求。1回目の今回は「広告主とメディアが理想的な関係を築くために」というテーマのもと、さまざまな立場から議論した。

「ブランドセーフティ」という単語の2面性

嶋瀬 近年、日本でもアドフラウドやビューアビリティ、ブランドセーフティなどの概念が浸透し始めましたが、歴史的にはいつぐらいから起こったのでしょう。

山口 米P&Gの最高ブランド責任者マーク・プリチャード氏が「全ての広告に透明性がなければならない」と発言したのが、2016年4月。これを機に、業界では一気にブランドセーフティへの注目が高まりましたが、それ以前にも、2010年ごろから動きがあったように思います。それが、マーク氏の発言で一気に話題になりました。ただ、日本国内ではまだ、ブランドセーフティの対策をとろうとする企業が少なく、「それは海外の話でしょう」「日本には必要ない」と考える広告主が大半でした。しかし、2017年の終わり頃に東洋経済に記事が載り、また、2018年9月にはNHK番組でも特集された。その辺りから大きく広がり始めたと思います。

本間 そもそも当時、私たちが話題の中心としていたのは、「広告に対する対価はきちんと第三者機関によって評価されているのか」という話だったはず。当時はまだ広告が評価される仕組みが整理されていませんでしたし、広告主もどこか人任せという感じで広告を捉えていました。しかしP&Gのマーク氏が透明性の話を出したとき、世間の関心は「反社会団体にお金が流れる仕組みになっている」という話題に流れ、さらに、「お金が誰の手に入るか」ということよりも、「広告がどの位置に置かれるか」ということに関心が集まるようになった。つまりグローバルに考えたとき、ブランドセーフティという概念には、「広告料がどこへ流れていくのか、適切に使われているのか」ということと、「広告がどこに表示されるのか」という、2つがあるということなんです。

本間 充氏
(アウトブレイン ジャパン株式会社/
アビームコンサルティング株式会社)
嶋瀬 そうした二面性は今も変わっていませんよね。今、日本でブランドセーフティの話をしたとき、「お金がどこへいくのか」ということと「広告がどこに表示されるのか」ということでは、どちらの方が関心が高いのですか。

山口 圧倒的に出面、つまり、どこに表示されるのかということですね。当社としても、株主総会で「ブランドイメージを守っていないのか」と指摘されたり、どこかで炎上したりして、トラブルを鎮火させたいと相談を受けることが多いですね。

本間 しかし嫌な言い方かもしれませんが、本来、アドサーバーは「枠」じゃなくて「人」に対して広告を出していて、cookieをもとにアルゴリズムで画面上に表示している。ということは、その枠は不都合かもしれないけれど、それを見ている人は対象として当たっているということですよね。

山口 課金体系がCPCであれば、結局、クリックさえしてもらえればOKなので、出面はあまり気にされず、ビューアビリティも問題になりませんでした。とにかく広告が表示されれば良いので。しかし、不正インプレッションの話が日本で話題になると、「えっ、ロボットもクリックできるの」という事実が知られるようになり、初めて広告の本質について語られるようになりました。

嶋瀬 でも、「ブランドセーフティの基準は一体どこにあるのか」という問題はありますよね。たとえばテレビ広告でいえば、お昼のワイドショーの広告枠を買ったとき、場合によっては、広告の直前に事件や事故などの話題が流れるかもしれない。それはよしとするのに、ウエブ上でニュースサイトに広告を掲載するとき、事件や事故を報じる記事の隣に広告が掲載されるのは嫌だという。そうなると、日本の大手メディアはブランドセーフティの観点から言うと、ほとんどアウトになってしまいます。

本間 ブランドセーフティと言っても、ブランドの広告担当は広告の出稿や管理が主な役割なのであって、ブランドマネジメントの任務を負っていないことがほとんど。一体、どのような広告が自分たちのブランドを傷つけるか、理解できないはずなんですよね。もし、事件や事故を報じるメディアに広告を出稿する企業がいなくなれば、これはメディア業界にとって一大事です。そういうメディアは社会的な意義を帯びているのに、誰も応援する人がいなくなる。本来、広告主が広告料を出すのは、「頑張ってコンテンツを作ってください」という応援の意識もあったはず。しかし、事件や事故、天災などのニュース記事に誰も広告を出さなくなれば、そうした社会的意義を背負ったメディアは存続できなくなってしまいます。

山口 今、アメリカでも「クリックベイト」という言葉が流行っています。簡単にいえば、ウェブ上の記事に読者の関心を煽るようなタイトルをつけ、閲覧者数を増やす手法なのですが、現在では真面目にコンテンツを作っていたサイトでさえ、ゴシップネタが多くなってしまいました。こうした傾向は、メディアにいいコンテンツを作ろうというモチベーションを失わせますよね。

山口 武氏
(Integral Ad Science Japan株式会社)
本間 本来、アメリカで生まれた「広告の透明性」という概念を考えると、実は、そこではコンテンツの良し悪しは語られていなくて、お金が不適切なところへ流れないよう、アドベリフィケーションのフローでしっかりチェックしましょうということだったはず。でも日本はその本質を履き違え、自分たちのブランド広告が不適切な位置に表示されないよう、それだけを守ろうとしている。
一方、広告主は自分たちが広告を出稿したい場所について、何も意見を表明していない。広告はメディアに対する応援であると考えれば、広告主は自発的に「このメディアに広告を出したい」という場所を見つけ、喜んで出稿するのが本来の姿です。でもそういう意見を言わず、「ここには出したくない」と言って出稿先を削るばかりでは、日本のメディアは体力を失い、広告主も出稿する場所がなくなり、やがて広告業界そのものが疲弊してしまうでしょう。

メディアと広告主の、理想的な関係性とは

本間 今、広告のトランザクションはほとんどスマホを通して行われていますが、スマホのビューアビリティはどうやって計測するのですか。

山口 定義としては、PCでもスマホでも同じです。

本間 スマホとPCのスクロールは意味が違いますよね。そうすると、そもそもスマホのビューアビリティは意味があるのか、という問題が出てきます。当然、ユーザーの態度変容も出てきますし、どこかで目に留まった段階でクリックされればいいのであって、スマホではビューアビリティ自体、もしかしたら不要な概念かもしれない。でもそうした違いを整理せず、「うちはビューアビリティを重要視しています」と、ずっと言い続けているところも多い感じがしますね。

山口 もちろん、ビューアビリティの観点で言うと、ユーザーの閲覧状況やデバイスも考慮しなければなりません。当社もPC用とスマホ用でデータセットを切り分けていて、たとえば1秒、広告が見られたとしても、どのようなデバイスで、どのように閲覧されたのか、データを分析しなければならないと思います。

嶋瀬 ユーザーの行動を促す変数は確かにたくさんありますが、たとえばCTRや総数が変わらないとした時、ビューアブルの時間が2倍になったらエンゲージメントはこう変わる、というデータは出ているんですか。

山口 それはまだですが、ぜひ作りたいですね。

本間 新しい指標を作り、それを制御変数として、メディアに使ってもらいたいですね。でもそれ以上に大切なのは、もっとラフに、広告主にどんな広告を作りたいのか、落ち着いて考えてもらうことじゃないかと思います。「このメディアはスポンサードしたいから、ぜひ、ここに出稿したい」という希望もあるでしょうし、「この広告配信方法にお金を出したい」と言うのもあるかもしれない。広告主は、メディアや広告業を応援する気持ちがないと、お互いwinの関係になれないと思うんです。
私たちは立場上、広告主よりも一歩先に出て、常にバージョンアップしたいと思っているけれど、できれば広告主からの意見も欲しい。それに対して、メディアは「自分たちにはこれくらいの価値がある」と提案する。インターネットができて35年。そろそろこうしたフランクな関係ができてもいい頃だと思うんですよ。

山口 同感です。現在は問題が起こった時、どうチューニングするかということに重点が置かれています。でも、「本当は何がやりたいのか」というところから広告を組み立てていかないと、結果的に同じようなメディアプランばかり、できてしまうことになる。ブランドにとって、どんな広告キャンペーンが必要で、そのための指標として何が必要、など、一つ一つ順を追って考えていくことが大切。その上で、「うちはCPCを重視する」とか「CPMでやる」とかの方針が決まるでしょうし、やり方は各ブランドによって異なるはずです。デジタル広告は決して数字のゲームではありませんから、まずは、本質的なところに戻ってくる必要があると思いますね。

嶋瀬 たとえば、広告のクリエイティブが違っても、広告の効果を測定したエクセルの表ではすべて一律に扱われてしまうという問題もありますよね。

嶋瀬 宏氏
(アウトブレインジャパン株式会社)
本間 アメリカでは、IAB(Interactive Advertising Bureau)が中心となって、広告の測定方法について積極的に議論していますよね。「こういう部分を測定した方がいい」とか「リスク回避のためにここに注目した方がいい」とか。一方、広告主も学びを深めて議論に関わっていますが、こうした議論はアメリカで盛んに行われているんですか。

山口 頻繁に行われています。当社もそうした集まりに呼ばれることがあります。IABはどちらかというとメディアサイドの組織が多く加入しているのですが、当社のようなベンダーが議論に加わることで広告業界自体の風向きが大きく変わったのを感じます。広告の出稿先としての価値が高まり、単価が上がったとか。

本間 メディアの中でも良いメディアが悪いメディアを淘汰するようになり、良いメディアに多くのお金が入る仕組みができてきたということですか。

山口 そうなりつつありますね。同時に、良いメディアに対する評価基準や認識も、標準化してきているように思います。もちろん、良いメディア、悪いメディアの基準は広告主によって変わりますから、主観的にマッチしていればいいのだと思います。

嶋瀬 当社の話をすると、アウトブレインはプレミアム媒体をネットワーク化しているので、たとえば人気のあるYouTuberの動画に出てくる広告と、ユーザーが興味を持って検索しているサイトに出てくる広告では、同じ秒数、表示されたとしても、価値がまったく違ってくると思うんですよ。でもエクセル上の数字にすると、その違いが消えてしまう。分析するマーケッターだって、一消費者として考えてみればその違いはわかるはずなのに、当事者となって数字を前にすると、その意識が欠落してしまうんですね。そういう意識がすべての人に共有されると、真面目に優れたコンテンツを作った人が高く評価される社会になるのではと思うのですが、そうなるにはどうしたらいいのでしょう。

山口 ブランドとユーザーの接点をどこに作るのが適切か。それを考えながら広告を組み立てないと、エクセルに落としてからでは難しいですよね。

本間 なんとなくインターネットのメディアスペースが無限にあり過ぎるから、全部プログラマティックでやらなければいけないと考えている広告主が多いのかもしれないって思うんですよ。だから、「ここには広告を出したくない」というメディアを、まるで砂場の山くずしのような感じで削り取っている。でも本来は、絶対に広告を出したいメディアがあるはずですし、「このライターさんに記事を書いて欲しい」とか、「このYouTuberはスポンサードしてあげたい」とか、そういう希望もあるはず。積極的に出したいところと出したくないところを少なくとも分けなくちゃいけないのに、それすらもやっていないのが現状だと思うんです。

山口 確かにやっていませんね。

本間 旧来のテレビ広告では、当たり前のようにそうしたことを考えていたはずなんです。無限にお金があるわけじゃないですから、必然的に出したい広告枠を選んでいた。でも、インターネットの場合は出したくないものを削る方を優先にしている。こうした不自然なセレクションがよくないと思います。
アメリカではIABのほか、NAB(National Association of Broadcasters)という団体もあって、「こういうメディアに広告を推奨します」と意思表示しています。つまり、メディアは自分で自浄作用を働かせ、また、広告主も自分たちで意思を表明し、対等の関係にあるんです。でも日本はそうじゃない。日本の広告主はメディアに対して意見を表示してはいけないと思っているのか、たとえば2年前、DAZNがJリーグの全試合の放映権を獲得した時、日本の広告主は何も発言しませんでした。広告主はメディアに地殻変動が起きた時に何も言っちゃいけないと思いこみがちです。でも本来、広告主だって意見を言いたいはずですし、メディアも広告主の意見を聞きたいはずなんです。

今、メディアが殺され始めている

山口 言えていないのはなぜなんでしょう?

本間 インターネットの広告担当が、テレビ広告などの買い付けを知らないからじゃないでしょうか。なんとなく、広告はメディア評価で選ぶべきだと思っているんだと思います。でもそもそも、テレビとインターネットでは広告枠の買い方が基本的に違いますし、各メディアの特性を正しく判断できているかというと、そうとも言えない。そろそろ、テレビや新聞など、従来の4大メディアの広告担当と一緒に議論すべきタイミングだろうと思います。テレビや雑誌にもブランドセーフという概念はあるわけですから、互いに学ぶべきことも多いでしょう。

嶋瀬 たとえば、薬物所持で逮捕された芸能人のニュースを報じた番組の後に広告が流れても、ブランドセーフティとして問題があるとはされないのに、これがインターネット広告になると、その記事の隣にあるバナーはブランドセーフじゃないと言われる。メディアが変わると、どうしてブランドセーフの基準も変わってしまうのだろうと、いつも疑問に感じます。

本間 おそらく宣伝部の担当者が、メディアを横断してブランドセーフティを考えていないからじゃないでしょうか。そもそも宣伝部の仕事は、インターネット広告の広告価値を最大化することであって、ブランドを毀損するリスクに対して絆創膏をはるだけじゃないですよね。でも今はすっかり本業が逆転されてしまっている感じがします。

山口 テレビ広告にインターネット広告のようなブラックリストのやり方を当てはめれば、薬物所持した芸能人のニュースが出るかもしれないから、そのチャンネルごとブロックしてしまおうという話になる。でもそれはやり方として正しくないですよね。

本間 もし、薬物所持した芸能人のニュースに広告を載せるなら、たとえば薬物被害を抑止する広告なら価値があると思います。でもそういう議論がされず、一括して広告を載せない、となる。だったら、そうした事件を報じるニュースは世の中にない方がいいのか、という議論になりますよね。
しかしかつて、アメリカのサンノゼで地方新聞が廃止された時、街はどうなったかというと、治安が悪化し、犯罪件数が増えたんです。それは事件や事故を報じる媒体がなくなったから。広告主は、事件や事故など不適切なことが報じられることにも社会的意義があるということを理解すべき。そのニュースや記事を見る人にも、学びや気づきがある以上、そこに掲載される広告は決してブランドを毀損するだけではないと思うんです。

嶋瀬 事実報道かフェイクのニュースか、その本質を見極めないで一律、広告の出稿は不可とするのは非常に違和感がありますし、長期的にみて、広告の将来を閉ざすことになりますね。

本間 今、広告主が理解しなければならないのは、広告主がメディアを殺し始めているということ。これはとても危険で、広告出稿金額がなくなるということはメディアがなくなるということです。それでも広告主は広告を出稿したいのであれば、みずからメディアを育てなければならない。たとえば価値が高いとわかったメディアには相応の広告料を支払うなど、責任の所在を明確にし、「誰が、なんのために広告を作るのか」といった本質に立ち返って、もう一度考えなければならないと思います。

山口 アドベリフィケーションベンダーの立場で言うと、間違ったメッセージを出しているベンダーもあるかもしれないなと思います。つまり、「このツールを使うと広告費を20%削減できますよ」など、誘惑的な言葉で広告主に声をかけるとか……。そうすると、アドベリは警察官のように違反や不正を取り締まるもののように受け止められてしまうんです。でも、私たちが提供しているのはあくまでもツールであって、いわばカーナビのようなもの。どうすれば目的地へ、早く正確にたどり着けるかと考える手段として使ってもらえれば、本来、望ましいメディアにお金が流れるようになります。

本間 いずれにしても、企業ごとに戦略があるでしょうから、横並びの結論が出るものではありません。そろそろ企業ごとに「自分たちにとってのアドフラウドとは何だろう」「ブランドセーフティとは何だろう」と、整理しなければならない時期になったということでしょうね。当然、大手ナショナル広告主のロジックをそのままコピーすることはできませんから、自分たちなりの意思を表明する時代に入ったのだろうと思います。

山口 武氏
Integral Ad Science Japan株式会社
アカウント・エグゼクティブ

ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部卒。2006年、Oddcast, Inc. 入社。2008年、Experian Marketing Solutions, Inc(ニューヨーク本社)にて大手広告主のマーケティングキャンペーンのサポートや戦略的コンサルティング業務を経験し、2011年に帰国、コムスコアジャパン株式会社にてクライアントサービスマネージャーとしてアドベリフィケーションやネット視聴率など多岐にわたるソリューションの営業サポートから実施までの実務を担当。2015年4月より現職。

本間 充氏
アウトブレイン ジャパン株式会社 顧問
アビームコンサルティング株式会社 顧問

宣伝会議 デジタルマーケティング実践講座、デジタルソリューション営業基礎講座、データマーケター育成講座、広告効果測定講座、メディアプランニング基礎講座、マーケターのためのKPI設定講座講師。
1992年、花王株式会社に入社。1996年まで、研究員として、スーパー・コンピューターを使って、数値シミュレーションを行う。社内で最初のWebサーバーを立ち上げ、以後本格的に業務としてWebに取り組む。2015年に、アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの事業会社のマーケティングの支援、Webコンテンツ管理システム導入を行う。その他、ビジネス・ブレークスルー大学講師や、東京大学大学院数理科学研究科客員教授(数学)、内閣府政府広報アドバイザー、文部科学省数学イノベーション委員などを務めている。

嶋瀬 宏氏
アウトブレインジャパン株式会社
代表取締役社長

2001年三菱商事株式会社入社。国内外における新規プロジェクト開発などを担当。同社退職後、新規事業のインキュベーション・コンサルティングを行う株式会社ステラ・ホールディングスを設立。2013年11月より世界最大級のディスカバリー・プラットフォームを提供するアウトブレイン ジャパン株式会社の社長に就任。『適切なユーザーに適切なモーメントで』コンテンツを届ける同社のプラットフォームを通して、オンラインパブリッシャーとコンテンツマーケティングを展開するさまざまな企業をサポートしている。

freee流グロースハック。月間30本もの施策を行う秘訣とは。

GHJインタビュアー(以下、GHJ):本日はよろしくお願いします。早速ですが、まずはfreee 社の事業と提供するサービスについて教えてください。

轡田 哲郎氏(以下、轡田):スモールビジネスに関わる方々がクリエイティブな仕事にフォーカスできるようにするということをミッションとして、主にバックオフィス業務のクラウドサービスを提供しており、「クラウド会計ソフト freee」、「クラウド給与計算ソフト freee」、「会社設立 freee」の3つのサービスがあります。他にもオウンドメディアなどいくつかのサイトを保有しています。

※参考:会計ソフト freee
鈴木 幸尚氏(以下、鈴木):加えて、10月から始まるマイナンバーに関するサービスも現在立ちあげているところです。

GHJ:複数サービスがあるんですね。その中でみなさんはどのようなお仕事をされているのですか?

