ユーザーが「自分ゴト化する」共感型コミュニケーション ~サッポロビール・ライオンの事例で学ぶ~ 第3部 <ライオンの事例で学ぶ>「ワン・パーパス」×「マルチ・クリエイティブ」〜自分ゴト化・共感を呼ぶ新たな動画コミュニケーション

2019年2月20日、東京・恵比寿でOutbrain、amana、ALPHABOAT、indaHash、Teadsの5社による共催セミナーが開催されました。セミナーテーマは、『ユーザーが「自分ゴト化する」共感型コミュニケーション』。
第3部のテーマは、ライオンの事例に学ぶ「ワン・パーパス」×「マルチ・クリエイティブ」。従来型の一方通行なコミュニケーションではお客にブランドメッセージが届きにくいソーシャル時代に、タッグを組んだ「クリニカ」とAlphaBoatが、さまざまなインフルエンサーを活用して、マルチ・クリエイティブの動画広告を制作した背景についてのトークが展開されました。

自社の「ブランド・パーパス」を考えるところからスタート

トーク序盤、西谷氏が切り出したテーマは「ブランド・パーパス」。これは、「ブランド理念」「ブランドの大義」「ブランドがサスティナブルに存在する理由」などと解釈される言葉ですが、今回の議題となっているライオンの事例においては、動画制作の前段階に、ブランド内で「ブランド・パーパス」に関する議論が長時間続いたといいます。

その理由を説明したのは横手氏。「機能的にも優れた商品がこれだけ溢れている日本では、日常生活の中で改めて、何が良くて何が悪いかを考える時間はないですよね。そんな中で我々マーケッターが何のために存在しているかというと、ブランドを使う価値体験を高めるため。そこで、『ブランド・パーパス』という考え方をまずは自分たちが取り入れることにしたんです」と明かします。

「クリニカに関していうと、これまでは、『日本を予防歯科の先進国にする』というスローガンをもとに展開していましたが、これはあくまでもライオン、クリニカが主語。しかしこれからは社会やお客さまこそ主体と考えたとき、『わたしたちは社会や顧客と共にどんな価値を生み出していくべきか?』『わたしたちは何のために活動するのか?』という問いにぶち当たりました」。

横手 弘宣氏
(ライオン株式会社)
その背景にあるのは、「価値の多様化」「選択の自由=自己責任」「正解がわかりづらい社会」といった、今の時代ならではの要素。こうした時代背景をもとに多くの生活者たちは将来に不安を抱えており、忙しい毎日の中、自己投資に対して前向きでありつつも、思うように行動できていないことに罪悪感を抱くこともしばしばあります。

これをクリニカという商品に当てはめて考えると、「歯医者さんにほめられる歯に」をコピーとして掲げることにより、「医者から褒められたら満足=罪悪感がぬぐわれる」ということになります。つまり、その一瞬をいかに切り取るかが、ブランドにとって大切なことだというのです。

「人は『誰かに褒められたい』欲求があるものですし、何かを達成したら次もがんばろうと前向きになれます。そのサイクルをつなげられたら、社会に対して新しいメッセージを発信できると考えました」と横手氏は説明する。

「歯磨きして褒められることはなかなかありませんが、きちんと磨いて虫歯を予防していることで、“わたしはちゃんとがんばっている”と自分を認められると、歯も健康になるし、日々の歯磨きにも前向きに取り組めると思うんです」と、さらに続けました。

ブランド・パーパスと消費者のニーズとの接点を考えてコピーやストーリーを制作

これを受けてAlphaBoatは、顧客に直接ヒアリングして、日常でどんな風景を見ているのか、インサイトをあぶりだしてコンテンツの制作に入ることに決定。結果、「大人になるにつれて褒める機会が増える一方、褒められる機会が減る」というユーザーインサイトを抽出しました。そうしたインサイトに基づくクリエイティブコピーの開発を実施し、その結果、「#大人は大変だ。」「#大人だって、ほめられたい。」のコピーが生まれたのです。

