嶋瀬 近年、日本でもアドフラウドやビューアビリティ、ブランドセーフティなどの概念が浸透し始めましたが、歴史的にはいつぐらいから起こったのでしょう。
山口 米P&Gの最高ブランド責任者マーク・プリチャード氏が「全ての広告に透明性がなければならない」と発言したのが、2016年4月。これを機に、業界では一気にブランドセーフティへの注目が高まりましたが、それ以前にも、2010年ごろから動きがあったように思います。それが、マーク氏の発言で一気に話題になりました。ただ、日本国内ではまだ、ブランドセーフティの対策をとろうとする企業が少なく、「それは海外の話でしょう」「日本には必要ない」と考える広告主が大半でした。しかし、2017年の終わり頃に東洋経済に記事が載り、また、2018年9月にはNHK番組でも特集された。その辺りから大きく広がり始めたと思います。
本間 そもそも当時、私たちが話題の中心としていたのは、「広告に対する対価はきちんと第三者機関によって評価されているのか」という話だったはず。当時はまだ広告が評価される仕組みが整理されていませんでしたし、広告主もどこか人任せという感じで広告を捉えていました。しかしP&Gのマーク氏が透明性の話を出したとき、世間の関心は「反社会団体にお金が流れる仕組みになっている」という話題に流れ、さらに、「お金が誰の手に入るか」ということよりも、「広告がどの位置に置かれるか」ということに関心が集まるようになった。つまりグローバルに考えたとき、ブランドセーフティという概念には、「広告料がどこへ流れていくのか、適切に使われているのか」ということと、「広告がどこに表示されるのか」という、2つがあるということなんです。

(アウトブレイン ジャパン株式会社/
アビームコンサルティング株式会社)
山口 圧倒的に出面、つまり、どこに表示されるのかということですね。当社としても、株主総会で「ブランドイメージを守っていないのか」と指摘されたり、どこかで炎上したりして、トラブルを鎮火させたいと相談を受けることが多いですね。
本間 しかし嫌な言い方かもしれませんが、本来、アドサーバーは「枠」じゃなくて「人」に対して広告を出していて、cookieをもとにアルゴリズムで画面上に表示している。ということは、その枠は不都合かもしれないけれど、それを見ている人は対象として当たっているということですよね。
山口 課金体系がCPCであれば、結局、クリックさえしてもらえればOKなので、出面はあまり気にされず、ビューアビリティも問題になりませんでした。とにかく広告が表示されれば良いので。しかし、不正インプレッションの話が日本で話題になると、「えっ、ロボットもクリックできるの」という事実が知られるようになり、初めて広告の本質について語られるようになりました。
嶋瀬 でも、「ブランドセーフティの基準は一体どこにあるのか」という問題はありますよね。たとえばテレビ広告でいえば、お昼のワイドショーの広告枠を買ったとき、場合によっては、広告の直前に事件や事故などの話題が流れるかもしれない。それはよしとするのに、ウエブ上でニュースサイトに広告を掲載するとき、事件や事故を報じる記事の隣に広告が掲載されるのは嫌だという。そうなると、日本の大手メディアはブランドセーフティの観点から言うと、ほとんどアウトになってしまいます。
本間 ブランドセーフティと言っても、ブランドの広告担当は広告の出稿や管理が主な役割なのであって、ブランドマネジメントの任務を負っていないことがほとんど。一体、どのような広告が自分たちのブランドを傷つけるか、理解できないはずなんですよね。もし、事件や事故を報じるメディアに広告を出稿する企業がいなくなれば、これはメディア業界にとって一大事です。そういうメディアは社会的な意義を帯びているのに、誰も応援する人がいなくなる。本来、広告主が広告料を出すのは、「頑張ってコンテンツを作ってください」という応援の意識もあったはず。しかし、事件や事故、天災などのニュース記事に誰も広告を出さなくなれば、そうした社会的意義を背負ったメディアは存続できなくなってしまいます。
山口 今、アメリカでも「クリックベイト」という言葉が流行っています。簡単にいえば、ウェブ上の記事に読者の関心を煽るようなタイトルをつけ、閲覧者数を増やす手法なのですが、現在では真面目にコンテンツを作っていたサイトでさえ、ゴシップネタが多くなってしまいました。こうした傾向は、メディアにいいコンテンツを作ろうというモチベーションを失わせますよね。

(Integral Ad Science Japan株式会社)