グロースハックを専門で行うスペシャリストチーム

IMG_2048
・左からエンジニア轡田氏、エンジニア大平氏、マーケティング鈴木氏

轡田:freee はセールス、マーケティング、開発、サポート、UX…などのいくつかのチームで運営していて、私たちはその中でグロースハックに特化したグロースチームに所属しています。

GHJ:グロースハックに特化したチームですか。みなさんの職種とチームにおける役割を教えて頂けますか?

轡田:エンジニアでグロースチームのリーダーをしています。もちろんエンジニアリングもやるのですが、企画・プランニングから、作って、リリースしたものを分析して…というところまでやっています。

大平 武志氏(以下、大平):エンジニアの大平です。基本的には企画から実装、あとは分析できるようにデータの出しわけなどをメインで担当しています。

鈴木:マーケ側のグロースを担当している鈴木です。もともとマーケティング担当としてAdWords運用などをやっていたので、そういった知見を活かしたグロースをメインでやっています。エンジニアリングはやりませんが、その前段階の企画や、オンラインマーケティングの実装はやることもあります。

轡田:この3名に加えてもう一人、山田というデザイナーもいれた4名でグロースチームです。あとはチーム外でデータマイニングアナリストがいて、施策に必要なレポート出したりしてくれています。

GHJ:自己紹介ありがとうございます。それでは早速グロースチームについて色々聞かせて頂きたいと思います。

GHJ:グロースチームでは主にどのサービスや領域を担当しているのですか?

轡田:グロースチームは、先にお話した「会計freee」、「給与計算freee」、「会社設立freee」の3つのサービスすべてを見ています。お客様とのコミュニケーションや、LPの改善施策まで何でもやります。継続して利用してもらうためにどういう要素が必要か、そのために何をすべきか考えて、実装まで行なっています。

GHJ:特定サービスにフォーカスするのではなく、3つのサービスに横断的に関わっているんですね。

「エジソン」とにかくアウトプットし続け、成果に繋げるチームカルチャー

IMG_2078
GHJ:グロースハックを担当する専門のチームがあるというのは珍しいと思うのですが、チームのミッションとして掲げているものはなんでしょうか。

轡田:チームミッションは、ユーザーにサービスを継続して利用してもらうために、価値を提供し続けることです。それを表すキーワードとして「エジソン」というものがあります。エジソンは大発明もしていますが、その発明に至る過程で数多くの失敗もしているのは有名ですよね。彼は失敗を失敗と思っていなくて、「うまくいかなかったことを発明した」と言っているんです。

グロースの中でもうまくいかないこともありますが、たくさんの施策をうって、学習しながら、やれることはスピード感をもってどんどんやっていく。そこから学習したことを活かしてさらに施策をうって、成果につなげていく。とにかくアウトプットしていくチームでありたいという思いから、それを言い表すキャッチーフレーズとして、「エジソン」を掲げています。

GHJ:面白いですね。このフレーズはどうやって決まったんですか?

轡田:チーム作りをするときに、メンバーで半日会議室にこもって、互いを知るために個人的な話もしたりしながら議論しました。そのなかでスピード感や、失敗から学んで改善していく、そういったチームであることを大事にしたいという声が多く出て、そこで鈴木が「それならエジソンですね」と。彼はマーケティングの天才なので、キャッチコピー考えるの得意なんです(笑)。

鈴木:「エジソン」一択でしたね。

GHJ:そうなんですね、さすがです(笑)。

状況に応じてチーム体制を変えていく柔軟性

IMG_2054
GHJ:グロースチームが発足するに至った経緯や、今のメンバー構成の理由などについてお聞きしてもいいでしょうか。

轡田:1 年ちょっと前くらいからグロース専門のチームとしてやっています。もともと数字をみてどれくらいのユーザーが継続利用しているのか、有料ユーザーになっているのかなどを追えていなかったので、そこを追っていくチームを作って仕組みを整えていった方がいいということで立ちあげられました。

最初はセールス担当なども含めた5,6名のチームだったのですが、ちょっとずつ変わってきました。メンバー編成にエンジニア以外のマーケやデザイナーも入ってるのは、作るだけでなくデザイン・マーケティングの部分からもサービスを全体最適していく、というところもありますし、このチームだったら何でも出来る、ということもあります。デザイン、UI/UX、開発、それを広めていく、というところまで一貫してできるチーム編成ですね。

GHJ:チームメンバーや構成が変わっていったきっかけは何だったのですか?

轡田:これといったきっかけというよりは、必要なときに必要なメンバーでやれるようにしていった結果ですね。必要なときに、適宜巻き込んでいく、というかたちでプロジェクト毎にメンバーをアサインしたりもします。

GHJ:そうなんですね。皆さんはグロースチーム専任なんですか?それとも他の業務も行なっているのですか?

轡田:私と大平はグロース専任でやっています。 鈴木と山田は他チームと兼任してますね。

GHJ:チームを兼任するのってバランス保つのとか難しそうですね。マーケチームとグロースチームでの住み分けってどのように線引しているのでしょうか。

轡田:サービスプロダクト内をメインで考えるのがグロースチーム。プロダクト外を担当するのがマーケチームという分け方ですね。ただ、マーケは、プロダクト内にももちろん絡んでくるので、はっきりとした線引きはしてないですね。

GHJ:なるほど、ありがとうございます。

月間30本の施策をまわす高速PDCAとは

GHJ:さて、チームミッションやチーム運営の変遷について聞いてきましたが、実際の業務の進め方について教えて頂けますか?

轡田:毎月1回、施策の案出し会議をします。ブレストみたいな感じで。そのなかでフォーカスしていくエリアを決めて、プロジェクトごとにリーダー(プロジェクトオーナー)を決めて、そのオーナーが施策の優先順位を決めて、進めています。

GHJ:そうなんですね。施策の案だしはどのように行なっているのですか?

轡田:他サービス事例をヒントとすることもありますが、本質は「課題解決」ですね。データをみたり、アンケートをみたり、サポートへの問い合わせ内容をみたり、ユーザーテストを実施したりしてユーザーの抱えている課題を把握して、そこからソリューション(施策)を考えています。

BtoBの会計ソフトって、選ぶときに皆吟味するからハードルが高いんです。だから単にクリック率とかを考えるだけでなく、何が課題で、どうやったらそれを解決できるのかを見つけ出すのがとても大事なんですよね。

GHJ:なるほど。月にどのくらいの施策を行なっているのですか?

轡田:細かいA/Bテストなども含めると月30本くらいの施策を行なっています。

GHJ:30本もですか!すごいですね。では常にいくつもの施策を動かしているのですか?

轡田:エンジニアが2人なので同時に動かしているのは2つくらいですね。

GHJ:並行して施策を行うと2つのKPIがバッティングしてしまうこととかないんですか?

轡田:施策の順番はかなり気をつけてますね。優先順位付けをする段階で同時に比較できないものは外すようにしています。

GHJ:優先順位付けはどうやっているのですか?

轡田:インパクトの大きいそうなところからですね。週次で施策対象を切り替えたりしてます。

GHJ:KPIとしては何を見ているのでしょうか。

轡田:KPIとしてはユーザー数と継続率が大きな2つですね。当社サービスの場合は、ユーザーも法人の方と個人事業主の方ではニーズが違うのでそこでも分けています。その他にも
データ入力率とかそういったところも見ています。

GHJ:施策をみる期間はどのくらいなんですか?

轡田:長くても1週間くらいですね。短いものだと2日くらい。統計的な有意さを求めるとサンプル数は多い方がいいのはもちろんなんですが、それだと短期間で改善できないので、(サンプル数の多さによる)厳密さよりもスピード感を重視していて、6割でもいいから出そうということを大事にしています。

裁量権の大きさがスピードに、そして成果に繋がる

IMG_2067
GHJ:とにかくスピード感をもって取り組むと。施策の進捗管理はどのように行なっているのですか?

轡田: 少人数のチームということもあってフレキシブルにやってます。Googleのスプレッドシートにバーっと施策を出して、優先順位やリリース日などをメモしてやっています。細かい進捗確認は毎日の朝会で確認していますね。実際に作るもので言うと半日から1日でやるものが多いですね。

GHJ:施策を行う決定権はチームにあるんですか?なかには会社の承認が必要なものもあるかと思いますが。

轡田:はい、チームに権限があるので、会社の承認がなくてもどんどん進められます。これくらいしないと普通じゃないスピードで改善していくのは無理ですね(笑)。

鈴木:最初はお伺いを立てていたのですが、それじゃ全然進まなくてダメだと。それこそチームができたばかりの時はサインアップフローの変更に数ヶ月もかかって。面白いのは、綿密に考えた案だったとしても結果が必ずしも良くなるとは限らないということですね。逆に、ラフにやった方が結果が良かったです。このままじゃダメだから、とにかく小さい施策でもいいからスピードもって繰り替えて改善していこう、となっていった感じです。

柔軟なチーム体制による他部署との関わり

GHJ:先ほどグロースチームとマーケチームの住み分けの話がありましたが、実行する施策がチーム外からくることはあるんですか?

轡田:それはありますね。サポートチームから「最近こういう問い合わせ多いんだけど…」とか、セールスチームから「こういう数字が欲しいんだけど」とか。

GHJ:そういう場合どう対応しているのですか? 既に進めている施策との兼ね合いもあると思いますが。

轡田:費用対効果を考えてグロースチームで優先順位を付けて対応します。もともとスケジュールをガチガチに固定していないので、インパクトが大きそうなものが突然入ってきたらそっちを優先して対応することもありますし。そこらへんはかなり柔軟に対応していると思います。

失敗をどう次に活かすのか。諦めないことが成功につながる。

GHJ:なるほど、ありがとうございます。施策について事例を教えて頂けますか?失敗したもの、上手くいったものの両方教えて頂けると。

鈴木:先ほどの数ヶ月に及ぶサインアップフロー変更プロジェクトが1つ。あとは2年間ずっと変わらなかった初期登録画面でのA/Bテストですかね。全然違う20画面くらい試しましたね。やっていく上でいろんな知見が貯まり、改善するまで諦めずにやり続けてようやく改善できました。

上手くいかなかった事例で共通していたことでいうと、「なんかダサいから変えよう」みたいな感じでコンセプトがふわふわしている場合でしょうか。こういうケースはダメだった時も何かダメだったかの学びが少ないですね。逆にコンセプトが明確な場合は、仮に失敗しても次に活かせることが多いです。

轡田:うまくいった事例でいうと、サインアップフローの改善でしょうか。「自動で経理」という機能があり当初はそれを推していたのですが、サービスが成長するにつれて、またユーザーが増えるにつれて、それ以外の機能も充実してきたので、思い切ってその機能を推しすぎないようにしたら離脱率が下がったり、いろんな数字が改善しました。

GHJ:なるほど、強みとして推しだしていたところを思い切って変えるって勇気が要りますね。

※GHJ注)
その他にも色々なグロース事例について話してくれました。それらの事例については別サイトの「継続的なグロースハック「クラウド会計ソフトfreee」のユーザビリティ改善事例 | freee 株式会社」で紹介しております。

最後に

GHJ:色々お話頂きありがとうございます。最後に改めて、freee のグロースチームが大切にしていること、読者の皆さんに伝えたいことについて教えて下さい。

轡田:そうですね…グロースハックを行なっていく上で、というかグロースハックに限ったことでは無いと思いますが、「ユーザーにとってマジで価値あるか」をとことん突き詰めることが大切だと思います。グロースハックというのは本質的にはユーザーの課題解決だと思うので。あとはエジソンのようにあきらめない心と好奇心旺盛であることと。これらをもってやり続ければ伸びていくんじゃないかなと思います。
IMG_2076

まとめ

今回はfreee 社のグロースチームに、グロースハックの考え方やチーム発足の経緯、チーム運営の仕方についてインタビューさせて頂きました。インタビューのなかでいくつも事例が出てきたりと(残念ながらここではご紹介できないものもけっこうありました。)、本当に裁量権とスピード感をもって施策を行なっていることに驚かされました。チーム作りやプロジェクトの進め方など、読者のみなさんがグロースハックを行なっていく上でヒントになるものがあるのではないでしょうか。

シロク福山氏、向山氏インタビュー「最小工数最大成果」でクライアントのグロースハックに取り組む

グロースハックに関連するソリューションを起点にして多角的に事業展開するグロースハックカンパニー

片山:本日は取材のご機会ありがとうございます。それでは最初に御社事業内容のご紹介をいただいてもよろしいでしょうか。

IMG_0539

株式会社シロク 取締役 福山敦士 氏(以下:福山):はい。シロクは「グロースハックカンパニー」としてグロースハック(による事業推進およびそのサポート)を打ち出した会社になっています。企業様のグロースハック課題、例えば(アプリやWEBサービスへの)集客、活性化や継続支援、収益をどう最大化するかといったテーマを主に開発視点からサポートをしていく会社になります。

福山:その中でサポートさせていただく方法は大きく分けて3つあります。1つは最も注力しているグロースハックツールの提供事業です。例えばGrowthPushといった配信ツールや、GrowthAnalyticsといった計測ツールなど多数のグロースハックツールを提供させていただいております。

2つ目は(そのツール等で計測されるサービスの)数字をみながら行うコンサルティング事業です。これは数字を見ながらビックデータ解析などを請負で行い、継続率の向上に効く指標を見つけたり、それをモニタリングして改善策を出し、最終的には施策を開発に落とし込むところまで含めてご提案させていただいております。

3つ目はグロースハックを加味した受託開発サービスを提供させて頂いております。ツール/コンサル/受託開発の3つが弊社の事業になっております。

片山:ありがとうございます。グロースハックに関連するソリューションを起点にして多角的に事業を展開されているということですね。お二方の今の役割はどういったことになるのでしょうか。

福山:私はツール・コンサルティング・受託開発の営業をやらせていただいています。

株式会社シロク 取締役 向山雄登 氏(以下:向山):私はクライアントに実際にツールを持って行ってどのように使っていくのかコンサルティングを行っている担当です。また、そもそも会社としてどういうツールを(ソリューションとして)作っていくのかということも含めて、その責任者をしております。

福山:このように説明させていただいて「グロースハック」というと聞こえはかっこ良いのですが、やることは地道な作業が多いので、ツール1つにとってもどういうデータが取れるのかとか何を導き出すのか日々時間をかけて考えています。

開発体制の見直し・サービスの運用改善で売上を500%改善

片山:私は御社と普段から頻繁に情報交換しておりますので、個人としては正直何回もお伺いしているですが、ぜひこのメディアの読者の皆様にもご紹介可能な案件や、事例/イメージを教えていただいてもよろしいでしょうか。

IMG_0537
福山:そうですね。某コンシューマーゲームのクライアントの話ですが、「スマートフォンアプリで収益をあげていきたいけど、中々スマホゲームというかオンラインゲームのノウハウが無いからうまく売上があげられない。」というご相談をいただいたことがありました。

そのクライアントは割と版権の権利モノの良質なコンテンツが多数あったので売上が伸びるとお考えだったのですがうまくいっていないということで、運用改善でスマートフォン事業の売上をどうあげていくかを弊社が担当させていただきました。

最初は数字を見て分析運用すると考えていたのですが、その前に開発体制のところから見直しさせていただきました。また、開発会社が複数に渡ってアプリとサーバー等で担当を分業して作っている体制だったので、もっとたくさんミーティングを開きましょうという提案をして、プロジェクト全体がちゃんと数字をあげるためにどうするかということを一人一人考えて行けるような数字の可視化のスキーム作りや、ミーティングの仕切りもやらせていただきました。

そうして、全員が「ちゃんと数字を上げていくための開発をしよう」、「~という分析をしよう」という意識を持っていけるような体制にしていきました。

片山:ゲームサービスの直接的な数字を介在するだけでなく、ちゃんと役割を明確にするところ(より上位の組織課題のレイヤー)から入っているということですね。

福山:はい。そしてその後に離脱率の分析などに入らせていただきました。最初は数値を取っているのに(集計だけで)分析をしていないとか、ずっと同じ数値を見ているだけところがありましたので、どこに問題があって、そのためにどういう改善策を考えていくことがパターンとして考えていけるかまでサポートさせていただいていました。

そうするとだんだん参加しているクライアントさんや開発会社のメンバーも勘所がつかめてきて、段々とそのミーティングが盛り上がり、サービスの売上も最終的に500%改善しました。

片山:チームとして盛り上がっていくと数値も大きく伸びるものなのでしょうか。

向山:急激にその成果があがるのではなくて、まずは徐々に成長していく仕組みをいれていくという感じです。

福山:まさに「階段型」と言われていて、1%、2%と改善してそこからまた数字が伸びていくみたいな、階段状に数字が上がっていくようなイメージになっております。

片山:その事例にしていただいたゲーム会社さんは版権持っているということで、大きな会社だと思います。そういう大きなクライアントの中でツールを入れてグロースハックのPDCAを回すと言うのは、割と(コミュニケーションや運用の)負荷が大きいから社内で導入していく時は大変だと思うのですが、営業としてソリューションの導入をしていく工夫があったら教えていただきたいなと思います。

手法と設計をパッケージで提供し、サービスをグロースハックさせる

福山:ありがとうございます。ツール単体で「PUSH通知ができるツールです!」というと割と嗜好品に近く見えるツールが多いのですが、組み込む方法や使う方法等の作っていく部分と、どういう分析や改善手法の設計があるか頭で考える部分の2つ両方の部分を弊社が提供して、そこまでサポートすることで入れやすくしております。

IMG_0566
片山:手法と設計を2つをセットでパッケージ的に提供できると導入のハードルが下がっていくということですね。他のASPやSDKでも言えそうなある種普遍的な示唆ですね。

福山:そうですね。大体ツールの説明をすると「素晴らしいツールだね!でもどう使っていいのかわからない。使いこなせるかわからない。」とおっしゃるクライアントさんも多いので、その課題に関しては、コンサルという形で使い方の部分をサポートさせていただいております。

また、「いいツールだけど、開発リソースが無いなあ」と言われたら、「では組み込む部分までやります。」という形でその2つの部分が我々の強みになっています。

片山:そういった部分は外注ではなく自前主義的にやっていきたいクライアントもいると思うのですが、さっきの事例も一部そうなのかもしれませんが、クライアントチーム自体の教育や啓発も行っていらっしゃるのでしょうか。