「大事なのは共感していただくことなので、メーカーからの押し付けにはしたくないと思っていたんです。生活者が心の中で思っている言葉を表したこの言葉はひとつの答えですし、歯磨きをしている時間にはその日一日のことを思い出すこともあるから、“1日を振り返る歯磨き”を作れることに親和性を感じました」と福井氏もうなずきます。

福井 幸二氏
(ライオン株式会社)
続いて横井氏が、今回のコンセプトやターゲットなどについて説明。まずコンセプトは、「37年間にわたって洗面台から家庭を見守ってきたクリニカが、洗面台の鏡の視点から、仕事や子育てに奮闘する大人を励ます」。ターゲットは、日常生活をがんばっている大人たちで、特に30代以上の女性。ストーリーをうまく説明することで、それを「自分ごと化」してもらいたいと考えたといいます。

そこで、一人ひとりが自分を深く投影できるターゲットを見つけてより深く共感できるよう、ペルソナに応じて3パターンの広告を制作。3つはそれぞれ、「ポストイット編」「よくできました編」「鏡絵日記編」で、お客が主語になって、「褒められる瞬間」を反芻できるような内容に仕上げました。ポイントは、ムービーの主語が「がんばる大人」であって、ブランドではないことです。

これに対してAlphaBoatがおこなったのは、共感を得るためのインフルエンサー施策。ドラマ出演をストーリー化して、人柄や雰囲気を重視したインフルエンサーのキャスティングを実施し、今回のドラマ出演という出来事自体をひとつのストーリーとして展開。さらに、ドラマのテーマやメッセージに共感するインフルエンサーに、同じ熱量を持った仲間を探してつながってもらうことで、コミュニティを形成してもらい、ムービーの熱量を拡散してもらいました。

西谷 大蔵氏
(AlphaBoat合同会社)
また、音楽もフルスクラッチ。フォロワー数などの量的基準、エンゲージメント率などの質的基準を超越して熱量を伝えることに重点を置いたインフルエンサー施策を実行しました。

動画を埋め込んだ記事を作成することによってさらに拡散

コンテンツ拡散のためにさらにさまざまな施策をおこなったのはアウトブレインです。2分半にもおよぶ動画の内容を、パケット代を気にする若年層にも知ってもらうため、動画を埋め込んだ記事の作成を実施。エキサイトニュース、マイナビに、それぞれ違う角度からコンテンツを切り取って紹介してもらうことを決定しました。

さらに、記事内での動画の視聴完了率、滞在率、クリニカのwebサイトへの遷移率もはかり、ちゃんと共感を呼べたかという観点から、コンテンツの拡散というKPIとして精査しました。

「膨大な組み合わせの中から動画の視聴完了率やブランドサイト遷移などのエンゲージ指標に基づいて、動画再生コンテンツへの送客をコントロールしています。リーチや送客数の最大化ではなく、エンゲージの最大化ですね」と秋元氏。

記事を読むと自動的に動画が再生されますが、動画視聴完了率は20%前後で、2分半の動画にしては高い数字を出すことに成功しました。

秋元 陸氏
(アウトブレインジャパン株式会社)
また、次回のステップに関して福井氏は、「この施策でもっとも大切なのはクリニカのパーパスや思いが伝わることなので、ちゃんと伝わっているか、伝わっていないとしたらどこか、共感ポイントはどこかを考えながら次のコンテンツ作りにつなげたい」とコメント。

これを受けて西谷氏は、「ソーシャルエンターテインメントをプロデュースする上では、社会全体へのアンチテーゼを考えるアプローチが重要。これはブランド・パーパスと密接に連携していますが、特にミレニアル世代を考える上では不可欠なこと。これからは、フォロワー数やリーチ数より、生き方や姿勢、発信しているメッセージへの共感や賛同が大事になってくると思う」と締めくくりました。