一方、広告主は自分たちが広告を出稿したい場所について、何も意見を表明していない。広告はメディアに対する応援であると考えれば、広告主は自発的に「このメディアに広告を出したい」という場所を見つけ、喜んで出稿するのが本来の姿です。でもそういう意見を言わず、「ここには出したくない」と言って出稿先を削るばかりでは、日本のメディアは体力を失い、広告主も出稿する場所がなくなり、やがて広告業界そのものが疲弊してしまうでしょう。
本間 今、広告のトランザクションはほとんどスマホを通して行われていますが、スマホのビューアビリティはどうやって計測するのですか。
山口 定義としては、PCでもスマホでも同じです。
本間 スマホとPCのスクロールは意味が違いますよね。そうすると、そもそもスマホのビューアビリティは意味があるのか、という問題が出てきます。当然、ユーザーの態度変容も出てきますし、どこかで目に留まった段階でクリックされればいいのであって、スマホではビューアビリティ自体、もしかしたら不要な概念かもしれない。でもそうした違いを整理せず、「うちはビューアビリティを重要視しています」と、ずっと言い続けているところも多い感じがしますね。
山口 もちろん、ビューアビリティの観点で言うと、ユーザーの閲覧状況やデバイスも考慮しなければなりません。当社もPC用とスマホ用でデータセットを切り分けていて、たとえば1秒、広告が見られたとしても、どのようなデバイスで、どのように閲覧されたのか、データを分析しなければならないと思います。
嶋瀬 ユーザーの行動を促す変数は確かにたくさんありますが、たとえばCTRや総数が変わらないとした時、ビューアブルの時間が2倍になったらエンゲージメントはこう変わる、というデータは出ているんですか。
山口 それはまだですが、ぜひ作りたいですね。
本間 新しい指標を作り、それを制御変数として、メディアに使ってもらいたいですね。でもそれ以上に大切なのは、もっとラフに、広告主にどんな広告を作りたいのか、落ち着いて考えてもらうことじゃないかと思います。「このメディアはスポンサードしたいから、ぜひ、ここに出稿したい」という希望もあるでしょうし、「この広告配信方法にお金を出したい」と言うのもあるかもしれない。広告主は、メディアや広告業を応援する気持ちがないと、お互いwinの関係になれないと思うんです。
私たちは立場上、広告主よりも一歩先に出て、常にバージョンアップしたいと思っているけれど、できれば広告主からの意見も欲しい。それに対して、メディアは「自分たちにはこれくらいの価値がある」と提案する。インターネットができて35年。そろそろこうしたフランクな関係ができてもいい頃だと思うんですよ。
山口 同感です。現在は問題が起こった時、どうチューニングするかということに重点が置かれています。でも、「本当は何がやりたいのか」というところから広告を組み立てていかないと、結果的に同じようなメディアプランばかり、できてしまうことになる。ブランドにとって、どんな広告キャンペーンが必要で、そのための指標として何が必要、など、一つ一つ順を追って考えていくことが大切。その上で、「うちはCPCを重視する」とか「CPMでやる」とかの方針が決まるでしょうし、やり方は各ブランドによって異なるはずです。デジタル広告は決して数字のゲームではありませんから、まずは、本質的なところに戻ってくる必要があると思いますね。
嶋瀬 たとえば、広告のクリエイティブが違っても、広告の効果を測定したエクセルの表ではすべて一律に扱われてしまうという問題もありますよね。

(アウトブレインジャパン株式会社)
山口 頻繁に行われています。当社もそうした集まりに呼ばれることがあります。IABはどちらかというとメディアサイドの組織が多く加入しているのですが、当社のようなベンダーが議論に加わることで広告業界自体の風向きが大きく変わったのを感じます。広告の出稿先としての価値が高まり、単価が上がったとか。
本間 メディアの中でも良いメディアが悪いメディアを淘汰するようになり、良いメディアに多くのお金が入る仕組みができてきたということですか。
山口 そうなりつつありますね。同時に、良いメディアに対する評価基準や認識も、標準化してきているように思います。もちろん、良いメディア、悪いメディアの基準は広告主によって変わりますから、主観的にマッチしていればいいのだと思います。