向山:はい。これまで色々なチームを見てきたのですが、売上目標1億円というのが例えばあった時に、その売上目標1億円に対して、それ逆算して細かく(収益化までの設計の要素を)分けられているかっていうところが全くできてないところが多いですね。

例えば1ヶ月で1億円売り上げるのであれば、それを1日単位で細かく区切って、それに対してどういう打ち手があるかを考えていくべきですが、それができていなかったりします。ですので、目標設定をして、その過程や数値を可視化していく仕組みをつくって提供していくことをやっておりました。

グロースハックのノウハウをどうキャッチアップしていくのか

片山:そういうところのキャッチアップや学習は、御社は事業ドメインがグロースハックですので、業務をやりながら知見貯まると思うのですが、それ以外でキャッチアップする場所とか書籍とか、今ご自身でやっていらっしゃることを含めてインプットしているものやメディアあれば教えていただきたいです。

IMG_0564
向山:そうですね。打ち手に関しましては、ベンチマークする市場に出ているアプリを決めて、例えば「君は地図系アプリ」等の担当を決めて、それを毎日触っていきます。そして、アップデートがあった場合にどういうアップデートがあったのか、ストアのアップデート情報を見たり、実際に触っているとわかるので、何がどう変わったのかと、なぜそれを変えたのか変えた理由を考えて、それをチームに共有していくと言うことをやっています。

片山:いいですね。まさに実学って感じですね。私も今の業務に携わるようになってから面白いと思ったアプリのキャプチャを貯めています。

福山:私はそのアプリがどうアップデートされたかという本質のストーリーを実際に作った人にヒアリングをして聞いています。(向山さんの挙げたような)定点観測はもちろんやるのですが、なぜその判断に至ったのかという想いとかだったりとかを訪ねています。

例えば、弊社グループの事業であるアメーバのぺこりというサービスに関しては、「そのUI改修を注力して最先端のフラットデザインにしてクールに決めた時に、ユーザー層が割と主婦でそれが受け入れられなかったからUI元に戻したら、結果的にあがりました。」みたいな一連のストーリーをケーススタディとして貯めています。

もちろんグロースハック施策は万人に共通するものが中々ないのですけども、そのケーススタディを元に積み重ねていって、ではこの会社のこのサービスにどう活かせるかというのを、都度都度知恵を振り絞りながら提供しています。

片山:面白いですね!その事例集めてデータ販売したら売れそうですね(笑)

一同:(笑)

福山:継続率上げる施策の発信は弊社も社外にも出しているのですけども、それは「点」でしかないので、もちろんそれを(元に得られた知見を)どう活かすかが重要でかつ難しく、しかも人の手がかかるものなのだということを感じます。

片山:勉強になりますね。(そういう業務や日々のインプットの中で、)最近のグロースハックの潮流として感じていらっしゃることはございますか。ある意味御社のソリューションがその最先端の1つなのでしょうけど。

向山:そうですね。実際世の中の様々な情報源で「これをやったから、これだけあがった」とグロースハックに関する記事や書籍が出ていると思うのですが、一方でそれが割としっかり開発が必要とか、実際に運用する人間からすると、中々すぐできないものが多いなということを感じます。

その中で例えばアプリのアップデート等、改修がかからない打ち手、運用の中でできる打ち手はいいなと思います。例えば、アプリ内のポップアップを出せて、ユーザーをイベントや課金に促す際にABテストが実施できるものだったりとか、一運用の人間として、エンジニアの手なしに手軽に施策を打てるものが印象がいいですね。

片山:いいですね、ここからこう自然に(御社新製品の広告告知を)入れていくわけですね(笑)

一同:(笑)

片山:最新のトレンドの話題から自然な形でセールスにいける流れがいいなと。この記事はちゃんと製品出てから公開するので大丈夫ですよ(笑)

向山:笑ってるから変なこと言っているのかなみたいな(笑)

片山:すいません。
(補足)Growth message
スマートフォンアプリのポップアップ配信ツールです。
*この取材の時はまだシロクさんは開発中でした。

向山:でも本当にそういうプロダクトをすごく僕がやりたいと言ってきていました。日々現場にチームに入って改善しているので、エンジニアを入れると動かすのが大変ですね。彼らが作りたいものが決まっていたりすると動けないので、最小工数で動かせるものがないかっていうので、ポップアップを出せるものあるといいのではないかと思っていますので、速く作ってくれって言っております。(笑)

片山:リリースが楽しみですね。

「最小工数最大成果」でグロースハックに取り組む

福山:今向山の口から出ましたけれども、「最小工数最大成果」が僕らのグロースハックのソリューションの中で大事にしている考え方です。

その大きい改修を入れる、例えばゲームでCVCバトルやリアルタイムバトルを入れるなどは、確かに売上上がるのですが、開発負荷を考えれば、割とトレンドが変わる可能性があるので、そこ(のユーザー満足度の向上)を文言変更で済むのだったらすぐやりたいと思いますし、そういう需要は今後も増えていくのではないでしょうか。

IMG_0545
また、もう1つトレンドといっていいのかわからないですけれども、SDKの統合をやっていきたいと考えております。例えばPUSH通知機能のSDKはこれ、トラッキングのSDKはこれですという風に、まさにSDK合戦じゃないですけど、入れるたびに重くなってしまいますし、開発コストもかかってしまうのが、現場の課題としてありますので、1つのSDKでなんでもできると言うのが、これもトレンドなのかなと考えています。

(補足)Growthbeat
シロクさんの出していたSDKが統合された総合グロースハックツール
1つのSDKでPUSH、メッセージ配信、アクセス解析が可能。

片山:それはとてもニーズがありそうですね。SDK間で干渉して落ちてしまうというのはありますしね。(SDKいくつもアプリに入れる提案して)また検証するっていって、工数や見積もりも増えて、いざ入れて落ちたら私が怒られるみたいなのがなくなってほしいです(笑)

一同:(笑)

向山:他にトレンドというかわからないですけど、Vineがアプリアップデート中もコンテンツ読み込んでいて、アップデートしている途中でも動画を見られるようにするとか、アップデートしていく中でキャッシュを溜めて行って機内モードでもずっと動かせるとか、そういう風にソーシャルゲームや他のアプリも情報がリッチになっていくとダウンロードで、時間がかかったり、電車の中だとあまり電波が悪くなったりしてユーザーの体験価値が下がるので、それを避ける工夫は1つこれからさらに必要になると思います。

それこそ画像を読み込むのに2秒も待っているとすぐに不快に思うユーザーもいるので、ポップアップとかみたいな手前の打ち手でユーザーに情報を出しておくことも大事だなと思っています。

片山:確かにそのVineの設計考えた人はかなりユーザー体験を考えていますね。ありがとうございます。それでは最後に今後の事業方向性やアピールしたいがあれば教えてください。

福山:はい。引き続きグロースハックというドメインの中でAARRRモデルに即した事業モデルというのが事業方針ですので、継続率を上げていくための施策とか、特に今後はマーケティング寄りの獲得とか、いかに使ってくれるユーザーを獲得するかという部分への注力、そしてリファラル(招待)ですね。

本質的に良いサービスを作ることが招待につながるのですけれども、その抜本的な課題があるところもツールで解決できないかということを考えています。

片山:マーケティングと絡めたような新しいソリューション開発はぜひ一緒にやっていきたいです。それで広告の認知からユーザー獲得、AARRRでいう最後の収益化のまでところまで統合的に提供できるのは価値が大きいと思います。

向山:そうですね。弊社は運用しながら課題を見つけてそれをツールに落とし込んで探していて、これはツールで解決した方がいいのではないかという形で社内に持ち帰ってプロダクトにするか考えているということをこれからも続けていきたいと思います。

片山:これからも大変楽しみにしております。ありがとうございました。

●取材を終えて
シロクさんとは役員の皆様含めて、最初に個人ベースでお知り合いになったタイミングでいうともう5年近く前から、そして電通に入社してからも数年前から既にお取引があったのですが、改めて取組を取材という視点で掘りなおしたことで、彼らの思想や考えに触れる有意義な機会にできました。

これからもグロースハックツールの開発も含めて応援しておりますし、グロースハックという言葉は一種のバズワード的な性質を感じますが、IT/WEBサービスが存在する以上、その成長運用改善のリーディングカンパニーの1つとして目が離せない企業だなと個人的に考えています。

FoodTechブームの到来と現在

 これまでgrowth hack japanではグロースハックに関する事例を紹介してきました。今回は少し趣向を変え、現在米国で特に盛り上がりを見せているある市場について調査しました。それは、「食×Technology」のFoodTech分野です。昨年に突如爆発的に市場規模を拡大させたことをきっかけに、これからが注目されている分野です。今回は、去年から現在にかけてのこの市場の動向を多面的にレポートしこれまでの一連の流れを追っていき、これを機にFoodTechとはそもそもどのようなものなのかを知って頂ければと思います。

昨年FoodTech市場は、前年比272%の合計$1.07Bの出資があり急激にホットな市場となりました。この大きなブームの発端となったのが、この分野への投資額が最も大きなファンドであると言われているKhoslaです。2012年から2014年にかけてのFoodTech分野への投資規模はこのKhoslaが圧倒的で、市場成熟に大きく寄与してきました。後に紹介する、今ではユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上のスタートアップ)となったInstacartsやhampton creek foodsなどに投資してきたのもこのKhoslaです。

フードテック1   [参照] The Food Tech Startup Boom in Graphs

そうして誕生した主要企業は主に以下の通りです。主に3つのジャンルに分けることができます。

food delivery分野

Postmates 周辺のお店で売られているランチや生鮮食品、事務用品などをなんでも一時間以内に届けるサービス。ユーザーはアプリで届けてほしい物を注文すると、専属スタッフが代わりに買って家や会社まで配達してくれます。また、デリバリースタッフがいないレストランの配達なども請け負うこともできます。目当ての商品を選ぶと商品代金や配達料の見積もりが表示されます。デリバリー料は最低5ドル~。

フード1

Instacart 昨年得に名を馳せたスーパーマーケットの買い物代行サービス。指定されたエリアで買い物し、その足でユーザーの元に届ける所謂お使いビジネスと言われるモデルです。このビジネスモデルは、後発でGoogleから、オンラインで注文した商品を当日に配達するグーグル・ショッピング・エクスプレスがサンフランシスコのベイエリア限定で登場するなど要注目となっています。

フード4

food replacements分野

Hampton Creek Foods 地球や身体にやさしい植物性のクリーンフード(環境対応人口食品)の開発を進めている会社です。その一環として人口卵「ビヨンドエッグ」を製造。このクリーンフードは現在米国VCで注目を集めており、あのMicrosoft創業者ビルゲイツ氏からも資金援助を受けています。

フード5

Soylent 肉や野菜を摂らなくても生きていけるようになることを目指した完全栄養食「ソイレント」の開発をしている会社です。多忙で時間が無い人たちからの熱烈な支持でクラウドファンディングを成功させ、昨年4月から本格的に出荷を開始しています。一ヵ月間のソイレントだけで食生活を済ませることにも成功しているそうです。

フード3

restaurant tech companies分野

E la Carte レストラン専用タブレット”Presto”の開発をしています。このタブレットがお客のオーダーと決済をすべて処理することで、ウェイターはもっときめ細かい顧客サービスに集中できるようになります。このタブレットを使うようになったレストランは平均で売上が5%増大し、テーブルの回転率(滞留時間)が7~10分短縮されるとのデータもあります。

フード2

現在の動向

最後は現在の動向についてです。何と言っても最近の一番大きな動きは、イタリアのミラノで2015年5月から約5か月間にわたって行われる「EXPO Milano 2015」という、世界から2000万人を超える参加者が見込まれるイベントが行われることでしょう。これは「Feeding the Planet,Energe of Life」をテーマにしており、世界から2000万人の参加者が見込まれる大イベントです。ここで注目したいのが、アメリカ館の食にまつわるスタートアップコミュニティを盛り上げる試みである起業支援プログラム「Feeding the Acceletator」です。

フードテック4

このプログラムは、これは食とイノベーションに取り組むスタートアップのためのイベントです。オンラインによるメンタリングやレクチャーを施した後、参加企業をミラノに招きピッチコンテストを行います。そして集められたシェフやデザイナ、アーティストなどと幅広く各分野の一流と会することで、食に対してより深い理解を促すことが目的とされています。今年3月にFeeding the Acceleratorの公募が開始され、第一次審査を兼ねて、ミラノの国際カンファレンス「Seeds & Chips」でピッチ・コンペティションが実施されました。米国、イタリア、イスラエルなど8カ国からスタートアップ企業17社が競い、その中から優秀プロジェクトとして表彰されたのが以下の2社です。

Um.ai “あなたのポケットに栄養士を”をコンセプトに、健康的な食生活をサポートするスマートフォンアプリ。10億以上のレシピの記録、栄養素のデータも保持しています。最先端のテクノロジーの力でユーザーの食習慣を掌握することを目指します。

フード6

MintScraps これまで可視化するのが難しいとされていた食料廃棄量をデータで可視化します。そして、どこに問題があるのかを分析することによりどれだけ無駄があるのかを正確に理解することでレストランの利益最大化を目指します。他の競合レストランがどれだけの無駄を削減しているのかを知ることも可能です。

フード7

まとめ

今回は、Foodtechって盛り上がってるけど情報がまとまってるところ無いよなと思ったのをきっかけに作成しました。現状では意外にも人の手を介する割合が高いプロダクトが高いことがこのFoodTech分野の特徴的だったように思います。食は絶対に無くなることが無い市場であり、比重は違えど我々の生活に必要不可欠なものです。現在adtech、fintech、edtechとさまざまな分野とテクノロジーの融合が進んでいますが、次はこのFoodtechではないでしょうか。これから世界の食料難が囁かれているいま、少しでもテクノロジーの力で世界が良くなることに期待したいです。

調べて欲しいこと、感想、フィードバックなども随時お待ちしております。少し長くなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

[参考資料] The Food Tech Startup Boom in Graphs / Danielle Gould Explains the Great Food Tech Boom of 2014  

グロースハック事例 – Dropboxを急成長させた7つの方法とは

これまで、グロースハックの基本に関する記事の紹介はしてきました。今回は実際のグロースハックの事例をご紹介します。グロースハックを学ぶ上で、実際に行われた施策を見てみることでより具体的で深い理解が得られるのではないでしょうか。
ドロップボックスは世界的に利用されているオンラインストレージサービスで、ファイルのアップロードや他人とのファイルの共有がとても簡単なところが特徴です。急成長を遂げたこのドロップボックスがこれまでどのようなグロースハックをしてきたのかをご紹介します。- growth hack japan

なお、本記事はウェブマーケティングに関する多くの記事を紹介しているKISSmetricsThe 7 Ways Dropbox Hacked Growth to Become a $4 Billion Companyという記事を参考にしています。

ドロップボックスを成長に導いた7つのグロースハック

ドロップボックスは40億ドルもの価値を生み出していると言われていますが、広告にはほとんど投資をしていないそうです。どのようにしてこのような成功を果たしたのでしょうか。
今回は、ほとんどお金をかけずに自社サービスを成長させたドロップボックスの7つのテクニックを紹介します。
この記事で紹介されていたグロースのためのテクニックは以下の7つです。

1. サインアップを重視したシンプルなホームページ
2. サインアップのハードルを下げる
3. 友人紹介のための仕組みづくり
4. SNSでのフォロワーを増やす
5. 共有を簡単にすることで潜在的なユーザをも囲い込む
6. イベント開催でサービス・企業の露出を高める
7. 多くのデバイスやプラットフォームで利用可能にする

では、それぞれを見て行きましょう。

1. サインアップを重視したシンプルなホームページ

ウェブサイトというと、多くのユーザに自社サービスを知ってもらいたいがために、とにかく多くの情報を載せたい、と思ってしまいがちかもしれません。ですが、ここで一度立ち止まって考えてみましょう。ウェブサイトでユーザにしてもらいたいことは一体何でしょうか?ドロップボックスのようなサービスを提供するサイトでは、「サインアップ(会員登録)」が大きな目的であるといえますね。

ファーストビューの下からは、シンプルでわかりやすいサービスの説明が続きます。

あれもこれも、と情報を載せすぎなくても、必要な情報がユーザに届いていればサインアップには繋がります。そのよい例といえるのが、このドロップボックスのウェブサイトです。上のキャプチャのようにシンプルなレイアウトにすることで、「ユーザに商品を知ってもらい登録してもらう」という導線を最短距離で用意できるのです。

2. サインアップのハードルを下げる

サインアップが面倒だったり、登録をしても使い方がわからなかったりすればユーザはサービスを利用してくれませんね。ドロップボックスのサインアップはシンプルな上、ウェブブラウザでなくても、デスクトップ上でサインアップできることも特徴のひとつです。

また、インストールをしたらまず、写真フォルダやテキストファイルが用意されています。これらから、ユーザが登録後にどのようにこのサービスを使ったら良いかを示しているのです。サービスに登録したはいいが、使い方がわからなかったので結局全く使っていない、、という経験をお持ちの方も多くいるのではないでしょうか。最近ではアプリのチュートリアルのようなものも含め、登録直後に使い方の案内をする様々な工夫がされていますが、これが登録直後の離脱を防ぐための方法であるといえます。

3. 友人紹介のための仕組みづくり

自社サイトからの集客には限界があります。ユーザが増えてきた段階で、そのユーザにも集客を手伝ってもらえたらよいですよね。ドロップボックスは自社で獲得したユーザが、その友人・知人に紹介してもらうための仕組みを作りました。

例えば、ある人がドロップボックスを他の人に紹介をしたら、その両方に500MB分の容量をプレゼントする、という方法を取ります。インセンティブがあれば、他の人にも紹介したくなりますよね。
CEOのヒューストンによると、ドロップボックスはこの紹介制度によってサインアップの数を60%も向上させたそうです。

4. SNSでのフォロワーを増やす

サービスを広めるためには、SNSも有効な手段のひとつです。SNSは多くの企業で、自社の認知度向上やユーザとのコミュニケーションのために使われています。フェイスブックでいいねしてくれた人だけに特別なお知らせをするなど、いいねをした人へのインセンティブをあげる会社もあります。ドロップボックスがしたのは、ツイッターやフェイスブックと連携したら、125MBのインセンティブをあげるということです。