ユーザーが「自分ゴト化する」共感型コミュニケーション ~サッポロビール・ライオンの事例で学ぶ~ 第2部 <スペシャルセッション> 次世代型動画広告とブランドセーフティ

2019年2月20日、東京・恵比寿でOutbrain、amana、ALPHABOAT、indaHash、Teadsの5社による共催セミナーが開催されました。セミナーテーマは、『ユーザーが「自分ゴト化する」共感型コミュニケーション』。
第2部では、ネスレ日本株式会社 媒体統轄室 村岡 慎太郎氏と、Integral Ad Science Japan株式会社 アカウント・エグゼクティブ 山口武氏によるスペシャルセッションが行われました。セッションテーマは「次世代型動画広告とブランドセーフティ」。成長し続ける動画広告市場において、これまで通り、リーチ獲得を目指すだけではなくエンゲージメントを高める次世代型サービスが次々と登場する中、企業としてのブランドセーフティを守りながら、最新サービスを活用する事は可能なのでしょうか。そしてその価値とはいかなるものかについてのトークがスタートしました。

ネガティブな結果を生む配信を避けるため、アドベリフィケーションを意識することが大切

セッション冒頭、山口氏が触れたのは「アドベリフィケーション」について。山口氏は、「デジタル広告は、ポジティブなバリューを得られるものだけでなく、ネガティブな結果を生むものもあります。たとえばブランド毀損につながる恐れのあるメディアに広告が配信されることもそうですし、配信したのに見られていないこともあります。こうした無駄を省いていくことがアドベリフィケーションです」と説明。

これに対して村岡氏は、自社製品を例として挙げながら、「たとえばネスカフェやキットカットの広告が、バイオレンスやアダルトなコンテンツの多いメディアに出ることも、マイナスイメージを植え付けることにつながります。ブランドセーフティを保つために、こうしたネガティブな要素を排除することは大切です」と相槌。ネスレでは、IASやプレビッドを利用することで、そうした事態を防ぎ、意図しないメディアに出る率を大幅に下げたといいます。

「ビューアビリティやプレビッドがビジネスにとってどんなバリューがあるか、可視化することはとても大切。たとえば、KPIに対する取り組みでプレビットをかけた結果、CPCの効率もよくなったことがわかりましたが、一般的にはプレビッドかけると在庫が減るため、CPIが高くなると想像されています。でも、結果としてCPCもよかったですし、数字として可視化できる状態にすることが大事だと再認識しました」と村岡氏。

村岡 慎太郎氏
(ネスレ日本株式会社)
また、オープン、プレビッド、PMPで比較したとき、プレビッドは広告認知効果が高く、ビューアビリティが高くなるため認知度の向上に効果があるとされていますが、さらに、PMPは新聞や雑誌など真剣に読まれるコンテンツに挿入されるバナーであるため、さらにユーザーの理解が高まることがわかりました。

さらに山口氏は、「インプレッションの質と量に関して言えば、今まで通りのCPA、CPCの考え方では、より安くより多く獲るのが目指すところ。リーチを軸にしたビューアビリティだと、見られたことだけが評価されてしまいがちです。でも動画広告が2秒流れても、それがどういう企業のものか認知されることは少なく、広告効果が実現できるのは6秒流れたあたりから。1~2秒だとブランド認知度は1%以下ですが、4~7秒だと認知度があがっていきます」と説明。加えて、コンバージョンと閲覧回数の関係性について調べたところ、キャンペーンの場合、広告を見る回数が8回を超えると認知度が高まることがわかっていると話しました。

それでは、全インプレッションの何パーセントのユーザーが8回以上視聴しているかというと0.3%程度。ビューアビリティの率を上げる取り組みをおこなう中でも、1、2回しか視聴していないユーザーが多く存在していることがわかったといいます。