嶋瀬 当社の話をすると、アウトブレインはプレミアム媒体をネットワーク化しているので、たとえば人気のあるYouTuberの動画に出てくる広告と、ユーザーが興味を持って検索しているサイトに出てくる広告では、同じ秒数、表示されたとしても、価値がまったく違ってくると思うんですよ。でもエクセル上の数字にすると、その違いが消えてしまう。分析するマーケッターだって、一消費者として考えてみればその違いはわかるはずなのに、当事者となって数字を前にすると、その意識が欠落してしまうんですね。そういう意識がすべての人に共有されると、真面目に優れたコンテンツを作った人が高く評価される社会になるのではと思うのですが、そうなるにはどうしたらいいのでしょう。
山口 ブランドとユーザーの接点をどこに作るのが適切か。それを考えながら広告を組み立てないと、エクセルに落としてからでは難しいですよね。
本間 なんとなくインターネットのメディアスペースが無限にあり過ぎるから、全部プログラマティックでやらなければいけないと考えている広告主が多いのかもしれないって思うんですよ。だから、「ここには広告を出したくない」というメディアを、まるで砂場の山くずしのような感じで削り取っている。でも本来は、絶対に広告を出したいメディアがあるはずですし、「このライターさんに記事を書いて欲しい」とか、「このYouTuberはスポンサードしてあげたい」とか、そういう希望もあるはず。積極的に出したいところと出したくないところを少なくとも分けなくちゃいけないのに、それすらもやっていないのが現状だと思うんです。
山口 確かにやっていませんね。
本間 旧来のテレビ広告では、当たり前のようにそうしたことを考えていたはずなんです。無限にお金があるわけじゃないですから、必然的に出したい広告枠を選んでいた。でも、インターネットの場合は出したくないものを削る方を優先にしている。こうした不自然なセレクションがよくないと思います。
アメリカではIABのほか、NAB(National Association of Broadcasters)という団体もあって、「こういうメディアに広告を推奨します」と意思表示しています。つまり、メディアは自分で自浄作用を働かせ、また、広告主も自分たちで意思を表明し、対等の関係にあるんです。でも日本はそうじゃない。日本の広告主はメディアに対して意見を表示してはいけないと思っているのか、たとえば2年前、DAZNがJリーグの全試合の放映権を獲得した時、日本の広告主は何も発言しませんでした。広告主はメディアに地殻変動が起きた時に何も言っちゃいけないと思いこみがちです。でも本来、広告主だって意見を言いたいはずですし、メディアも広告主の意見を聞きたいはずなんです。

山口 言えていないのはなぜなんでしょう?
本間 インターネットの広告担当が、テレビ広告などの買い付けを知らないからじゃないでしょうか。なんとなく、広告はメディア評価で選ぶべきだと思っているんだと思います。でもそもそも、テレビとインターネットでは広告枠の買い方が基本的に違いますし、各メディアの特性を正しく判断できているかというと、そうとも言えない。そろそろ、テレビや新聞など、従来の4大メディアの広告担当と一緒に議論すべきタイミングだろうと思います。テレビや雑誌にもブランドセーフという概念はあるわけですから、互いに学ぶべきことも多いでしょう。
嶋瀬 たとえば、薬物所持で逮捕された芸能人のニュースを報じた番組の後に広告が流れても、ブランドセーフティとして問題があるとはされないのに、これがインターネット広告になると、その記事の隣にあるバナーはブランドセーフじゃないと言われる。メディアが変わると、どうしてブランドセーフの基準も変わってしまうのだろうと、いつも疑問に感じます。
本間 おそらく宣伝部の担当者が、メディアを横断してブランドセーフティを考えていないからじゃないでしょうか。そもそも宣伝部の仕事は、インターネット広告の広告価値を最大化することであって、ブランドを毀損するリスクに対して絆創膏をはるだけじゃないですよね。でも今はすっかり本業が逆転されてしまっている感じがします。
山口 テレビ広告にインターネット広告のようなブラックリストのやり方を当てはめれば、薬物所持した芸能人のニュースが出るかもしれないから、そのチャンネルごとブロックしてしまおうという話になる。でもそれはやり方として正しくないですよね。
本間 もし、薬物所持した芸能人のニュースに広告を載せるなら、たとえば薬物被害を抑止する広告なら価値があると思います。でもそういう議論がされず、一括して広告を載せない、となる。だったら、そうした事件を報じるニュースは世の中にない方がいいのか、という議論になりますよね。