5. 共有を簡単にすることで潜在的なユーザをも囲い込む

ドロップボックスでは、ユーザが非会員に写真やファイルを共有するのも簡単にできます。これはもちろんユーザにとっても便利な機能ですが、ドロップボックスにとっても、潜在的な会員にまで露出ができるチャンスです。


このように、リンクをコピーするだけで共有ができます。

実際に筆者の五木田も、自分が将来ウェブ関係のベンチャーでインターンをするなんて全く想像もしていない普通の高校生だった2008年か2009年頃に、アメリカ人の友人からたまたまドロップボックスでファイルを共有された時にこのサービスを知った、ということを覚えています。
このように簡単に共有できる仕組みを用意しておけば、当時の筆者のような、世の中のサービスに敏感でない層にも幅広く露出ができるのです。潜在層にリーチするのはハードルが高そうに感じますが、このように既存ユーザを上手く利用することでユーザの幅がどんどん広がっていきます。

6. イベント開催でサービス・企業の露出を高める

ドロップボックスは、ドロップクエストというコンテストを開催しています。このようなイベントを開催することで話題性にも繋がりますし、参加者がブログなどで紹介することでより多くの人への露出に繋がります。

7. 多くのデバイスやプラットフォームで利用可能にする

これまでのドロップボックスのグロースハックの方法を見てもわかるように、ユーザがサービスを周りに紹介しやすい(したくなる)ような工夫がされています。ただ、紹介する相手が利用するデバイスやソフトウェアなどが原因でドロップボックスが使えなかったら、せっかく紹介・共有をしてもらっても登録には繋がりませんよね。
そのためにも、ドロップボックスは新たなソフトウェアがリリースされたらすぐに対応するなど、多くのデバイスやプラットフォームでの利用を可能にしています。こうすることで、ユーザの増加をより一層加速させているのでしょう。

まとめ

まずサービス自体やウェブサイト、サインアップをシンプルにすることで多くの人に使い始めてもらい、さらにそのユーザが他の人に紹介しやすくするような仕組みづくりをすることで、ドロップボックスというサービスは多くの人の元に届いていきました。
「グロースハック」と聞いても実際にどのようなことをするのかイメージがしにくかったですが、このような事例を参考に、コストをかけずに多くのことが試せるというグロースハックの特長を活かして様々な施策をテンポよく試していきたいですね。- growth hack japan

A/Bテストを活用したコンバージョン率の改善方法

今回はA/Bテストをより効率的に実行し、改善に繋げるための手法として”A/Bテストカレンダー”を使ったテストの実施方法をご紹介いたします。「A/Bテストの実施を検討している」もしくは、「既にA/Bテストを行っている」場合は、よりテストの効率化を図るための参考にしてみてください。- growth hack japan

※なお、本記事はLPOツールを提供している unbounceGrow Your Conversion Rates Consistently with an A/B Testing Calendarという記事を翻訳しています。※記事中のリンク先は英語のページです。

プランニングを元に効果的なテスト運用を行う

多くのマーケターにとって、A/Bテストを行うときの最大の障害は時間です。なぜなら、日々積み重なっていくタスクや大きなプロジェクトにも向き合わなければならないからです。しかし、毎月60分のプランニングをするだけで、A/Bテストを実行に移せます。

A/Bテストカレンダーは毎週、毎月のテストで何を行い、改善の目的とするのか、テストの開始と完了時期などを設定するためのものです。テストの目的や期間が明確になればやる気にも繋がり、より効率的にテスト進められ成果にも貢献します。
まず以下のグラフを確認してみてください。このグラフの毎月のテスト回数が示すように、A/Bテストカレンダーを用いることによって月ごとに実施するテスト回数をA/Bテストカレンダーの導入前より増やすことができます。

ad-hoc-vs-ab-testing-calendar

緑色の”calendaer”となっている4月からのテスト回数の推移が、倍増しています。テスト回数は、ページ改善のデータを得る上で重要な指標の一つになります。 – growth hack japan

言うまでもないですが、2倍の数のテストから得られる成果大きく、コンバージョン率や自分の意欲も高められます。もし、テストを先延ばしにするような憂鬱な状態から抜け出したいなら先を読み進めてください。A/Bテストカレンダーはテストを成功に導くことができます。

Step1 テスト対象を把握する

最初のステップは何を最適化したいか選ぶことです。
ユーザー獲得のためにランディングページや導線など取り掛かれる場所は多くあります。ポイントはその中から1つを選んでテストを実行することです。

・トップページをOptimizelyやVWOなどのツールでテストする。
・ランディングページをUnbounceでテストする。
・SparkPageやVeroなどのツールを使用して導線をテストする。

テスト対象のページを把握することは最初の重要なステップです。一度大枠の対象を決めてしまえば、始めに設定した仮説について細かく検証することができます。以下は、ConversionXLのスタッフによる仮説検証の優先度づけと明確化についての簡単なサマリーです。

1 課題があるページを見極める : アナリティクを用いてトラフィックは高いが、離脱率も共に高くなっているページがないかを調査します。
2 ユーザーの声を取り入れる : データとユーザーの意見を合わせてより良い仮説を設定する。
3 テストの優先度を設定する ※優先度付けは次の3つの基準で行います。
・いくつかの計測値に影響を与える可能性があるか。
・それぞれの計測値の重要度
・導入コスト
参照:How to Build a Strong A/B Testing Plan That Gets Results

step2 月ごとのCVの計測

次に、過去のテストを確認しどのページで月ごとにいくつのCVが取れたのか計測していく必要があります。例えば、1ヶ月間にトラフィックとCVを最も獲得しそうなページがトップページだとします。大まかな数値を元に始めるとすると、テストで有効な数値を得えるためには、各テストページごとに約250ほどのCVがあると望ましいです。

250CVという数値は、目安としては信頼できますが、Optimizelyのsample size calculatorを使えばもっと正確な数値を割り出せます。CVの1ヶ月間の平均値と目標値があれば、テストできるページパターン数を導き出すことができます。

<月ごとのテストページパターンを計測>

例として、月間 5000PV、コンバージョン率が15%の新刊の電子書籍を扱ったランディングページを持っているとします。つまり、750冊分のダウンロード(コンバージョン)が毎月あります。250CVごとにテストを行うという大まかな目安を適用すると、月に3種類のテストを実行できます。

step3 標準的なテスト期間

※この項目は、この記事の中で最も重要な内容になります。
Step2で紹介している計算方法で、どのページで何種類のテストパターンを検証できるか把握した後は、テスト期間の設定に移りましょう。参考までに、標準的なテスト期間を設定せずにテストをおこなった場合、テスト結果は以下のような結果となってしまいます。

期間が定まっていないテスト

上記では、それぞれのテスト対象で2パターンのバージョンしかテストできていません、またテストの完了時期がずれていまっているため、次のテストに移すことができません。 Home pageとeBook LPのテストはともに1ヶ月以内に完了していますが、テストに1ヶ月かかったサンクスメールと同じ2パターンしかテストできていません。 – growth hack japan

なぜなら、明確なテスト期間を持っていないため、テストの開始と終了が異なる時期になってしまったからです。これではテストをうまく行うことは難しいです。では、テストを正確に1ヶ月間、コンバージョン数から求められる最大限のテストパターンを試してみましょう。

standardized-a-b-testing

ここでは、スケジュール通りにテストを実行するのがとても簡単になっており、開始と完了が同じ日数になっています。もし、テスト設計を正確に区切って行うのであれば、月次のミーティングはこんな風に始めるべきです。

・先月行った全てのテストは完了した状態で、結果をチームでの協議と学習に活かせる状態にする。
・当月のテストはすでに実施中の状態である。
・次月のテストのために、ブレインストーミングとプランニングに時間を費やす。

これらのことに気をつければ、それぞれのテストを月末の同じ日に完了させて次のテストに移れます。無駄なことに時間を使わず、効率的なテスト運用を行いA/Bテストのエキスパートになりましょう。

step4 テンプレートを活用しましょう

A/Bテストカレンダーのテンプレートを使ってテストの最適化をしてみましょう。
参照:A/Bテストカレンダー
a/bテストカレンダー

こちらのシートは英語で記載されています。対象ごとにシートを分け、「Details」でテストを行った期間やテスト項目名、仮説を記載し、「Variants」でバージョンの管理、「Results」ではテスト結果の管理を行っています。 – growth hack japan

このシートではそれぞれのテストを確認し仮説設定を行い、目標を決めることができます。(もし、これらの一連の流れを行ったことがない場合は、こちらをご参照ください。 How to Formulate A Smart A/B Test Hypothesis )

テストページによって異なる設定をされたタブがあり、それぞれの導線を使った月ごとのテストがあります。 もしテストを毎週、隔週で行う十分なリソースとトラフィックがあるならば月ごとではなく週ごとの表に変えましょう。そして、更にA/Bテストの目標設定と内容を深める場合はOptimizelyとKISSmetricsによるこちらの解説をご確認ください。
Optimizely Presents: Analytics in A/B Testing (A/Bテストのプランニングについて32:00ごろにディスカッションしています。)

<15分で実践できるA/Bテストのためのアクション>

これまで紹介したことを行うのに、それほど時間はかかりません。実はA/Bテストカレンダーは15分ほどで作成することができます。

・最初にアクイジション(ユーザーの獲得)を行う過程で重要なページを図で書いてみましょう。例えば、トップページやキャンペーンのランディングページ、ユーザーフロー、サンクスメールなどがあります。
・次にテンプレートをダウンロードし、あなたが認識しているテストパターンごとに新しいタブを作りましょう。時間設定をそれぞれ(月、週、など)テストスケジュールに合うように設定しましょう。
・最近実施したテストや次月の実施を考えているテスト対象をリスト化しましょう。
・今から次月の初めまでの間にそれぞれのテストについて詳細を洗い出しましょう。 テストしたいとページのテストパターンを決めて、広告文や画像などを用意しておきましょう。

まとめ

A/Bテストを効果的に運用させていくためには、綿密な計画が必要です。この記事では、「テスト対象の課題把握」「テストの実施に必要なPV数、コンバージョン数」「テスト期間の設定の仕方」についてそれぞれ解説しています。実際にA/Bテストを運用する際には、まずサイトの流入数やコンバージョン率などの数値を正確に把握した上で、A/Bテストカレンダーをカスタマイズし、効率的なテストの運用を行いましょう。 – growth hack japan

記事情報

unbounce

本記事はLPOツール等のマーケティングツールを提唱してるunbounceGrow Your Conversion Rates Consistently with an A/B Testing Calendarという記事を翻訳しました。Unbounceは、大手のECサイトやビジネスマン向けSNSのサイト改善を行っています。また、こちらのブログではLPO以外にもコンテンツマーケティング、デザインなど、幅広い分野のナレッジを実例を元に紹介しています。

クックパッド加藤氏インタビュー「すでにあるものや仕組みを大きくすることだけが、グロースハックの全てではない」

グロースハックの考え方をクックパッドグループの様々な領域に取り入れる

片山:本日はお忙しい中ありがとうございます。早速、取材の方を始めさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。まず、加藤さんの現在のお仕事やご担当をお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか。

加藤:今は広告領域を担当してるんですよ。新規広告開発部という部署を新設してそこで広告の新しい商品を作ったり、すでにある商品については配信の最適化を進めていけるような技術的基盤を作っています。広告商品の新規開発と、配信基盤の改善をひたすら繰り広げてるという感じですね。
s_IMG_7035

片山:じゃあグロースハック関連の施策は今はやっていらっしゃらないんですね。

加藤:(クックパッドのサービスそのものや、「有料会員を伸ばしていく」という観点では)ほとんどやっていないですが、広告の領域にその考え方を持ち込めないか、ということは常に模索して進めています。単純なA/Bテストを正しいやり方で高速化させていくことはもちろんですが、広告商品そのものの設計の仕方から改善の流れまでですね。加えて、クックパッドには今、おでかけプランの作成・共有サービス「Holiday」や、親子で楽しめる知育アプリの「なりきり!!ごっこランド」などグループ会社が提供しているサービスもありますので、そういったサービスを伸ばすにはどうしたらよいか?といった話を各チームとディスカッションしたり、アドバイスさせてもらうことはあります。

人に聞くことで知見を蓄える、業界の流れを知る

片山:では本日のインタビューテーマからいうと、その会員を伸ばしていたところの時期の話にフォーカスしてインタビューさせていただけたらと思います。元々加藤さんがグロースハックを実施していくことになった経緯からお伺いしてもいいでしょうか。

s_IMG_7170
加藤:僕が担当させてもらうことになる前から、会員事業そのものは存在していましたし、会員事業部というものもありました。しかし、当時は部署のほぼ全員がサービス開発に集中していて、マーケティングの担当がいなかったんです。当時僕は経営企画領域の担当だったのですが、ファシリテーションを担当していた経営会議の中でも、役員同士の間で「もうちょっと改善できるんじゃないか?」という議論が出ていて、それなら「事業経験もなければこの領域における知見もないですけど、このまま何もやらないより学びながらやってみたら可能性も広がるかもしれないので僕に兼務させてください。」と言って、少人数のマーケティングチームを作ってリーダーをやらせてもらうことにしました。

そのチームで、例えばUI変更とかABテストといった細かい施策であったり、友人招待やギフト、無料クーポンの導入検討など、いろいろな企画の模索をやり始めたんです。そうした取り組みのほとんどは失敗に終わったのですが、中には当たる施策も出てきて、数字もついてくるようになりました。その流れを受けたのと、ちょうどこのタイミングで役員体制が大きく変わったのもあり、マーケティング領域を切り出した部署を新設して部長に就任させてもらいました。

片山:具体的に部署化してからどういったことをやっていらっしゃったのでしょうか。

加藤:まず、先ほども申し上げたとおり、僕自身が当時はこの領域については素人だったので、その業界で実際に会員を伸ばされている方数十名に、とにかく会いに行ってお話を伺いました。あとは、Facebookさんなどユーザーを大量に伸ばしているようなチームのご担当者に話を聞きました。聞いていく中で、お金を払って広告を出稿して会員を伸ばしていくという方法もあるのだろうけど、我々の今のフェーズでは、まずはお金をかけずに改善レベルで伸ばせることとか、仕組みを変えて伸ばすところをやろうかなということになりました。そこでメンバーを一旦そこへ全部集中させて実施していきました。

片山:最初の聞きにいくのが結構大事なステップだったのですかね。

加藤:そうですね。今期から新しく広告領域を担当しているのですが、新しい領域の担当になったら、まず一通り座学で知識をつけて業界の歴史を学びながらその移ろいを大きく掴み、次にその領域の一番すごい人、現時点で業界を俯瞰してその流れを正しく話せそうな人にとにかく話を聞きに行きまくるというのがやっぱりいいかなと考えています。20人とか会いに行くと大体同じことを言っている部分と、この人だけ特殊なこと、別のこと言っているというのがわかってくる。みんながみんなほぼ同じことを言っていたらこれは流れとして確かなのだろうとか、別のこと言っている領域は1つ1つ自分たちのサービスの場合はどうなのか考える、そういう風に業界の流れを大きく掴んでいく感じです。

片山:それで言えば、私はまさに今聞きにきているのかもしれないのですが(笑)

「利用者が利用者を呼び、サービスそのものが自然と伸びていく仕組みを設計し、それを育てていく」

s_IMG_7178
片山:最初は有料会員を増やす取り組みだったと思うのですが、(「グロースハッカー」日経BP社 をご監修されているのを含めて、)グロースハックの言葉や概念に着眼し始めたのはいつくらいなのでしょうか。

加藤:やりはじめた当初は、言葉自体に着眼するということはほとんどなかったです。

片山:どちらかっていうと本を書くぞと決まってからになるのですかね。

加藤:そうですね。やっていたことがたまたま合っていたというか、その依頼が来た時に初めてその言葉が生まれた背景や歴史について体系的に調べ直しました。なので、そんなに最初からグロースハックに詳しいわけでもなければ、グロースハッカーと自分を呼称したこともなかったですね。
s_IMG_7173

片山:加藤さんの中ではグロースハックに対するイメージや特徴をどう捉えていらっしゃいますか?