さらに、ランディングページへの到達をコンバージョンとした場合、広告を見ることによってコンバージョン率が45.3%上昇することが判明。さらに、ビューアブルなインプレッションでの到達率は86.2%でした。これはランディングページだけでのデータですが、そのほかのコンバージョンポイントにおいても広告閲覧時間との関係性をグラフで確認したところ、15~30秒間広告を見ているユーザーがもっとも効果を出していることがわかりました。

閲覧回数や閲覧総時間を明確化して動画広告を可視化

「しかし衝撃的なことに、15~30秒見ている人はたったの13%。では、キャンペーンにとって最も効果的な閲覧時間の蓄積ができているユーザーは圧倒的に少ないのです。リーチ基準でビューアビリティの率だけを追い求め、1回1秒みてくれた人を増やすだけでは意味はなく、一人一人のユーザーに効果的な回数と時間、広告を見てもらうことが必要です。1~15秒しか広告を見ていないユーザーに広告をもっと見てもらい、15~30秒蓄積させることが重要。同時に、閲覧数過多のユーザーをどう減らしていくかも考えた方がいいんです」と山口氏。

さらに、「一番大切なのは、一つひとつのインプレッションじゃなく、蓄積した閲覧時間。実際のコンバージョンは、ランディングページ到達の場合もあれば購入という場合もありますが、それを達成するために必要な閲覧回数や時間の蓄積などを明確化することが大切」と述べました。

山口 武氏
(Integral Ad Science Japan株式会社)
また、「今回は静止画でスタートしましたが、本当にやりたいのは動画広告の可視化。今回の取り組み内容を次回は動画に横展開したい」と明かす村岡氏に対しては、「より効果的な動画を利用する理由付けはたくさん出てきています。海外ではすでにプレミアムパブリッシャーやコンテンツメディアの注目度もあがってきていますし、今後も我々としては、お客さまの各キャンペーンに役立つようなレポートを実現したい」と意気込みを見せました。

ユーザーが「自分ゴト化する」共感型コミュニケーション ~サッポロビール・ライオンの事例で学ぶ~ 第1部 <サッポロビールの事例で学ぶ> ユーザー視点での次世代型ブランドコミュニケーションとは

2019年2月20日、東京・恵比寿でOutbrain、amana、ALPHABOAT、indaHash、Teadsの5社による 共催セミナーが開催されました。セミナーテーマは、『ユーザーが「自分ゴト化する」共感型コミュニケーション』。スマートフォンの定着とデジタル・ネイティブ世代の増加に伴い、動画広告の主要プラットフォームが、テレビだけでなくオンラインへと広がっていった今、動画広告はよりターゲティング、パーソナライズしやすくなっています。しかし、ほとんどの企業は、既存のテレビCMをそのまま他のプラットフォームに転用しているのみ。
ターゲットユーザーごとに「適切なフォーマット」「適切なメッセージ」でのコミュニケーションを設計するためには、どのような工夫が必要なのでしょうか?
「マルチ・フォーマット」×「マルチ・メッセージ」をうまく組み合わせることで、ユーザーごとにパーソナライズ化させて、一人ひとりに「自分ごと」だと感じてもらうためにはどうすればいいのでしょうか?
第一部では、サッポロビール株式会社 / ブランド戦略部宣伝室 シニア メディア プランニング マネージャー福吉 敬氏を登壇者に迎え、企業の代わりにインフルエンサーが発信するCGMプラットフォームと最新の動画広告の活用について、事例を交えながら紹介します。

4マスに接触する人が減り、デジタルもアドブロックされる時代に何ができるかを考えた

イベント冒頭、今回のテーマについて口火を切ったのはサッポロビールの福吉氏。
「男は黙ってサッポロビール」などの名コピーを例に挙げながら、「コミュニケーションの主軸にあるものって、“ワン・ビジュアル、ワン・メッセージ”。すごく強いコピーとすごく強いビジュアルを打ち出すことで、ひとつのメッセージを伝えることはずっと続いている」と説明しました。