しかしかつて、アメリカのサンノゼで地方新聞が廃止された時、街はどうなったかというと、治安が悪化し、犯罪件数が増えたんです。それは事件や事故を報じる媒体がなくなったから。広告主は、事件や事故など不適切なことが報じられることにも社会的意義があるということを理解すべき。そのニュースや記事を見る人にも、学びや気づきがある以上、そこに掲載される広告は決してブランドを毀損するだけではないと思うんです。
嶋瀬 事実報道かフェイクのニュースか、その本質を見極めないで一律、広告の出稿は不可とするのは非常に違和感がありますし、長期的にみて、広告の将来を閉ざすことになりますね。
本間 今、広告主が理解しなければならないのは、広告主がメディアを殺し始めているということ。これはとても危険で、広告出稿金額がなくなるということはメディアがなくなるということです。それでも広告主は広告を出稿したいのであれば、みずからメディアを育てなければならない。たとえば価値が高いとわかったメディアには相応の広告料を支払うなど、責任の所在を明確にし、「誰が、なんのために広告を作るのか」といった本質に立ち返って、もう一度考えなければならないと思います。
山口 アドベリフィケーションベンダーの立場で言うと、間違ったメッセージを出しているベンダーもあるかもしれないなと思います。つまり、「このツールを使うと広告費を20%削減できますよ」など、誘惑的な言葉で広告主に声をかけるとか……。そうすると、アドベリは警察官のように違反や不正を取り締まるもののように受け止められてしまうんです。でも、私たちが提供しているのはあくまでもツールであって、いわばカーナビのようなもの。どうすれば目的地へ、早く正確にたどり着けるかと考える手段として使ってもらえれば、本来、望ましいメディアにお金が流れるようになります。
本間 いずれにしても、企業ごとに戦略があるでしょうから、横並びの結論が出るものではありません。そろそろ企業ごとに「自分たちにとってのアドフラウドとは何だろう」「ブランドセーフティとは何だろう」と、整理しなければならない時期になったということでしょうね。当然、大手ナショナル広告主のロジックをそのままコピーすることはできませんから、自分たちなりの意思を表明する時代に入ったのだろうと思います。
山口 武氏
Integral Ad Science Japan株式会社
アカウント・エグゼクティブ
ニューヨーク大学ティッシュ芸術学部卒。2006年、Oddcast, Inc. 入社。2008年、Experian Marketing Solutions, Inc(ニューヨーク本社)にて大手広告主のマーケティングキャンペーンのサポートや戦略的コンサルティング業務を経験し、2011年に帰国、コムスコアジャパン株式会社にてクライアントサービスマネージャーとしてアドベリフィケーションやネット視聴率など多岐にわたるソリューションの営業サポートから実施までの実務を担当。2015年4月より現職。
本間 充氏
アウトブレイン ジャパン株式会社 顧問
アビームコンサルティング株式会社 顧問
宣伝会議 デジタルマーケティング実践講座、デジタルソリューション営業基礎講座、データマーケター育成講座、広告効果測定講座、メディアプランニング基礎講座、マーケターのためのKPI設定講座講師。
1992年、花王株式会社に入社。1996年まで、研究員として、スーパー・コンピューターを使って、数値シミュレーションを行う。社内で最初のWebサーバーを立ち上げ、以後本格的に業務としてWebに取り組む。2015年に、アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの事業会社のマーケティングの支援、Webコンテンツ管理システム導入を行う。その他、ビジネス・ブレークスルー大学講師や、東京大学大学院数理科学研究科客員教授(数学)、内閣府政府広報アドバイザー、文部科学省数学イノベーション委員などを務めている。
嶋瀬 宏氏
アウトブレインジャパン株式会社
代表取締役社長
2001年三菱商事株式会社入社。国内外における新規プロジェクト開発などを担当。同社退職後、新規事業のインキュベーション・コンサルティングを行う株式会社ステラ・ホールディングスを設立。2013年11月より世界最大級のディスカバリー・プラットフォームを提供するアウトブレイン ジャパン株式会社の社長に就任。『適切なユーザーに適切なモーメントで』コンテンツを届ける同社のプラットフォームを通して、オンラインパブリッシャーとコンテンツマーケティングを展開するさまざまな企業をサポートしている。
–御社の事業モデルと現在の取り組みについて教えてください。