加藤:「利用者が利用者を呼び、サービスそのものが自然と伸びていく仕組みを設計し、それを育てていく」ということが重要ですので、サービスの開発段階から伸ばすところまで、息の長いプロジェクトを推進していくという観点でプロジェクトマネージメント性が高いなと思います。すでに作ってあるものや仕組みを売ったり大きくすることは、グロースハックの重要な要素ですが全部ではないと思うんですよね。サービスそのものに伸びる仕組みを入れ込んでいき、かつ伸びる仕組みをちゃんと伸ばせるように、色々な方法を使って伸ばすというところまで実際に全て含めているものなので、かなり幅広い概念だなという感覚があります。

片山:もっと(サービス全体を俯瞰して)包括的に設計していくことが大事ということなのでしょうね。

加藤:そうですね。なんとなく(グロースハックという言葉に対して、)一部の側面にしぼって話がなされている、そんな気がします。

A/Bテストはあくまでグロースハックの一側面にすぎない

片山:クックパッドをグロースさせる時にも施策全体を設計してから1つ1つ試していくみたいな手法だったのでしょうか。

s_IMG_7040
加藤:クックパッドの場合は、そもそも僕がクックパッドそのものやプレミアムサービスのグロースハックのすべての領域を担当していたわけではありません。先ほどの話ともつながりますが、ぼくはすでにあるよい仕組みを伸ばすという、グロースハックのうちのごく一部の領域を担ったにすぎません。クックパッドには「つくれぽ」という仕組みがあります。レシピが投稿されると、その投稿レシピを検索して実際に料理をした人が、写真付きで感想を送るというものです。しかも、その一連の流れが他のユーザーにも見えるようになっているので、閲覧者が「みんなが作って美味しいと言っているレシピは、きっと美味しいだろう」と推測するようになる。ですので、みんなに人気のレシピを見たくなるという構造ができていました。

それで、人気順検索を始め、ほしいレシピが簡単に見つかる様々なサービスを用意して、その提供を有料化しています。この仕組みをどうやって伸ばすかということで、枝葉(的な位置づけの施策)として、売り方を考える領域をやっていったという感じですね。例えば招待の仕組みを入れ込む、その時にその招待機能で新しいユーザーを呼んでもらえるように(招待したユーザーを)7日間無料にする、ユーザーの属性別におすすめする有料機能を最適化する仕組みを導入するとか、そういった細かい施策を色々一通り試して全部やりました。(新規ユーザー向けの)クーポンを作るとかギフトパックを作るとかも含めて。

この上で入れ込んだ仕組みを今度どうやって、改善して伸ばしていくのかということで表層面のABテスト、LPの改善とか文言変えるなどの施策がある。僕はつくれぽや人気順検索といった、グロースさせるためのエンジンのようなものを作るというコアの領域を設計し、それを伸ばす仕組みをサービスに入れ込みながら、日々改善を繰り返していける体制作りをして伸ばしていく一連の継続的活動こそが本当の意味でグロースハックだと考えています。

片山:例えばA/Bテストはあくまで枝葉であって、サービス設計やユーザーを増やす仕組みを作るっていうのが根底にあってということですよね。

加藤:はい。ユーザーがユーザーを呼ぶような雰囲気を作るっていう。それをサービスの設計に入れ込むという点が本質のうちの一つだと考えています。

評価指標はサービスが目指す世界によって変わってもいい

片山:そのグロースハックをやっていくぞという中で、前回の座談会企画ではKPIとかKGIとか数字の設計とか考え方の話題があったのですが、その当時など加藤さんはどうやられていたのかと、そういった指標設計の考え方として大切なことがあるのでしょうか。

s_IMG_7078
加藤: KPIは大事ですけど、特別こうしなくてはいけないというこだわりは無いですね。ただ、あんまり複雑なものにしていないことでしょうかね。会員事業を担当していた時、僕はプレミアム会員事業を伸ばしながら、第2の有料会員事業として「プロのレシピ」という、雑誌や書籍に載っているような料理家やシェフのレシピが見放題になるサービスを新しく開発していました。プレミアムサービスに関しては、結局登録率をどれだけ挙げられるかというのが有料会員の純増数を増やす上でのポイントだったので、コンバージョンレート、登録率を見ていました。あとはLTV、顧客生涯価値を高める、という観点で退会率ですね。とりわけ登録後3ヶ月以内退会率を重視していました。

プロのレシピの方は日常使いする道具性の高いクックパッドと異なり、雑誌をみるように眺め続けていたいと思えるようなサービスにしたいという思いが強かったため、多くのユーザーが夢中になってたくさん回遊しているサービスということを考えると単純にPVだよねということでPVにしていました。

片山:最終的にどれくらいの成果だったのか伺ってもよろしいでしょうか。

加藤:施策の時期も広告出稿をしていた時期もA/Bテストもあるので、一概には当然言えませんが、最終的にプレミアムサービスの年間会員純増ペースは在任期間中でおよそ2倍になりました。プレミアムサービスは2004年より開始していましたが、担当を開始した2012年1月時点ではおよそ70万人だった会員数は、在任終了時点での2014年末で150万人を超えました。

プロのレシピは在任期間中には目標を達成できませんでしたが、その後のチームの頑張りが功を奏し、リリースしてから半年後には当初設定していた目標PVを達成することができました。(この時はコンバージョンレート、退会率、PVといった指標でしたが、)そういう評価指標はサービスが目指す世界によって変わってもいいし、同じサービスであってもそのフェーズによって変わっていき得るものだと思います。

片山:わかりやすく柔軟にという方針が良いですね。

チームメンバーや社外への成功事例共有

そういった施策実施やKPI策定もそうですけど、意思決定は加藤さんがやっていたのでしょうか。それともチームで話し合っていたのでしょうか。

加藤:領域設定、ビジネルモデル、目標、KPIといった基本的な事業上の設計は、だいたい自分で決めるかプロジェクトリーダーと2人で決めていました。サービスの骨格づくりや内容、どんな課題をどう解決していくか、といったサービスの領域についてはチームメンバーとディスカッションや試行錯誤を重ねながら一緒に考えて動いていく、という感じでしたね。ただこれはその人の得意不得意、自分なりの好みなどによってまちまちなんだと思います。

片山:チームにどういう人が望ましいとかそういったことはございますか。
s_IMG_7057

加藤:そうですね、自分で目標を設定して、愚直にそこに向かってPDCAを回せるエンジニアはいいですよね。あとはもうちょっと、幅広い視野を持って事例をちゃんと集められる人ですね。どの仕事も一緒でしょうけど、まねることが結構重要だと考えていて、世の中にある色んな会社が例えばグロースハックのブログとか書いている、あれを一通り調べてみると、同じこと言っていると言うのが結構あるので、そういうことを当たり前にやるような人がいいですね。「守・破・離」じゃないですけど、それをまねて、通用するか確認して、合うか合わないかを見極めて、今度はそれを応用させたりくっつけたりしながら、新しい取り組みをするという一連の流れができることは大事だと思います。で、その過程でたどり着いたオリジナルなアイデアをどんどん試していき、成功したものは業界標準化できるように社内外問わずどんどん共有しながら広めていく。

例えばリサーチをして業界の事例を掴むという観点では、1年半前くらいに社内向けにグロースハックというか、A/Bテストの事例集を作って社内に共有したりしていました。成功事例の共有については、slideshareで当時の知見を余すことなく公開しました。(筆者注:リンク先の資料は2013年当時のものです。)

s_IMG_7098
(筆者注:実際は100ページ!を超える資料で写真はその表紙。中身をざっと拝見しましたがとても興味深かったので是非どこかでみなさんにも公k(ry )

片山:おお!チームでこういうのを作られたんですか!?(感動)

加藤:・・・土日に一人で作りました。(笑)こういうものを作って、「何をしたらどう伸びたか」を全部同じフォーマットでブログをかき集めて、とにかく数集めて全体傾向つかんで、それを一人でため込まないでどんどんチームに共有するということをやりました。

加藤:これをやっていると、「入力フォームはやはりシンプルにした方がいいんだね」とか、「あのボタンの文言ってこうすればいいんだ」とかわかってくるんです。それを繰り返して(さっきのヒアリングの話し同様に)皆が伸びたと言っているものはやっていました。

日本におけるグロースハック事例はまだまだ少ない

片山:事例を調べていることや聞きに行ったことで、これ見ているぞって言うメディアありますか。

加藤:特にこれ、といった決まったものはないですね。検索で一通り上から本当に片っ端からチェックしました。グロースハックは日本ではまだまだ書籍が少ないですし。

片山:そのうち1冊はそもそもご監修ですしね。(笑)

片山:最近のグロースハック事例で気になっていることやお考えになられたことはございますか。

s_IMG_7153
加藤:作ったものを伸ばす領域でいうと、テレビCMの活用方法とそのタイミングですね。数年前はゲーム以外のウェブサービスはネット広告が主流でテレビCMを打つ事例ってあまりなかったと思うんですが、近年テレビCMも含めてコスト を合わせながら獲得を伸ばす事例が増えてきている。サービス単体で考えるとお金をかけても獲得効率が悪い時期、大きくかけることで効率が上がってくる時期などいろいろある。そこにサービス単体で最適なタイミングだけを考えるわけにはいかない業界動向、主に競合サービスを見据えた上でどこで攻めるべきか、といった変数の大きい領域に対して、テレビCMも含めた全体戦略がある。

各社それに対してどう考え、どのタイミングでどういう手を打っているか、は興味深いです。また、手段という観点でも配信の時期や素材を細かく調整して見るっていうのはネット企業の真骨頂だと思いますし、この観点でも興味があります。

片山:ソーシャルリスニングが中間指標になっているとかもありますね。他に最近注目している企業やサービスはありますか。

加藤:うーん、今後が気になるっていうのはUberさんとかNewsPicksさんとかですね。Uberさんのサービスタイアップのキャンペーンの数字とか割引のやり方は関心がありますね。実際どういう結果で、どういう評価をしているんだろう、とか。ユーザーとして使っていても、いろいろと模索している感じが見受けられて興味深いです。

片山:Uberさんはまさに前回記事にて取材させていただき興味深かったですし、今後の成長に私も関心があります。

組織やプロジェクト課題の本質を捉えて解決することで、目指す世界を実現していく

片山:もう質問は最後なのですが、加藤さんの今後のミッションや個人的な目標ってお伺いしてもいいですか。

加藤:個人としてこうしたい、というのは具体的にはないのですが、常に自分がいる組織やプロジェクトのボトルネックとなっているポイントの本質を捉えて解決することで、目指す世界を実現していくことに貢献することをやり続けていきたいと思っています。

今は、クックパッドグループが目指している世界に共感していますし、実現に向けて自分の部署や立場にあまり捉われすぎることなく、幅広く貢献していきたいと考えています。そのためには、僕も含め30歳前後のメンバーがもっとマネジメント能力や経営力を鍛えていかなければと思っています。マネージャーというのは自分が知らない領域に入った時も、限られた時間、組織、予算の中で素早く状況を整理し、正しい意思決定ができなければいけないですし、それができなければ失格です。

僕の場合はその領域にこだわりはあまりなく、それこそ事業担当ではない、例えば人事や管理といったバックオフィス領域でもいいかもしれません。その時、その組織にとってここが重要で、ここが伸びればグループ全体が飛躍的によくなっていく!と思えるような領域で常に勝負していけたらなと思っています。

片山:ありがとうございます。加藤さんはお話していて非常に謙虚な方でいらっしゃるのですが、このグロースハックという領域の成功者の1人であると思います。このグロースハックジャパンの記事を見ている読者へアドバイスのメッセージをしていただきたいのですが、いかがでしょうか。
s_IMG_7033

加藤:やらないといけないことはとてもシンプルだと思います。まずはユーザーを見ること。どういう課題があって、それに対してどういう価値を提供すればよいのか。その中で他の人にも勧めたくなるような設計をどう作ればいいのか、という基本に集中して考える。次に、その仕組みが作れたら、それをどうやって効率よく伸ばせばよいかを考える。その方法としては、月並みですが今世の中にある全ての事例を自分が集められる範囲で一気に集めて分析をして、まずは良いと思うことを愚直にやり続けてみることですかね。進みながら学び、生かすことで自分たちのやり方を確立していく。繰り返しになりますが、「守・破・離」です。

そして、マネージャーは、チームのメンバーがそれに集中できなくなるような障壁をとことん取り除いてあげる。地味・派手関係なく、効果があるかないかだけの軸で判断して、ベーシックな話なのかもしませんが、頭でわかっている話をどれだけ愚直にやれるかということが大事だと思います。

それとそもそもの話として、世の中の大部分のサービスはABテストをやって・・・という段階にないので、そのサービスのコアを固めていくべきです。クックパッドで言えば「つくれぽ」という仕組みがあって、ユーザーが伸びる仕組みの上で、各種施策があります。ありがたいことに、サービスのグロースハックについて相談をいただく機会が増えましたが、テクニック的な話よりもまず価値を磨き込む方が先で、そっちに注力したらいいという話になることが多い。リーンスタートアップに載っているような仮説検証を愚直にやる方が大事です。ですので、大体こういう話になると、僕は最終的にもっと(サービスそのものの)源流に戻ったことを指摘することが多いですね。・・・こんな地味な話でいいのでしょうか。(笑)

片山:とんでもないです。基本に戻ることも勉強になります。

s_IMG_7180
【著者からインタビューを終えて】
記事としてテキストに落としたときには伝えきれないかもしれませんし、うまく形容できていないかもしれませんが、発想やお考えが柔軟なだけでなく、目的やゴールに対してとてもシンプルな考え方をしている感じを受けたことが特に印象に残りました。インプットに対しても愚直にやっていらっしゃることも勉強になりました。私も「グロースハック」はマーケティングやプロジェクト・マネジメントと併さるような、非常に包括的な意味を含む概念だと考えていたので、改めてそれを再整理していく良い機会にもなりました。

スタートアップ向け3つのマーケティングハックス

スタートアップの成長の鍵
今回は、スタートアップにむけたマーケティングハックの記事を翻訳し、紹介します。世界中で数々のベンチャー企業が登場している中、抜きん出て成長するスタートアップにはどのような秘策があるのでしょうか。

グロースハックは大概、「言うは易し、行うは難し」と実現可能性が低いものとして捉えられがちです。ですが、そんな偏見をも消し去る画期的なマーケティングハックについて近頃言及されているものがあります。苦戦を強いられ、進化のためには多少のリスクも厭わないスタートアップにぴったりなマーケティングハックを紹介します。

今こそブランド・エバンジェリズムを

エバンジェリストとは、ある製品やサービスについて、その人自身の知名度やネットワークを活用しながら、拡散してくれる人をいいます。基本的にはマーケティング用語の中でのWOMM(クチコミマーケテイング)を指します。クチコミは、TwitterやPinterestが世を席巻している中で、依然として一番力のある“メディア”でもあるのです。

企業のエバンジェリズムを育むことは、ブランディングや集客面において中長期的に有効に働きます。そのためには、消費者をエバンジェリストにする取り組みとしてTOMSの例のように「マーケター意識」を植えつけ口コミを生み出すような施策を打ち出すなどが有効です。
TOMSのマーケティング
また、SEOやコンテンツマーケティングの取り組みとして、継続して情報の発信を続けることなどは、その人自身をエバンジェリストにするためにはとても有効な取り組みです。

「ブランドカルト」を生みだす

”カルト”というと聞こえはネガティブなものになりがちですが、ブランドカルトはとても前向きなものです。いい製品やサービスというのは、人々のニーズを満たし、ブランドを通じて関係性を持つようになります。その中で信者のごとく熱狂的なファンを生み出すことを”ブランドカルト”といいます。例えば、バイクでいえば老舗のHarley DavidsonやiPhoneなど革新的なプロダクトを生み出すAppleなどがその成功例です。

ブランドカルトを作り出すには、主に7つの要素があると言われています。

①他にない唯一性をきちんと保つこと
②勇気を示しだすこと
③ライフスタイルにまで及ぶ楽しいものであること
④顧客に耳を向けること。顧客自身に価値を持たせること
⑤コミュニティをつくり上げることに努力を惜しまないこと
⑥オープンであること
⑦自由を謳うこと

これらをどのように達成していくかによって、カルトのように熱狂的な信者を持つことができ、そのブランドは他とは違ったものになるのです。

ネガティブ・バズ(論争)をおこしてみる

ネガティブな評価で世間に露出することは、一見するとその企業にとっては悪いことに感じられます。実は、これが名を売ることにつながり、結果的に企業へ大きな恵みをもたらすことにつながるということがあるのではないかと最近話題になっています。

Uberのネガティブバズ
有名な例が、現在世界で最も企業価値の高いスタートアップUberです。Uberは、かつて世界での利用者が増える一方で数々の訴訟問題を抱えていました。連日報道される訴訟に関するニュースや世間からの反感というネガティブバズによって、Uberは世界的に知名度をあげることにつながりました。その知名度を活かし、ネガティブバズを各国でサービスをローンチするチャンスとして動いたことがUberの成功要因でした。
Uberの成長
このようにUberは年々企業価値を上げ、設立3年にしてFacebookを超える企業となったのです。将来、Uberを超えて世界一となるスタートアップは、今度はどのような形で私たちの目の前に現れるのでしょうか。

まとめ

企業が抜きん出て成功するには、エバンジェリズムやブランド信者の創造、時には世間の怒りの感情を生むこともいい結果をもたらすようです。ですが、日頃から「どのように顧客との関係性を築いていくか」ということが、今回のマーケティングハックに共通して意識されるべきポイントであると感じました。

グロースハックの第一人者 Sean Ellis氏が考える3つの大原則

グロースハックという言葉を作ったSean Ellis氏のPioneers Festivalでのプレゼンの内容をまとめました。ここでは、グロースハックの基本となる考え方が紹介されています。「グロースハック」という、新しいマーケティングの方法を生み出したEllis氏はどのようなことを考え、多くのスタートアップを成長へと導いたのでしょうか。

プロダクトマーケットフィット

このプレゼンは、Ellis氏が「スタートアップ・マーケティング・ピラミッド」と呼ぶ、グロースハックの考え方の枠組みの紹介から始まります。

150420_ghj_photo1
(参考:Startup Marketing Conference – Stacking the Odds for Authentic, Sustainable Growth)

この中でも最も基盤となるものが、「プロダクトマーケットフィット」と呼ばれる考え方です。グロースハックは、まずその商品がプロダクトマーケットフィットに達していなければ始まらないといいます。
プロダクトマーケットフィットとは、顧客を満足させるような良い製品を、適切な市場に狙って出しているという状態をいいます。グロースハックは成長を加速させる仕組み作りですので、この状態に達して初めて、グロースハックのスタートラインであると言えます。

※プロダクトマーケットフィットについての詳細はこちらの記事を参考にしてください。
【Keyword】プロダクト/マーケット フィット
グロースハッカーが駆使するコンバージョンファネルの使い方 (グロースハックに関する最も確実な手引書「4/9」)

プロダクトマーケットフィットを考え、ユーザにとってなくてはならないような商品作りをし、そしてそこから、グロースハックによってその価値を届ける仕組み作りをしていくのです。
では、どのようにして「ユーザにとってなくてはならないような商品作り」をしていけば良いのでしょうか?