しかし、世の中は変わってきました。
「(広告として)一番強いのはテレビですが、一般的にテレビを観る時間が減ってデジタルの可処分時間が増えていて、若年層にいけばいくほどその傾向にあるのが現実です。だけど一方で、H8年の情報量が100だとすると、H18年には5,300、つまり530倍にもなっています。なぜなら、当時はパソコンがそこまで普及していなかったし、デジタルサイネージもなかったからです」。

情報が溢れかえっている現在において、多くの人が情報を得るデバイスはスマートフォンをはじめとするモバイル端末。そんな中、自分に不要な広告をカットするアドブロックを活用する人も増えており、せっかく広告を打っても、伝えたい相手に伝わらないという現象も起きています。

福吉 敬氏
(サッポロビール株式会社)
「アドブロックの利用率は、日本=10%、ポーランド=38%、アメリカ=24%と言われています。4マスに接触する人が減っている上に、デジタルはブロックする人が増えているとなると、我々がどれだけよい商品を作っても知ってもらえない、店頭で手に取ってもらえないという現象が起きることになります。だったらどうすれば、今までの方法では届かない人に伝えられるだろう? まずはそれを考えることからスタートしました」。

「今までの方法では届かなかった人に届ける」を目的に広告を打つことを決めたサッポロビールが、そのためのパートナーとして選んだのが、Teads Japan株式会社、indaHash、アウトブレインジャパン株式会社の3社。それぞれ、独自のソリューションに注目が集まっている会社です。

フォロワーが多いインスタグラマーが必ずしもインプレッションするとは限らない

「私たちが扱っているのは、ベストエンゲージメントビルディングプラットフォームです。大事なのは、リーチではなくエンゲージ。インフルエンサーマーケティングによって“伝えるプラットフォーム”を開発しています」。

野村 肇氏
(indaHash)
そう話すのは、indaHashの野村肇氏。野村氏によると、同社に登録しているインフルエンサーは82か国で約92万人。
量と質の両方を担保できる人材のみをインフルエンサーとして承認した上で、登録者に公募型でキャンペーンごとに通知を行い、「どういう投稿が可能か」をチェックしているため、クライアントはクリエイティブ軸でジャッジすることができるというものです。また、承認されたコンテンツが投稿された後は、すべて二次利用可能なことも大きな強みとなっています。

「これまでだとキャスティング会社がリストを出してきて、『何万人のフォロワーがいますよ』と提案されるのが一般的でしたが、実際の広告成果について、我々は担保されていませんでした。ところがindaHashさんのは違う。ブランドが伝えたいことを意図して伝えることができるのが画期的だと思い、取り組みを開始させてもらいました」と福吉氏も採用を決めた時のことを振り返ります。

静止画動画問わず大切なのは、「瞬時にお客の心をとらえること」

続くTeads Japanの今村氏は、「弊社は広告におけるクリエイティブの制作支援から実際の配信までを提供するプラットフォームです。特徴は、botの排除、ブランドにふさわしくない媒体などを排除することで、広告主のブランドを絶対に傷つけないこと。また、ディスプレイに現れた時点で初めて(課金を)カウントさせていただくということで、観られていない広告に対する請求は一切ありません」と挨拶。

さらに最近では、企業が持っている素材をデバイスに対して最適化する業務にも力を入れていると説明しました。
「テレビCMは15秒で起承転結を作ってメッセージを伝えるものです。でもスマホメディアは一瞬でお客の心をキャッチしないとその先の接触時間はないので、静止画動画関係なく、いかにお客の心を掴むかを主軸に据えて広告を制作しています」。