Phil 当社の創業は2008年。アメリカのカリフォルニアで誕生しました。AIを活用した独自の視覚情報処理技術を用いて、日々生成される膨大なビジュアルデータの持つ潜在価値を顕在化し、さまざまな課題の解決に活かすことを目標に活動を展開しています。現在は北米、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界各国でサービスを提供しており、日本では2017年後半から広告ソリューションの提供を開始しています。
若栗 当社は、パブリッシャー(媒体社)の方々がお持ちのコンテンツを新たな広告配信面として活用。AI視覚情報処理技術を用いて配信面の文脈を識別し、文脈に沿ったクリエイティブ表現を通して、ユーザー・ブランド・パブリッシャーそれぞれに有益な環境を構築しています。現在、日本国内ではおよそ100のプレミアムパブリッシャーと連携※。新しい収益の獲得や高いユーザーエクスペリエンスの実現など、多くの面で貢献しています。
–日本市場でのビジネスを本格化した意図は?
Phil 当社にとって、日本は4番目の市場です。比較的早く日本市場をビジネスの視野に入れました。というのも、日本市場は欧米と異なる、独自の特質と可能性を持っているからです。欧米と異なり、日本のデジタル業界はこれまで獲得型広告が主流であり、ブランド広告領域にはそれほど手をかけていませんでした。しかし現在、ブランド広告領域へシフトする傾向が強まっており、私たちは日本のブランド広告市場における発展の可能性に、大きく注目しています。
–近年の広告トレンドについて、どのようにお考えですか。
Phil 世界レベルでデジタル広告を考えると、さまざまなトレンドが起きています。そうした中で、私たちが最も注力し、課題解決に大きく寄与しているのではないかと自負しているのが、ブランドセーフティの問題です。ブランドは当然、自分のブランド価値を守りたいという気持ちが強い。だから、安全かどうかわからない場所、すなわち、広告を出稿するのにふさわしくない場所に、意図に反して広告を配信してしまうことはとても怖い。これは当然ですよね。もちろん、ブランドによって「安全か、そうでないか」という基準は異なりますし、広告配信に適正と確度を求めるなら、一つ一つ、文脈を判断する必要があります。特に日本のブランドは、欧米に比べて保守的な傾向が強いため、「こういうコンテンツに広告出稿は控えよう」と考える基準が、他国と比較してもっと厳しいかもしれません。
そうした点において、当社のテクノロジーはまさに有効に機能します。たとえば、一般的な視覚情報処理技術でも、「画像内に武器が写っている」ということは把握できます。しかし、そうした認識技術を私たちの自然言語処理と組み合わせることで、世界一ブランドセーフなプラットフォームを作ることができるのです。そうした点で、当社のサービスと日本の市場は非常に親和性が高いのではと考えています。
–個人情報の取り扱いについても、現在ではますます厳しくなっています。
Phil 欧米では近年、パーソナルデータ活用のプライバシー問題についての議論が積極的に行われ、消費者の権限強化の必要性が一般に共有されてきました。特にEUは、2018年5月に一般データ保護規則(GDPR)を施行し、個人のプライバシーを保護する権利を強化していますし、こうした傾向は今後もますます強くなっていくでしょう。これまで多くの企業がリターゲティングやcookieデータの解析に注力してきましたが、今後はそうしたものへの投資が少なくなると見込んでいます。そうした中でも、当社が展開するAIを活用した独自のコンテクスチュアル広告は、ブランドが自分にとってふさわしい広告スペースを選択できる、そして、個人情報に頼ることなく効果的にターゲティングできるという点で、今後もますます多くのブランドにソリューションを提供できるのではないかと考えています。
若栗 これまで日本の多くのブランドは、獲得型広告に大きな予算を配し、ブランド広告キャンペーンにはそれほど多くを投下してきませんでした。しかし今後、日本ではブランディングがますます重要になってくると考えられます。特に、デジタル世代である若者たちは、生まれた時からインターネットをメインのメディアとして活用しています。これまでの世代は新聞やテレビなど、従来型のメディアでブランドの認知形成を行なってきましたが、今の若者たちは当然のように、インターネットでブランドに対する認知を確立させています。そうした点で、今後ますますデジタルにおけるブランディングが重要になってくると考えています。

–日本における現在の展開は?