Ellis氏がこのスピーチで一貫して言っているのが、「ユーザの声を聞く」ということです。ここでも、ユーザにするというある質問が紹介されています。
それは、「もしもこの製品を使えなくなったら、どう感じますか?」という質問です。
この質問をユーザにする上で最も注目すべきは、「とても残念に思う」という回答だそうです。Ellis氏は、ユーザからの回答のうち、この答えが40%くらいだった企業は、プロダクトマーケットフィットはうまくっていると判断するそうです。しかしそれ以下の回答だった場合は、何かしら他の手を打つ必要があります。

このように、まず人に利用してもらう価値のある製品作りが、グロースハックのスタートラインであるといえます。

グロースハックの大原則

150427_ghj3

次に、マーケティングにおける重要な項目が3つ紹介されています。今まで行われてきたマーケティング手法とは異なるグロースハックで忘れてはならない、重要なポイントです。

①創造性
成長させるためのアイディアを考えられるような創造性が重要であるといいます。従来のマーケティングの方法とは違うアプローチで、どんどん施策を打っていくというグロースハックにおいて、創造性は重要なものでありそうですね。

②ユーザとの時間を多く設ける
Ellis氏はこのスピーチにおいてユーザの声の重要性を繰り返し述べています。アンケートや実際にユーザから話を聞くなど手段は問いませんが、とにかくユーザとの関わりの時間をできるだけ多く持ち、彼らの声を組み込んでいくことがポイントです。

③テストをする
実際にやってみなければ、何がうまくいくかはわかりません。何度でもやり続けてみることで方向性が見えてきます。このように繰り返し試していくことが、グロースハックの特徴でもあるといえます。

まとめ

今回は、グロースハックの第一人者であるSean Ellis氏のスピーチの内容をまとめました。いい市場を狙い、多くの人が生活の中で必要とするような商品作りをする。そしてどの過程においても、ユーザとの対話をし続けることで、よい製品作りや成長へとつながるのです。

WEBサービスの現場最前線で活躍する人達のグロースハック座談会(後編)

<第1回 グロースハック座談会@電通オフィス>
【スピーカー】
・UberJapan株式会社 北尾恵子 氏
・株式会社つみき 松山岳史 氏
・株式会社ディー・エヌ・エー 山口恭平 氏
・株式会社モバイルファクトリー 松本祐輔 氏
【インタビュアー】
・株式会社電通 片山智弘

日々の施策や業務における課題感

IMG_0480
片山:(前編を経て)ありがとうございます。ここからは後半戦ということで、みなさん個人にもっとフォーカスしてインタビューを続けさせていただきます。皆さん日々そういった役割と施策実施の中で大忙しだと思うのですが、今苦労していることや、過去も含めて大変だったことのエピソードがございましたら教えてください。

山口:そうですね、ゲーム運営って、先が見えないというか、想像しきれないことが多いですよね。成果指標についても、どこまで施策の成果が出たらすごく良いのかとか、今うまくいっているのかいっていないのかっていうのが見にくいと言うか。。。あと非常に先のことを考えた際に、何がクリティカルな課題なのかわかりづらく、そういう場合に盲目的に目の前に見えている課題だと思われるものをとりあえず直していこうみたいな話になりがちです。そういう壁にぶつかると、全体の歩みが遅くなったり、焦って違う方向に進んでしまうことがあります。

片山:確かに定量では効果が測りきれない部分がありますからね。なおさら(前編で紹介したような)ユーザーに寄り添ってゆく定性的な改善施策になると長期的にどうしようっていうのがあるからバランスとるのが大変になりますよね。

山口:定性的に見て必要な事は、ちゃんとやった方がいいと思っています。でも、その成果が具体的にわからないとお金を投資しにくいですよね。例えばTwitterアカウントでみんなにフォローしてもらうためのプロモーションに○百万円かかるとして、 (効果が) 見合っているのかわかりませんが○百万円くださいとはいえないじゃないですか。全社的に測りにくい効果もある一定は大事だよねという意識は持っているので、意思決定が難しいですね。投資対効果がわかりにくく、1,000万だったらいいのか500万円だったらいいのか50万だったらいいのかわからない。

片山:それは難しいですね。組織としてもそういう定性的な投資をどう評価して重要なものとして認識していくのかの意思決定は大切なのかもしれません。皆さんはいかがですか。

松本:皆さんもそうなのかもしれませんが、少ないリソースの中で、チームとして、新機能を追加するか、既存機能のKPIとなっている数字の改善するかの判断に苦労しますね。改善施策は実際にやってみないと効果が分からないので、やってみたら失敗だった、ということもあります。新機能より改善を優先させて失敗が続いたときに、もう細かな改善はやめて新機能に注力しよう、と施策の方向が目先の失敗でブレてしまうのがちょっと怖いなと思っています今は自分の感覚値で、これは絶対いけると思ったことをやってみて、今まで色々やってきた中でも1回くらいしか結果が出なかったことがないので、今は口が出しやすいのですが、その精度がわからなくなったときは悩ましいですね。

松山:今の苦労ではないのですが、今後ユーザー数を増やしていきたいと考えているのですが、どこかで今まで取れていなかったユーザー層も獲得しに行こうと言う話になると思います。そうしたときにその取れていなかったユーザー層に、先程の松本さんの話のように新機能やサービス改善を合わせていくことが必要になると思うのですが、その時にサービス提供価値がぶれたり変わってきてしまわないかを危惧しています。そうなると既存の今現在使っているユーザー層がどう思うのだろうかとか、何を指標にしていいのだろうかとか、どれを正しいと置くかとか、その判断の壁には今後ぶちあたるようになるだろうなと思っています。

片山:それは興味深いですね。私達の広告代理店の業務の中でも、例えばクライアントのソーシャルゲームがある一定のユーザーを獲得した後にテレビCMを中心にマスに出稿してさらにこれまで取れなかった層にも訴求して認知させて新規流入をあげようというのが1つトレンドになっているのですが、根本のコンセプトは大事にしつつも、UXや訴求コピーを(新規ユーザー層向けへ)変えていくときに既存ユーザーからネガティブな意見が発生するということが時々ありますね。どちらにしてもサービスが成長していく中で通る道ですし、ダウンロード数やターゲットユーザーの獲得に関しては基本的に目に見えて結果が出るので、継続されるのですが、本当の意味で万人受けするのは難しいので、その課題はあると思います。北尾さんはいかがですか?

北尾:そうですね、私の場合はアナログなのですけどやはり時間との戦いで。(笑) 私1人でやっているので、やりたい施策を全部はやりきれてない感があると思います。もっとユーザーを増やしたり、特定地域の人へのアプローチだったり、また、ユースケースを増やすなど実施したいと思っています。サービスを使用してくれる可能性のある人達がいるはずなのに全然リーチできていないというのが一番の課題です。

山口:確かに(リーチが)届いていないユーザーに届けることは難しくて、三国志も基本的にユーザーごとに興味関心が異なっていると思っています。『三国志ロワイヤル』は硬派に作っているので、たとえば三国志は知っているけど、三国志演義を読んでいないユーザーには細かい部分は伝わりにくいと思っています。そのままで提供しても良さが伝わらない、と。じゃあ、みんな三国志に詳しくなってもらおうという夢プランがあります。

まだできてないんですが、雑誌の『LEON』でイケてるひげおやじみたいな特集組んでもらって、「イケてるひげは三国志ひげです。」って。その特集をNEWS ZEROで櫻井翔君に取り上げてもらって、嵐ファンの女性が「ああ三国志のひげってイケてるんだ!」って思うとします。そして、三国志ファンの男性がまた同じNEWS ZEROで桐谷美玲さんが「いま巷では三国志が好きな女性が増え始めているようですね。三国志に詳しい人って知的で素敵だと思います。」って言っているのを見て、さらに三国志が盛り上がるといったブームを作れないかなぁと思っています。

そういうことをやっていかないと、より多くのユーザーには届かない。ゲームといまの三国志市場からだと、やっぱりユーザーが限られちゃうんじゃないかなと。それなら、そもそもファン作りをしていく必要があるなって。それが『三国志ロワイヤル』だと三国志ファンなんです。

片山:そうですね。ユーザーリテラシーにおけるキャズムを超えていくことへの達成は難しいかもしれません。皆さんありがとうございます。それでは今度は逆にやりがいとか楽しいことを聞いてもいいですか。

ユーザーのリアルな声がモチベーションに繋がる

IMG_0490
山口:未知の価値にDeNAは挑戦しているなっていう実感がいいですね。PDCAをいかにに速くするのかは当たり前だけど、それだけじゃなくて新しい領域にも突っ込んでいく感っていうのを、今ほんとにゲーム部署に加えて、色んな部署で大事にしています。

松本:そうですね、TwitterとかSNSが普及、使えるようになってきてユーザーの反応がすぐ見れることですね。新しい機能とか施策を出した時に、良い反応・悪い反応がすぐ入ってきて楽しいです。弊社だと社内のコミュニケーションにチャットツールを使っていて、そこにTwitterの発言とかを常に流し続けています。もちろん事前に発見できた方がいいのですけど、そこから新しい不具合を発見したりとか、ユーザーの不満も拾って、ユーザーとコミュニケーションが出来たりすると結構楽しいなと思いますね。

松山:今サービスが伸び始めているので、そこが楽しいですね。毎日数字をみて、「おお伸びてる!」みたいな。あとは松本さんと同じようにTwitterの反応を見ています。僕もFilmarksのツイートですね、アプリとかサービスから定型的にツイートする分があるんですけど、それを除いたユーザーのツイートを常に見るようにしています。それこそ1時間に1回くらいみていて、反応を見て「結構いいな!」とかつぶやいてくれたらうれしいですし、ネガティブなところもそれで改善につながりますし、そういうのが見るのがすごく楽しいですね。

北尾:私はカスタマーサポートもやっているので、やっぱりお客さんの反応が最終的にはすごく嬉しいかな。例えばお客さんがUberでプロポーズしているのを教えてもらえるとそれもうれしいですし、2月14日に昨年はバラの花束を強制的にユーザー搭乗者全員もらってもらったのですけど、それを全世界の都市でやって、デートの前に花をもらってうれしかったとか声をもらったり、そういうお客さんの反応が直接感じられるのが一番うれしいですね。

あとは他にも色々エキサイティングなこと、例えばいつもの車の配車とかじゃなくて、アイスクリームを配ったりとか、クリスマスオンデマンドをして、その結果子どもたちにプレゼントしたりとか、そういう面白い施策が一杯できるのも楽しいですね。co-marketingをさせていただく様々な会社様や、その中で出会う方も、すごい面白い人ばっかりなので、そういう意味では本当に暇なことがないというか。毎日非常に楽しいですね。

山口:ユーザーに褒められるとうれしいですよね。僕も「神運営」とかって言われて、喜んだことがあります。

片山:確かにそれ言われたらうれしいですね。

山口:で、次の日に別の機能をリリースしたら「なんだこのクソ運営が!!」とか言われて落ち込みましたね(笑)。

一同:(笑)

松山:僕もありますよ、それ時々。(笑)

北尾:でも文句言ってくれるお客さんは文句言ってくれるだけの理由とかがあるから、それをどうハッピーに変えていくかとっていうのは重要ですよね。

松山:想いがないと文句も言わないですもんね。

片山:皆さんユーザーと向き合うことをすごくポジティブに捉えている。そういう姿勢やスタンスがサービスを良くしていく上で生産的なのかもしれませんね。

北尾:私達はドライバーさんもいるので、50,60代で初めてソーシャルメディアに自分が登場するパートナー企業のドライバーさんもいて、彼らの意見を聞くのも楽しいです。「初めて自分がYouTubeに取られました。」とか、そういうのもドライバー同士で盛り上がっているみたいで、普段は別のハイヤーの運転手さんなんですけど、「Uberのシフトの時は面白いお客さんがすごいいっぱいいるんで楽しいです。」とか言ってくれて、そういうのを聞くのも嬉しいです。

片山:いいですね。そういったパートナーや関係先との密なコミュニケーションもサービスを良くしていく上で、重要だと思います。

グロースハッカー流の情報キャッチアップ術とは

IMG_0437
片山:次の質問なんですが、ご担当されているグロースハックとか共創意識したPRもそうなのですが、(もともとベースの知識や近い概念・コンセプトはあったにしても)比較的新しく出てきた領域じゃないですか。日々のスキルアップとか勉強とかそういったことのはやられているのでしょうか。

山口:エンタメ作る人間なので、世の中の面白いものは出来る限り把握していないとまずいなと思っています。ユーザーも体験したことによって、感性も変わっていきますよね。例えば、映画の『アバター』を最初に見て3Dの臨場感を体験した人って、ちょっと(これからも)3Dに対して期待すると思います。そういう感動を知っておかないと何も提供できないな、と。なので、ひたすらマンガを読んだり、ジャンプやマガジン、ヤングジャンプなどの週刊誌を毎週読んだり、映画を見たり、仕事中もアニメを横で流して、最新のエンタメ情報を早くキャッチアップしています。最近だと例えば宝塚歌劇とかにも行きたいなと思っています。

松本:その業務用の勉強とかはしないんですけど、やっぱり面白い他社のゲームとか、心理学系とかUI/UXとかデザイン系のキャッチアップはしていますね。・・・あと、グロースハックジャパン!

一同:(笑)

渡邉(GHJ編集):ありがとうございます!!

山口:僕も、もちろんですよ!!!(笑)

片山:重要な情報源として機能しているようでうれしいです。(笑) 皆さんいかがですか。

松山:ちょっと違うところかもしれないんですけど、僕は元々エンジニアの志向が結構強い方なのかもしれないと思っていて、プログラミングの勉強やキャッチアップはまあ常にやり続けたいなと思っているのがあります。先の3年後か5年後を含めて、こういう世界になっていくのだって言うのは、技術が起点になったりするケースが多かったりするので、そういうところは新規技術の情報は多く見てキャッチアップしていますね。それこそ大学の研究室の人がみる論文も日々追っていたりもしています。

北尾:やっぱり人と会ったりとか、面白い人と知り合っていくことですね。その他、情報収集のやり方として、ソーシャル上で面白い情報とかニュースとかあったら、それをクリップしてevernoteにまとめていたりしつつ読んでいたりします。あと忘れがちなので、Facebookとか自分のウォールに必ずそのニュースがあるようにあえて意識的に投稿して残しています。

片山:ありがとうございます。それと関連するのですが、最近気になっているサービスとか本とかありますか。皆さんの競合とかはリンク貼らないようにしておくので、ご安心ください。(笑)

松本:ボードゲームが最近面白くて、買っています。あとは小さいカードゲーム系。Webサービスで言うとクックパッドが好きですね。UXに関して真摯な感じがするし、最近は開発のアウトプットも多くてとても勉強になります。

山口: 最近注目しているので言うと、MMORPGですね。ユーザーとの接点が参考になります。あと、他で言うと、アイドルグループはエンタメコンテンツ的な観点で見ても勉強になりますね。AKBとか嵐とか、手を振っただけでお客さんが「キャー!」となるすごいいい空間、あの空間はゲームにあったらいいかも。

片山:確かにアイドルのエンターテイメントは最高のUXの例かもしれませんね。

松山:Filmarksは映画のレビューサイトなので、やはりクックパッド、食べログさんみたいな最大手の口コミ・レビューサービスがどう成長してきたのかは気になっていますね。あとFacebookとかTwitterとかのサービスのアップデートも常に良く見ています。改修の履歴とか見ています。書籍で言えば、リーンアナリティクスの著者が出した最新刊の日本語版も出たので気になっていますね。分析の定性・定量評価も併せて実施する例がでていて勉強になります。

北尾:スリープマイスターは気になっています。見ているだけで面白いです。

山口:御社のサービスとセットで考えると、良さそうですよね。

北尾:昼寝オンデマンドしたいんですよ、極上の昼寝場を提供。昼寝ドライブみたいな。(笑)

松山:プロモーションになりそうじゃないですか。

グロースハッカーたちの今後の目標

IMG_0474
片山:面白いですね。実施されたらぜひ教えてください。最後の質問なのですが、今後の目標やビジョンを教えてください。個人としてと、サービスご担当としての2点からお答えいただけたらと思います。

山口:個人としては、もっとユーザーのことを考えられるようになることですね。どういうことかというと、男性女性とか年齢だけじゃなくて、例えば、最近家族とちょっと仲が悪そう、とかそういったところまでいかにユーザーのことを想像できるかがサービスを作るうえでカギかなって思っています。

サービスとしては、やっぱりDeNAゲームってブランドがすごい良いよねというような状態で進んでいくのが会社にとってもユーザーにとっても、すごいハッピーだなと思うんですよ。今少しずつ始めてはいますが、お客さんがすごく長く遊んでいてくださるので、その遊びの体験をちゃんと最大化させていきたいなっていうのがありますね。「DeNAで働いてるんだ」って言ったら、「あのすごいいい会社」って言われるような関係を作っていきたいなって考えていますね。

松山:個人としての目標と会社としての目標にあまり区別が無いんですけど、Filmarksというサービスがまだ(規模的に)子どもみたいな感じで、ユーザー数も少ないですし、マネタイズも全然できていなくて、今の規模のままだとそこそこ良いサービスで終了しちゃう状態だと思っています。なので、ユーザー数増やして、マネタイズまで成功できて、初めてこうビジネスとして成功したということになるわけで、僕も成功したと言えるまではグロースハッカーだと自信持って言えないと思いますし、そこをまずは目標にして頑張っていきたいなと考えていますね。

北尾:私もあんまり(個人とサービスの目標の)差はないんですけど、Uber東京としては世界で一番ポテンシャルがある街東京を、さらに 大きくしていきたいと思っています。あと今年は他の都市でも広げていきたいと思っています。コミュニティマネジメントをさらに強化し、外向きのいろいろな活動をやっていきたいと思いますね。

松本:個人の目標でいうと、仕事の話で言えば、今期からステーションメモリーズ!とかその前の担当アプリでやっていた実績が評価されて、もうちょっと広い範囲で複数のアプリの開発/グロースハックを担当することになったので、エンジニアとしてのプレイヤー活動とマネジメント業務とのバランスをうまく取ることが目標です。また、結構感覚値的なところで、どんどん改善を進めていたことを、もっと他の人に教えたりとか、他の人もグロースハックできるような数字的な部分とやりかたをノウハウとしてまとめていくことも目標かなと思っています。サービスの話で言えば、もちろん長く続けていこうというのがあるんですけど、例えば「奥多摩へ行こう!」というイベントをやっていて、最近ユーザーさんが小旅行みたいな感じで奥多摩に行くというリアルイベントも走っているので、そういうゲームを通じて新しい体験をユーザーに提供するっていうことをもっとやっていきたいですね。

片山:ノウハウ体系化っていうのは重要ですね。皆さんそれぞれ素晴らしい目標をお持ちで、サービスの今後も本当に楽しみです。パネラー間のディスカッションも積極的にしてくださり、ありがとうございました。これで取材は以上になります。本日は誠にありがとうございました。

●後編を終えて ~筆者から~
前編にもふれたユーザーさんとの向き合いやサービスの成長がそのままやりがいにもなっていて、とても前向きな姿勢が勉強になりました。グロースハックの思想の大事な要素にユーザーファーストがあることは周知の話なのかもしれませんが、それを改めて感じた次第です。また、このインタビューの後に、例えばモバイルファクトリーさんがご上場されたりと、詳しくは書けないことも含めてですが、この記事執筆をしている間にも各参加企業さんの中で大きな動きがたくさんありました。

本当に勢いのある企業の現場責任者として一線を戦っている人達とお話でき、尊敬できることがたくさんありました。今後もこういったインタビュー企画を随時続けていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

◆◆各社さんからのお知らせ◆◆
・モバイルファクトリーさん
「ステーションメモリーズ!」:http://ekimemo.com/

-プロモーションコード:1y9z04zt

-入力特典:1週間、1日の位置登録回数制限を気にすることなく、駅を取り放題にできるオレンジライセンスというアイテムが入手できます

-入力方法
①駅メモ!をインストール(AppStore/GooglPlay)
②チュートリアルを突破
③画面右上の設定アイコンをタップ
④「個人設定」をタップ
⑤画面中央に「秘密のコードを入力してネ」とある欄に該当コードを記入

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・つみきさん
※グロースハッカーを募集中です!※
日本一のグロースハックチームを一緒に作りましょう!グロースハッカー募集! – Wantedly
https://www.wantedly.com/projects/16642

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

WEBサービスの現場最前線で活躍する人達のグロースハック座談会(前編)

<第1回 グロースハック座談会@電通オフィス>
【スピーカー】
・UberJapan株式会社 北尾恵子 氏
・株式会社つみき 松山岳史 氏
・株式会社ディー・エヌ・エー 山口恭平 氏
・株式会社モバイルファクトリー 松本祐輔 氏
【インタビュアー】
・株式会社電通 片山智弘

フロントエンジニアリング × チームマネジメント

株式会社電通 片山智弘(以下、片山):本日はよろしくお願いいたします。ファシリテーションをさせていただく片山と申します。それでは早速お話に入っていければと思います。まず初めに会社名とお名前、そしてご担当されているサービスと業務内容について簡単にお話し頂ければと思います。じゃあ時計回りで行きましょうか。

IMG_0462

株式会社モバイルファクトリー 松本氏

株式会社モバイルファクトリー 松本祐輔(以下、松本):はい。モバイルファクトリーの松本と申します。メインで担当しているサービスは「ステーションメモリーズ!」という位置情報を使ったソーシャルゲームになります。全国にある駅をかわいい女の子と一緒に、アクセス/チェックインをしてお互いに奪い合って遊びます。

片山:松本さんはどういった業務を担当されているのですか?

松本:業務としては、割と手広くやっているのですが、僕がメインでやっているのはフロントエンドエンジニア です。フロントエンドと言うと、会社によって何をやるか色々違うと思うのですが、弊社ではjsとかHTMLとかcssとかの技術的な部分と、あとはUIとかUX、ユーザーが触りやすいアプリをつくるユーザー体験であるとかをひっくるめてやっています。他には、フロント(エンジニアリングの)業務周りで、全社的な技術力の向上であったり、デザイナーとかイラストレーターのマネジメントとかをやっています。

あとは担当しているステーションメモリーズ!において、改善サイクルを回しやすくしたり、開発効率をあげたりするために、チームマネジメントやシステム設計、開発フローの構築などを行っています。 グロースハックの関わりとしてはフロントエンドとして、UIやとかUXを上げ改善するため にユーザーの反応を見たりとか、実際のデータを分析してユーザーがつまずいている部分をみて、どんどん改善していき、よりゲームを面白くデザインするところかなと思っています。

人気ソーシャルゲームのプロデュース業務

IMG_0430

株式会社ディー・エヌ・エー 山口氏

株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA) 山口恭平(以下、山口):DeNAの山口と申します。

今の部署で言うと、アプリとかリリースしているゲームを全般見ているのですが、その中でも僕が立ち上げた「三国志ロワイヤル」というタイトルの話が今日はメインになるかなと思っています。現在100万ダウンロード以上のソーシャルゲームなのですが、(自身がプロデューサーとして)最初に出したアプリのタイトルとして、結構色々な試行錯誤をしてきたので、今日はそんなところを話そうかなと思っています。よろしくお願いします。

片山:ありがとうございます。山口さんは普段はどういったお仕事をされているのですか?

山口:ちょっと僕説明難しいのですけど(笑)、まずプロデューサーという立場からお話するとタイトルの方向性とか、あとチームビルディングとか開発プロセス管理とかですね。このタイトルはこの戦略でいくのかとか、(三国志ロワイヤルの例で言えば)三国志の市場ってどれくらいあるのだとか、そもそも三国志のファンをもっと増やすためにどういうことを考える必要があるか、そういったところまで全部設計する。マーケティング施策もユーザーとのコミュニケーションのポリシーとかも全部決めていくっていうのがプロデューサーとしての役割です。

その際に大事にしているのは、もっとユーザーと近くなろうと心掛けることです。結局僕たちが提供しているのは、面白さなので、バリューってそこなんですよね。でも、面白さってKPI立てられないじゃないですか。ユーザーにゲームがどう思ってもらえているかって測りにくいものですよね。そういう見えないKPIとかユーザーがどういう風に思っているのだろうというところへ深く入り込むことが大切だと思っています。そうすると例えばゲームの中だけでなく、カスタマーサポートの返信が3時間だったのか5分だったのかのところとかは効果として定量的にはわからないけど、それは5分の方がいいので、それがどういう意味があるのか意味付けして、チーム全体で動いていくというのをオーナーとしてやっているという感じです。

話題のUberのコミュニティ作りを担当

IMG_0476

UberJapan株式会社 北尾氏

UberJapan株式会社 北尾恵子(以下、北尾):はい。「Uber」の北尾と申します。(サービスのご説明)まあUberはあれしかないんで!

一同:(笑)

片山:サービス概要って言うとなんて説明すればよいでしょうかね?高級タクシーっていうか・・・・。

北尾: Uberはスマートフォンでハイヤーとタクシーの配車ができるサービスです。そこのコミュニティづくりを全般的に担当させていただいています。

私はざっくり言うと東京というコミュニティを盛り上げるとか、最終的にはうちで利用者の方が盛り上がってくれるというか、Uberを使ってハッピーになってくれるというのが会社としての目的なので、私は何の役割というと、そのコミュニティを盛り上げるために外向けのコミュニケーション全体的に全部担当させていただいています。

そこで、グロースハックという言い方かわかりませんが、ユーザーの数を増やすとか、満足度を上げるとか、そういうところがもしかしたら今回のこの記事の中ではお役に立てると思います。具体的に申しますと、カスタマーサポ-トとあとPR、コーマーケティングとプロモーションといったマーケティングのところと、あとはソーシャルメディアでの自社での発信とかそういうところを主にやっております。

500万レビュー!日本最大級 映画レビューサイトのグロースハッカー

IMG_0478

株式会社つみき 松山氏

片山:では最後、松山さんお願いします。

株式会社つみき 松山岳史(以下松山):はい。株式会社つみきの松山と申します。担当は「Filmarks(フィルマークス)」という映画のレビューを書くためのサービスですね。ちょうど昨日プレスリリースを出したのですけれども、現在500万マーク(レビュー数)を突破していて、日本最大級の(映画)レビューサービスと言ってもいいのではないかという感じです!

松山:仕事内容は名刺の肩書にも書いているのですけれども、グロースハッカーという位置付けで、Filmarksの成長をさせることが僕の主な仕事内容です。グロースハック、そしてユーザー数を増やしていくことは、チーム全体でやるべきことが大切なので、その中では、まずKPIの設定をし、その成長スピードを上げていくために、開発サイクルを改善していくことです。その後も具体的に施策を打っていくと言うことになるのですけれども、その中でもどういう施策が効きやすいのだというところを見つけて、更に細かく最初に決定した指標を定めます。

その後みんなで(その指標に向かった)ABテストの案を出して、分析していくのですけれども、僕は(その案出し作業のところでは)必ずしもメインではないなと思っていて、方針とチームを作るところが一番大きな役割かなと自覚しています。

グロースハックにおけるKPIとは?

片山:ありがとうございます。それでは少しずつ掘り下げていこうと思うのですが、色々とご質問をさせていただきますので、守秘義務の範囲で教えてください(笑)。また、私だけではなく、参加者の皆様の間でも質疑応答出来ればと思っています。まず、つみき松山さんは名刺の肩書もグロースハッカーということで、(松山さんだけではなく、)社内でグロースハックのチームを組織してやっているのでしょうか。

松山:グロースハックのチームと言う肩書は無くて、サービスの方向とKPIをフェイズ毎に分けてそれに向かってやっていくチームですね。それを僕と社長と2人で中心に。

片山:社長と2人でですか!?社長も(経営だけではなく、サービスの)KPI数値も非常に意識されている?

松山:そうですね、僕が分析結果を元にこうすれば数値があがるのではないかという仮説をあげて、それを元に議論をすることを社長と繰り返していますね。

山口:KPIは何を見ていらっしゃるんですか?

松山:(2014年の)7月~12月までの5ヶ月間は「初日クリップ率」というのですけれども、Filmarksには見たもの「マーク」するのと、見たい映画を「クリップ」するという2つの動作があるのですが、特にクリップの方に重きを置いて、初めてクリップするまでの割合をKPIにしていきました。それが高いと継続的にマークもクリップもして使ってもらえると言う仮説を、まず、データで示すと初回のクリップ率が一番落ちているので、ここから上げていったらいいのではないかと伝えて、サービスのKPIに設定したという理由があります。

片山:最初のチュートリアルの段階でFilmarksのアプリは3クリップくらい映画を選んでするじゃないですか。あれもそういう施策の一環なのでしょうか。

松山:はい、そうですね。最初のこの設定があるだけで、クリップをさせる施策なのに結果的にマークまで増えて、アクティブ率がすごく上がります。それが一例です。

片山:いいですね。北尾さんのところでは、「盛り上げる」とか「利用者をハッピーにする」というのがミッションあると言うことでしたが、それはイメージとしてはわかるのですが、具体的に盛り上がったというための数字などを設定したりとかをされているのでしょうか。

北尾:そうですね。新規のユーザーさんがどれくらい増えているのかというのは市場の広がりとして見ていたりしますね。後はソーシャルのいいね!数や、ソーシャルのリーチ数を見ていたりします。

片山:ソーシャルのリーチ数と言うのは件数や届いたフォロワー数の総和、定性的に言えばポジネガ判定(Twitterのツイートの文脈を見てその発言がポジティブ、ネガティブか判断する手法)などもあると思うのですが、皆さんも見ていたりするのでしょうか。

山口:見ていますね。今Twitterはリーチ数がすごく見やすくなっていたりするじゃないですか。リアルタイム検索も見ています。ちなみに結構くだらない話で言えば、メディアとか出た後も自分の名前とかで検索していますね。

一同:笑

片山:今日の取材で1記事増えますね(笑)。

山口:そうですね(笑)。取材記事ページで「ツイートする」って(プラグインが)あるじゃないですか。あれがどれだけいったのかなとか。

北尾:確かにそれとかも見たりしますし、Twitterとかもうちはハッシュタグとか付けていなくて、「Uber(ウーバー)」などをキーワードにして、どれくらいの人がつぶやいているのか、一年前とかに「早く(Uberが)来てほしい」ってつぶやいていたツイートに「Uber来ました!お待たせしました!」とか返したり、そういう極めてアナログなこともやっています。うちは(サービスとしては)非常にデジタルなのですけど、最終的にはドライバーがいて乗ってもらってという人と人との体験があるので、そういうデジタルなところでもアナログなコミュニケーションって非常に重要かなと思っています。

片山:私もとても大切だと思います。あと、Uberさんはクーポンや利用時のチケットのインセンティブ施策があるじゃないですか。あのサービス設計で1,000円だけ引くとか、イベントに呼ぶとか色々なやり方があるのと思うのですが、そういった設計も北尾さんが手掛けていらっしゃるのでしょうか。

北尾:そうですね。例えば、最初2013年11月にUberのテスト運行をスタートした際に、初回のご乗車が5,000円引きで乗れるのを六本木近辺でやっているときがあって、平均利用金額を見ると割引をやりすぎたなってところがあったので、そういう利用動向を見て色々やっていますね。

なので、例えば今は4,000円引きクーポンを出しているのですが、2,000円引きを2回にした方がいいのか、1,000円ずつを区切ってやっていった方が良いのかなどを検討しています。カフェアプリと連携して清澄白川の当たりで、カフェ巡りをUberでしようという施策をやっていて、これは1,000円ずつに分けているのですが、どれだけ同じクーポンコードで何回いくら使えるかで利用率がどれくらい高いとか話題性があるのかはモニタリングしたりしていますね。それがPR的なネタになったりするかしないか、デジタル起点がいいのかリアルのレストランなどのインストアで直接置かせてもらった方がいいのか、ちょっとしたおまけがあったりするとどれくらい使われたりするのかを見ていたります。

片山:結果が気になりますが、守秘義務で書けないかもしれないので、この辺にしておきましょうか(笑)。

サービスをグロースさせるチームビルディング

片山:山口さんと松本さんは割とマネジメントの役割も比較的多い印象がしたのですが、チームでユーザーをグロースさせていく中で、マネジメントやチームビルディング的な観点で気を付けていることとか意識されていることはございますか。

山口:マネージャーではないのですが、他部署の人とチーム組んでやる時って、「僕達ってどこ向かっていたんでしたっけ?」というところが結構曖昧になることが往々にしてあって。1個のゲームでも、すごく難しいのが、数字だけで面白さが語れないというのがあって、いくらチュートリアルの突破率が高くても、例えばチュートリアルがワンタップで終わったら、チュートリアル突破していても、まあユーザーには通じていないじゃないですか。こういうのは結果指標でしかないので、ユーザーがどういう風な感情や遊び方になってくれたら面白いというのをちゃんと作っていかないといけない。そういったところをみんなで方向性がぶれないようにしています。

あと結構近視眼的な思考になりやすいですからそれも気を付けています。膨大なデータが取れる環境にあるので、そこだけ見て一部だけ直せばよいのではないかという思考になりがちなんです。

片山:数字強い人多そうですもんね、御社は(笑)。

山口:(ゲ-ムに関する)あらゆるデータが取れています。でも、データはゴールにたどり着くために必要な要素のひとつであり、ゴールを見失わないためにどこまで具体的に描けるかとかを大切にしています。ただ、そもそも(そのゴールイメージが)ちゃんと正しいのかというのもわかるのが結構先の話で、チームメンバーがそれをどのタイミングで何を意識するかが違ったり、そもそも面白いと思わなかったりとか、色々違うので、それをすり合わせるのが一番大変かなと思いますし、やらないとダメだなと思っています。

片山:そもそも最初のゴールイメージに戻ることと、その共通認識を作っていくのが、大切ということですね。松本さんいかがでしょうか。

松本:3つあります。1つは今ちょうど新規の立ち上げをやっているのですが、立ち上げた時にちゃんとチームの哲学とかアプリをユーザーにどう触ってほしいのかということを決めるのはかなり重要視しています。そうしないと、ユーザーからの意見が出た時にどんどんぶれてしまうので、ユーザーからこういう意見が出ても自分達はこう作っていきたいから、それは自分達の道を突き進んでいった方がいいという意思決定も結構重要視しています。

あともう1つは自分達が作って楽しいものを作るということです。数字を見ていたら、ここを変えた方が数字が上がるとわかっていたとしても、それは自分達が楽しいことなのかとか、自分達が一番のプレーヤーなので、それを遊んでいいと思うのか。若干雑な例を出すと、退会しにくくなるようにすれば退会率は減るかもしれませんが、それって自分達がユーザーに対して嫌な事をしているという気持ちになるじゃないですか。

最後は(作ると決めたことは)あまりこだわりすぎないこと。出してみないとユーザーの反応はわからないので、作る時に悩んで時間をかけてしまうよりかは、ある程度のものが出来上がったら公開して、ユーザーの反応を見て解析・改善していくようにするというのが気を付けているところです。

片山:いいですね。「こう触ってほしい。」と言う哲学は持ちつつも、ユーザーの声も聞くという、このバランスを取っていくことがエンジニアでチームをまとめていく上でも重要と言うことですかね。定性的なユーザービリティの設計は難しいですね。

山口:そうなんですよね。この前、(ある画面の)演出を0.4秒速くしたんですよ。反応速度がコンマ数秒遅いから気持ち悪いと思ったからです。適切な速さって、データで取れないじゃないですか。でも、そっちの方がやはり気持ちが良いユーザービリティなんです。パズルゲームがわかりやすくて、(動作が)速すぎても気持ち良さってわからなかったり、絶妙な感じの演出をテンポ良くやってくことが気持ちいいとか、基準がゲームごとで違っています。あと、電車の中でスマホを持っているところを想像して、今スマホはどんどん大きくなっているから、昔は左上から画面のボタン置くことは従来重要だったけれども、今電車乗って片手で(大きな)スマホ持っていたら左上を押せない。ということがあったり。でもそれを表すデータが取れないのですが、普通に考えたらそりゃそうだよね。というのをちゃんとやっていくのを結構大事にしています。

松本:それは結構ありますね。ステーションメモリーズ !は移動しないと出来ないゲームなので、電車や移動中に触ることが多いので、外でも見やすいとか、片手で操作できることがすごく重要です。数字は取れないんですけれども、作る上でこうしましょうと言うのはしっかり決めてやっています。

山口:例えば電車の中で通信たくさん走らせていたら、大変ですもんね。

松山:(そういう設計は)どういった意思決定プロセスで考えられているのですか。トップダウンでこういう機能の方が面白いと誰かが決める人がいるのでしょうか。

山口:究極的にはプロデューサーがその決定をする立場ですよ。ただ、すごい反論食らったりもします(笑)。「俺こっちがいいと思うんだけど!」って言ったら、チームメンバーから「えっ!?」みたいな。

松山:僕らの場合は社長が元々デザインへのこだわりやニーズの把握力があったりするので、そこは任せています。弊社社長もそうですが、山口さんのように決められる人が権限を持っているのはいいなあと思って聞いていました。

山口:大事なのはどういうユーザーが遊ぶのかというペルソナとかそのターゲットの人とかですよね。三国志好きな人って、30代後半から40代くらいの男性で、本とかマンガを読むのが好きな人だと思っていて、その人と自分って明確に違うじゃないですか。自分は小さいころから三国志にずっと触れているけど、(メインの)ターゲットとは違うので、そのターゲットの方に直接、「こっちとこっちはどちらが気持ちが良いですか。」と聞いて決定することもありますね。

ユーザーに選ばれるためのコミュニケーション

片山:つみきさんは(今回のFilmarksの自社サービスだけではなく、)制作会社も兼ねていらっしゃるので、そういう制作知見に基づく判断も良いなと思いましたし、山口さんがおっしゃっているユーザーからのヒアリングもサービス設計の手段としていいですよね。最近皆さんが今の役割でやっていらっしゃる直近の施策について聞いてもいいですか。

松本:さっきの話に絡めると、最近、アプリの画面上にあったメニューボタンを画面下に持ってきました。iPhone6とかiPhone6plusが出てきて、自分がプレイしていても、他のプレイしている人を見ても、届かないというユーザーが出ていたので、変更しました。後は、継続率周りの改善で、チュートリアルでページ毎にどこで離脱しているのか計測して離脱の多いところを改修したり、他にも、RPG系のソーシャルゲームだとチュートリアルで(アプリの使い方を)長めに説明しているのですけれども、位置情報ゲームだと移動しないことはわからないので、チュートリアルで「移動してみよう!」っていったら、退会しちゃうんですね。