若栗 先ほどお話しした通り、現在は約100のパブリッシャーと連携し、月間の広告配信は4億PV。リーチできるユーザー数は3,000万以上と考えています。つまり、Facebookやインスタグラムと同等規模のプラットフォームということです。
一方、ブランドのカテゴリーはさまざまであり、食品や飲料メーカーから、銀行・保険などの金融関係など多岐にわたっています。
–事例を挙げていただけますか。
若栗 最もわかりやすい事例の一つが、このANAハワイ線へのA380就航の広告です。ターゲットとして「ハワイ旅行」やトラベル関係の文脈を取り上げ、その中で、「ANAのハワイ線にA380が就航する」というニュースを出すのに、適切な文脈を判断。その記事内画像の下部にイン・イメージ広告として掲載しました。広告にはエンゲージメントを高めるためにアニメーションを採用。視認性の高いスペースへ広告を配信し、アニメーション・動画など自由度の高いクリエイティブ表現を用いることで、ポジティブなメッセージを確実に届けることが可能です。さらに、そうした自由度の高いクリエイティブ表現により、ブランドリフト効果にも力を発揮。つまり、この広告を目にした視聴者に対して、単純に「記憶してもらう」「覚えてもらう」だけでなく、ブランドに対して好意的な認知を醸成させることができるのです。
こちらのANAハワイ線へのA380就航の広告については、広告主であるANA様からも、画像認識を使った独自のターゲティング手法の面白さ、文脈識別の精度の高さ、エンゲージメントなどのパフォーマンスの良さにおいて、非常にポジティブな評価をいただいています。

–一般に、ブランドリフトの効果はどれくらいですか。
若栗 キャンペーンのメッセージや広告表現のクリエイティブ性にもよりますが、平均して10〜20%のブランドリフト効果を実現しています。ブランドリフトについて考えるときは、必ず競合に対する印象も計測することも必要。競合と比較して、イメージシェアやマインドシェアを多く獲得することができれば、市場におけるそのブランドの優位性はますます高まるでしょう。
–御社ではスポーツスポンサーシップという取り組みを行っていると聞きました。
Phil スポーツスポンサーシップとは、ブランドやライツホルダー向けに、テレビ・ストリーミング・SNS上でのスポンサーシップのメディア価値を評価・分析するサービスのこと。たとえば試合を撮影した画像や映像の場合、ホームゲームであることやロゴが含まれていることなどを認識し、さらに、「いいね!」などの数や放映された時間などからメディア価値を評価します。アメリカでは非常に成功を収めているソリューションで、放映権の保有者とブランドが意思決定をする際の共通認識となっています。まだ日本ではこのサービスを展開していないのですが、今後、時期をみて日本にも導入する予定です。日本ならではの文化や特性を配慮して、サービスの展開を決めたいと考えています。
若栗 こうした「日本ならではの文化や特性への配慮」は、あらゆる点で必要と考えています。実際、日本独自の商習慣は未だに根強く存在していますし、ある特定のビジネスが欧米で成功したからといって、それをそのまま日本に持ち込んでも、同じようにうまくいくとは限りません。あるブランドに対しては、レポーティングの頻度や回数を増やすことが求められるかもしれませんし、内容をもっとリッチにする必要があるかもしれません。そうした点を踏まえ、個別にワークフローを設定。綿密なプランニングと人的リソースの最適化を繰り返しながら、日本でのサービス展開を加速している状況です。
Phil 私はアメリカ出身なので、日本では信頼を醸成することを先に行わなければなりません。信頼やリスペクトが基盤にあるからこそ、日本でのビジネスがうまくいくのです。私たちの製品サービスや戦略ビジョンは世界的にみてどこもほとんど変わりませんが、各地域で展開させるためにそれらをローカライズさせる必要があります。そのため、ローカルリーダーシップ制を設け、私たちの商品ソリューションがその国や地域で意味を成すように調整していきたいと考えています。