一同:それは難しい!(笑)

松本:なので、チュートリアルはサクッと終わらせて、終わった後にどんなことをしたらいいのかを教えてあげるというのをちょっと作り込んでみたりとかしています。

山口:三国志ロワイヤルでは、広い話で言うと、それこそソーシャルメディアとかユーザーと接点持てるところをどうしていくのかまで考えています。ユーザーインタビューを実施したり、あえてメディアに出るとか。今まで、うちの会社ってプロデューサーがあまり表に出なかったんですけど、「はじめまして。プロデューサーです。」みたいな感じでメディアに出たりとかしています。するとユーザーが「お前が責任者か」とか。

一同:(笑)

そういう風に表に出て、個人として認識してもらえることがまず大事かな、と。

北尾:それと関係ありますが、前に元電通のさとなお(=佐藤尚之)さんが前におっしゃっていたのが、「ソーシャル時代になって、表も裏もないというか、全てを全部一貫して一人の人」みたいな発言をしていて、私も結構ソーシャルとかは結構ダダ漏れと言うか、色んな人とFacebookでも友達になったり、名刺交換しても「Facebookとか申請していいですか?」みたいな感じなので、私が週末どこに行ったとかいうのもバレバレで(一同 笑)。でもそういうところでどんどん点を打っていくと言うのですかね、それでファンとか自分が何やっているのかわかっていくというか、それがお仕事にもつながったりするので、今後は「Social」でつながるというのが本当に加速する気がします。

山口:究極的に使うのはユーザーじゃないですか。Facebookでつながりたくないとか顔バレしたくないというのはユーザーからしたら結構どうでもいいんです。運営側が出ることでサービスよくなるのだったら、出ようよという話で。僕からすると。逆に出るなと言われたら求められていないのだから出ないですが、とにかく運営都合で考えたくないですね。

片山:運営の都合を押し付けないのは重要ですよね。Uberさんの最近の施策はいかがですか。

北尾:そうですね。3つくらい新しく始めたのがあります。まずドライバーへのヒアリングで施策を実施しています。うちって個人情報ほとんど取っていないんです。名前とメールアドレスと電話番号、あとクレジットカード決済時にスキャンするくらいで、ですので、ドライバーさんに「この頃こんな人達が増えている」などを教えてもらったりしています。

朝はUberで通勤する人が多くて「通称ウバ通」と言っているのですが、昼間はお子様を持ったお母さんとかが結構使ったり、夜は会食とかデートで使うみたいな、ユースケースを見るようにしています。そして、それを踏まえてママアウトリーチの施策の一環で、この間yelpさんとママ向けのイベントに弊社も入らせてもらって、帰る時はUberで帰ろうと促すような、そういうユースケースごとの施策をしています。イベント協賛やターゲットをされたメディアに記事を書いてもらったりとかクーポンを掲載するのをやったりとか。

あともう1つはリアルなところにも頑張って出るようにしていて、実店舗にPOPを置かせてもらったりしています。クーポンコード2,000円分のコードが10,000枚本社から送られてきてどうやってこれを配ろうと思って(笑)。だから実店舗の人の置きたいというのをブログや自分で開拓して集めて配って素敵な感じのレストランとか美容院で配ったりとか、そこにPOPだけじゃなくて、トイレやメニューの中に貼ってもらったりとかもあります

。ちなみに今だったら「(初回限定に限るということをきちんと明記して)Uber0円。電車に揺れて160円、タクシー数千円」といったような比較コピーを使ったりしています。ですので、リアルでもそういう目につくところに置かせてもらったりしていますし、それが結構いい結果につながっていたりします。

最後にはユーザーさんのハッピーな声をユーザーさんに言ってもらうことも大切かと。更にリアルな人の声っていうのは信頼やシェアにつながったりするので。例えばイルミネーションをUberで行ってみようというのとか、夫婦の日というのが11月22日にあったのですが、その日に「夢のUberで行く夫婦ラブラブプラン」というのをソーシャルで聞いて、その素敵なプランをUberで実現したい!というのを募集したりしました。必ずブログに書いてくれるというのを条件に集めて、Uber代が無料になる素敵プランをネットにあげてもらいました。なので、そんな感じで、ユーザーさん発のコンテンツを増やしていきたいなと思っていて、これがグロースハックなのかはわからないですけど、山口さんがおっしゃっていたように本当にユーザーさんの声とかをどんどん集めていきたいなと。

松山:色々仕掛けていたりするのですけれども、ユーザーイベントを12月に初めて開催してユーザーさん100名越えの人に集まってもらいました。それが結構盛り上がりました。映画が本当に好きな人で語り合うのってすごい熱量だったりします。まだユーザー数もそこまで多くなく、やはり濃い人達が集まっているので、そこから広がっている勢いとかも感じていたりします。LINEのグループもできていて「またやろうね!」とみんな言っていて、この前の土曜日もオフ会のオフ会みたいな感じで集まっていたりして弊社社員もそこに何人か入っていたりして本当にそこで色々議論したりとかこういう機能あったらいいねということを話したりしていたので、こういったイベントを定期的にやっていきたいなと思っています。やっぱりユーザーの声はすごく大事だなと感じています。

山口:その時は「中の人です!」と言って参加するのですか。

松山:イベントを僕らが開いて、各テーブルにメンバーが入っていって一緒にゲームに参加したりとか、二次会も一緒に行ったりとかそういう感じでやっていたりしますね。あとは食事付きの試写会とかやっています。映画を見た後にその映画で出てきたメニューを食べながら話しています。

皆:行きたい(笑)!いいですね。

(以上:前編)

●前編を終えて ~筆者から~
 皆さん、サービスへのこだわりや愛着とユーザーの体験価値や声を大切にする志向性を同時にマッチさせて施策をやっている面が非常に印象的でした。グロースハックもHOW TO部分を突き詰めれば無機質な改善施策に見える一面があったりしますが、その上層にある思想の部分の大切さを改めて感じた取材でした。また、サービスの成長を中心的に担っている参加者同士ということで、参加者間の質疑や議論も大変盛り上がりました。
後編はインタビューアーの皆さんの現場での苦労や課題、そして自己研鑽や最近のトレンド、今後の事業とご自身の目標についてお話ししていただきます。

◆◆各社さんからのお知らせ◆◆
・Uberさん
グロースハックジャパン読者限定クーポン!
「Uber」:https://www.uber.com/ja/
-コード:growthhackjp
-割引:初めてUberをご利用のお客様に限り、初回、2回目のご乗車が2,000円まで無料となります。ハイヤーのみに適用されます。
-有効期限: 2015年4月30日

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
・DeNAさん
「三国志ロワイヤル」:http://on.mbga.jp/tkrpt
すべての三国志ファンに贈る本格戦略シミュレーションRPGです!

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
※次回はモバイルファクトリーさん、つみきさんからのお知らせです。

リテンション改善 – 利益に大きくつながるグロースハックとは

グロースハックのAARRRモデルとはユーザー獲得から活性化~収益化などのユーザー行動フローのこと表したものであり、そのなかでのリテンション(Retention)とは既存の顧客の維持・囲い込み・活用など「ユーザーの継続利用」を意味します。今回はAARRRモデル中でも、どのようにユーザーに再訪してもらうか、という「リテンション」の部分に着目をした記事を紹介します。この記事では製品開発やマーケティングをしていく中で、ユーザーのリテンションを高めていくことの重要性が書かれています。- growth hack japan

なお、本記事は多くの企業の成長支援をしているGrowth DevilA Guide To Growth Hacking Retention Strategiesという記事を翻訳しています。

グロースハックで重要視すべき点は?

どんなスタートアップや大手企業であっても、商品やサービスの展開にあたっては、いかにしてユーザーを獲得し事業を成長させていくかということを第一に考えるでしょう。ユーザーがいればいるほど、利益に直接つながっていくからです。「企業を成長させること」だけにフォーカスしたからといって、ユーザーがそのサービスや商品を継続的に利用してくれる(リテンション)とは限りません。

もちろん、とにかく早く新しい顧客を獲得しなければ、ユーザーをどんどん逃してしまうことになります。リテンションをいかに高めていくのか、ということはサービスやプロダクトをグロースハックしていくうえで、特にフォーカスすべき項目です。

データに向き合う

グロースハックは、データありきの考え方です。つまり、成長までの「過程」よりも、データで分析できる「結果」の方が重視されます。どんなことも、結果として成功すればよしとされるのです。グロースハックは、手段としては従来のマーケティングのような型にはまったやり方はしませんが、だからこそアナリティクスで測定ができるようなもの(=データ)が基準となります。

Mixpanel

MixpanelというツールはGoogleアナリティクスと同じ機能性を兼ね備えていますが、より細部まで見ることができます。例えば、出稿している広告からどれだけの人があなたのWebサイトに来たか知るためにはこのツールが有効です。

mixpanel
また、これは見込み客の絞り込み(セールスファネル)をしてくれます。売上の中のどこで顧客を失っているかを確認できるため、その問題のある部分にフォーカスできるのです。

顧客を理解する

リテンションはまず顧客を知ることから始まります。例えばバーで出会った人に名前も番号も聞き忘れてしまったら、よほどのことがない限りその後もずっと付き合い続けられるような関係にはなれませんよね?その人のことを何も知らなければ、その後の付き合いは始まらないからです。これは「リテンション」にも同じことが言えます。つまり、自社の製品を使い続けてもらうためには、顧客のニーズやどこに不満を持っているのかをよく知る必要があるのです。

多くの企業でユーザー獲得の機会を逃してしまっているのは、市場研究をしっかりできていないからではなくマーケティングの応用に関する視野が狭いがために、潜在的な顧客を失っているからです。リテンションのためのグロースハックはプロダクトのコンセプトをしっかり固めることから始まり、会社におけるあらゆる面へとつながっていきます。

リテンションを再優先にする

現代の市場においては、パレートの法則は正しいといえるでしょう。一般的には、収益の80%はリピーターから得られると言われています。どんなビジネスでも、固定客の基盤がなければ持続的な利益を得ることはできません。
最初の三年で利益を出すようなビジネスよりも、その先何年もの間ずっと成長し、利益を出し続けられるようなビジネスのほうがよいでしょう。

製品開発やマーケティングを行う過程でユーザーのリテンションを目指すことこそが、成功への道筋をたてるということなのです。

retention factory

ユーザーのためにデザインする

スタートアップで製品を開発するときには、現在の市場での顧客のニーズやギャップを埋めることを考えるでしょう。これを考えることで、何から始めたらよいのかということは確かにわかりますが、その後も発展できるような道筋までは示してくれません。

最初の製品モデルが完成したらできるだけ早い段階で、次世代製品もリテンションに重きを置いて開発を進めるべきです。改善のための道筋としてユーザーに自社製品を実際に使ってもらい、そのフィードバックをもらってみましょう。製品開発においてとても価値のあるフィードバックを返してもらえるでしょう。これは、玩具業界にグロースハック戦略を取り入れてきた「レゴ」という会社を例にあげてみるとよくわかります。

よりリーズナブルな価格帯の会社に顧客が流れて行ったためレゴの市場シェアが下がってきたので、その下落した市場シェアを取り戻すために早急な対応が必要でした。この解決策として、彼らは顧客に目を向けたのです。自分たちの顧客に、商品開発を進めてもらおうと考えました。

lego retention strategies
レゴは、自社製品を使ったユニークで面白いデザインを顧客から集めました。社内のデザイン費の一部分を使って、この参加者のユーザーからデザインを買ったのです。

ソーシャルメディアのプラットフォームを通して、ユーザーが創った商品によりシェアも増え自分たちで市場を作り上げていきました。ユーザーが創ったものが実際の製品になるというサイクルを作ったことで、クラウドソースで集めたアイディアとオーガニックマーケティングから利益を得る、ということを進めていったのです。

ユーザーからのフィードバックをもらうことで、自社製品をよりよくするためのアイディアや、次世代製品の企画案、アドオンやアップセルを考えたり、ビジネスを維持していくための方法へとつなげることができます。
自社製品を改善できるようなよい情報をユーザーがせっかく持っているのですから、それらは参考にするべきです。利益だけを考えたような商品を作ろうとしてはいけないのです。ユーザーが安心して快適に使えるようなデザインを第一に考えましょう。こうすることで、多くのお客様に使ってもらえますし、さらにはそれが利益にも繋がっていくため、最終的には会社の成長にも繋がります。

新時代のマーケティング手法

利益を得るために何か商品を作るということは、手段のひとつでしかありません。マーケティングをすることで、自社製品を多くの人に広める事ができます。ここで重要なのは、その製品の情報を、狙ったターゲットに適切に届けることと、それと同時に既存ユーザーにも届けることです。製品開発に重きを置いている時こそ、新しいユーザーの獲得にも集中できるのです。

実際にどのくらいの人たちに自社製品を届けられるか、と考えてみましょう。半年経って振り返ってみると、毎月何千人もの新規ユーザーを獲得しているかもしれません。しかしそれと同時に、繰り返し使ってくれるユーザーはほんの一握りにしかすぎない、ということもありえます。ではどのようにして、新規ユーザーの獲得と既存ユーザーの保持という2つの問題を同時に解決できるのでしょうか?それは、「とにかくテストしてみる」。これに尽きるのです。

スタートアップ企業であったら、マーケティングにかけられる予算は限られているかもしれません。それを最大限に活用するためには、色々と手段を計画・実行したら後は待ってみる、という辛抱強さが必要なのです。予算の中でできることに少しずつ投資をして、その結果がどうであろうとそれを全部活用しましょう。ここでまた、「グロースハックはデータがすべてである」という話に戻ります。少しずつでも、結果として出てきたデータを分析して地道に改善させていくことが重要です。

mixpanel funnels
予算は限られているので、それをすべて使ってしまう前に、小規模な施策を試しにやってみるとよいでしょう。そうすることで、どこがリテンションに繋がっていないのかということが見えてきます。

メルマガ全部がスパムとは限らない

最近はスパムのようだという理由でメルマガによるマーケティング手法を避けるマーケターが増えています。しかしこれは大きな間違いです。メールを受け取ったユーザーがそれを開くということはつまり、「それを読みたい」というユーザー側の意思の表れであると言えるからです。それなら、少しでも興味を持って開いてくれる人たちに向けて送る価値はあるのではないでしょうか。一ヶ月くらいの時間をかけて、ゆっくりとメールを送り続けてみたら、想像以上の結果が出るかもしれません。

ただし、一度に多くの情報を送りつけて、ユーザーが鬱陶しく思うようなことはしてはいけません。安定的に、少しずつコンタクトを取り続けるということが大事なのです。毎回のメールで、違った側面から商品の魅力を少しずつアピールしていくとよいでしょう。

vero
こうすることで、大きな投資をしなくても、顧客が必要としている情報を読み手側に徐々に届けることができるでしょう。内容に興味のないユーザーはただ単にそのメルマガを開かなくなるだけです。どちらにとっても損することはありません。

マイナス評価にも目を向ける

リテンションのためのよい戦略を練っていたとしても、当たり前ですが離脱するユーザーもいます。そのようなユーザーを見て見ぬふりをすることももちろんできますが、もし離脱したユーザーがいた時には、その理由を聞いてみるとよいでしょう。

「理由としてでてくるのは自社に対するマイナスな評価だから良い思いはしないのではないか」と考える方もいるかもしれませんが、案外そうでもないということが多くあります。たしかに自分たちがこれまでやってきたことを指摘されるのは気持ちのよいものではありません。しかし、ユーザーからの声ほど貴重なものはありません。複数のユーザーから同じ意見が上がってきたとしたら、そのタイミングでその問題について考えなおすべきなのです。

もしも、試用期間のあとにユーザーがキャンセルをしてしまうような価格設定にしているなら、「高い」と驚かせないような方法を考えるとよいでしょう。顧客がなぜそれをキャンセルしたのかという理由を知るためには、とにかく聞くしかありません。ユーザーの声が聞けるサービスとしては、UserVoiceというものがあります。ユーザーが離脱してしまった理由を知ることができたら、リテンションにおける改善点も見えてくるのです。

uservoice

サービスのオプションを拡大・縮小する

付加価値を与えられるようなものを常にいくつか考えておくことも重要です。例えば、会計に関するアプリを作っていたとしたら、一般的に使われているソフトウェアと自動的に同期できたら、ユーザーにとって便利ですよね?ユーザーに付加価値を与えられたら、より長くそのアプリを使い続けてくれるでしょう。そのサービスにいくつかオプションを付けられたら、使い手はそれらを組み合わせたり使い分けたりして、自分のニーズにあったものを個人個人でカスタマイズしていけるのです。

それと同時に、提供しているサービスを思い切ってやめてしまう勇気も必要です。というのも、たくさんのオプションを与えすぎてしまうと、ユーザーにとっては自分が使いやすいようにカスタマイズするのが難しくなるからです。シンプルな商品がユーザーにとっては価値のあるものになるという場合もあります。あまり使われないような機能ばかりがあっても、複雑になって嫌になってしまうだけです。

持続的なグロースハック

グロース「ハック」と聞くと、何か悪いものだと思ってしまう人もいるかもしれません。グロースハックはとにかく結果が全てです。ひとつのことを試してみて、もしそれがうまくいかなかったら次のことを試してみればよいのです。小さなことが大きな結果に繋がるようなことがあります。流入やコンバージョン、リテンションに繋がるようなセールスファネルを作っていくことが、効果的なグロースハックに繋がります。

まとめ

たとえ多くのユーザーを獲得できたとしても、そのユーザーたちに自社製品・サービスを使い続けてもらえなければ、利益には繋がりにくくなります。新規ユーザーを多く獲得することよりも、既存ユーザーに再訪してもらうことの方が価値のあることだと言えるかもしれません。

リテンションの改善策としては主に、「ユーザーのニーズを理解し、それを考えてデザインをすること」「テストを繰り返しそのデータをもとに改善策を考えること」「ユーザーからの評価をしっかりと受け止めること」という点がこの記事で紹介されています。当たり前のように見えて、普段は目を背けてしまうようなポイントなのではないでしょうか。改めてこれらの点を確認していく必要がありそうです。- growth hack japan

記事情報

growthdevil_logo
本記事は国際的なグロースハックエージェンシーであるGrowth DevilのFacts About Growth Hacking Everyone Thinks Are Trueという記事を翻訳しました。こちらのブログはWall Street JournalやWired Magazineにおいても紹介されています。Growth Devilはテクノロジー系のスタートアップの資金調達や急速な成長のための手助けをしながら、起業家のサクセスストーリーを発信しています。