–現在、広告業界が抱えている課題について、どう考えていますか。
Phil 現在、多くの企業において、広告の予算が分離されています。たとえば、予算の一部はパートナーに預ける、他の一部はソリューションに回すとか……。でも、そうやって予算を託したパートナーやソリューションは、他のライバル企業も同様のサービスを使っているかもしれず、そうなると、広告の差別化はますます難しくなってきます。また、多くの企業はデジタル広告を配信する際、ほとんど似たようなパブリッシャーを使っています。「安心できるから」という理由もあるのでしょうが、それでは広告の単価はますます高くなりますし、広告の独自性を打ち出すことも難しくなります。
その点、当社では日本で約100のパブリッシャーと連携していますが、それぞれ個性豊かな編集記事を制作していますし、また、専門的な情報を配信しているブログなど、これまであまり広告スペースとして注目されてこなかったところについても広告配信の可能性を探っています。
また、広告は全てインハウスで制作しており、各国ごとにローカルのクリエイティブチームを結成。それにより、ブランドに対してクイックなレスポンスが可能になり、自由度の高いクリエイティブを実現しています。
若栗 それから、広告の効果測定に一貫性がないという問題もあります。効果測定はどちらかというとデジタルの方がやりやすいものの、評価指標がCTRなどに終始しがちで、ブランドの認知やエンゲージメントの「質」を評価する考え方がまだ浸透していない。しかしそうした中でも、アトリビューションを測定するツールは少しずつ増えています。こうしたツールを使うことで、真の意味でブランド広告の価値を測るとともに、「デジタル広告でも効果的にブランディングができるのだ」ということを実感していただきたいと思います。
–最後に今後の展望について教えてください。
若栗 現在、日本でサービスを開始して約2年。徐々にGumGumの認知度が高まってきて、キャンペーン展開例は約150近くに上ります。これからももっと多くの方に当社のサービスを理解していただき、実際に活用していただくことで、ブランディングに貢献していきたい。同時に、パブリッシャーとの連携もますます強化して、ネットワークを拡充していきたいですね。
※2019年2月末時点

Phil Schraeder (フィル・シュレーダー) 氏
GumGum, Inc.
CEO
GumGumのCEO。グローバルにおける事業計画及、セールスマネジメント、財務計画、人材管理等を行う。『Adweek』『Huffington Post』等のメディアへの定期的な寄稿を行う他、2017年には『Los Angeles Business Journal』による『CFO of the Year』アワード受賞。
GumGum参加以前には、グローバル電子決済・リスク管理ソリューションプロバイダー『Verifi 』のVP of Financeとして活動。また、3Dテクノロジーライセンシング企業『RealD』、フィルムスタジオ『New Regency Entertainment』、 監査・税務・アドバイザリー企業『KPMG』等でアカウンティング・ファイナンス業務を歴任。
Northern Illinois Universityで会計学でのBachelor of Scienceを取得する他、コミュニケーションも専攻。旅行、フットボールを楽しむほか、フロリダキーズでの友人との休暇が趣味。
若栗直和氏
GumGum Japan K.K.
代表
GumGum Japanの代表 /カントリーマネージャー。2000年より、広告会社『オグルヴィ・アンド・メイザー』にて、グローバル及びアジア・パシフィック市場向けのブランディングに従事。香港・上海・東京・シンガポールなどを拠点に、『フォーチュン500』企業向けのブランド戦略・ブランディング企画・キャンペーン運営を手がける。2018年よりAI画像認識を活用した広告事業を展開するGumGum(ガムガム)の日本オフィス代表を務める。
1998年東京外国語大学英米語学科卒。