今村 幸彦氏
(Teads Japan株式会社)
これに対して福吉氏は、「Teads スタジオ独自の、モーメントをとらえて人を惹きつけるなどのジャイロ、スワイプ機能がすばらしいと思っています。動画で配信したいと思っている人は多いけれど、実は静止画にも力があるんだと気づかせてくれたのがTeadsです」とコメントしました。

時間帯ごとに異なるペルソナを設定

続いてはアウトブレイン。
「我々はオンラインメディアの記事の下に『次にあなたへおすすめ』という形でユーザー様に次のレコメンデーションを提供している会社で、広告をクリック単価ベースで出稿いただけます。目指すところは、ひとつの記事を読み終わった後にもう1記事何か読みたいなという読者に対して、ディスカバリーモードといわれるところでの広告主です」と同社嶋瀬氏が説明すると、福吉氏は、「コンテンツを観るモチベーションを持っている人の興味を刺激して連れてくるところ、『次に読みたいものはなんだろう』をアルゴリズムで当てるところがおもしろいですよね」と笑顔を見せました。

さらにこのアルゴリズムに関して嶋瀬氏は、「さまざまなモーメントごとにペルソナを設計しているのですが、朝のペルソナと夜のペルソナは全然違います。朝の媒体と夜の媒体を広くカバーすることで、ユーザーが観たいものを観たいときに表示できるのが我々の強み」と言葉を足しました。

嶋瀬 宏氏
(アウトブレインジャパン株式会社)

Insta投稿の二次利用でエンゲージメント率が数倍にUP

各社のこうしたソリューションをもとに何を展開できるかを考えたサッポロビール。
今回の広告展開にあたり、まずはindaHashに、「黒ラベルで乾杯するシーン自体をリーチにかけてください」とオーダーしました。
「よくあるインフルエンサーマーケティングだとみんなコピペで文章が一緒。でもindaHashだと一人ひとり違うメッセージが出てくるのがよかった。しかも二次利用可能だから、我々のサイトのコンテンツとして埋め込むことができたんです。一つひとつのパネルを押すとメッセージが動く点も魅力的でした」と福吉氏。
 もちろん、結果も上々。
「今回のサッポロさんの件に限らず、過去の投稿で嗜好がマッチしていないインフルエンサーは選ばないようにしています。そのうえで、協力してもらうインフルエンサーにはきちんとブランドへの理解や共感を求めて、ブランドストーリーを伝えてもらっているので、通常はハッシュタグをいれても1~2%のエンゲージメント率なところ、今回は6%を達成できました」と野村氏は明かしました。

佐藤 勇太氏
(株式会社アマナ)

Instaの投稿をクリエイティブに可変することでさらに魅力的に!

続くTeadsは、2パターンのバナー広告で勝負に出ました。
「1つは、既存の動画・静止画素材をもとにクリエイティブを最適化したもので、もう1つは、indaHashさんがリアルタイムで生成してくるインフルエンサーさんの静止画を、スマホをスクロールすることでクリエイティブに可変していくものを作りました」。

今村氏の言葉を受けて福吉氏は、「説明を聞いてすぐ、そんなおもしろいことはすぐにでもやりたい! と即決しました。ビールが一番おいしそうに見える瞬間を切り取ってコピーをのせて、それを動画にして動きをつけるなんてすごく興味深くて」と当時を振り返ります。

もちろん、効果も一目瞭然。「有効トラフィックは99.9%、ベンチマークは94%を上回り、ブランドセーフも98.7%を達成できました。でも、一番特徴的だったのはアベレージインビュータイム(=広告に接触したタイムの平均)。12.8秒も接してくれていたし、ベンチタイムは1.7秒でした」と今村氏も語ります。

ユーザーの能動的な行動を誘発するユニークな施策

また、アウトブレインはクリック再生型動画「FOCUS」を活用。動画の再生ボタンをクリックすることで初めて再生されるスタイルのため、興味を持ったユーザーのみが主体的に視聴できるのがこの広告の大きな特長です。
「クリックするとフル画面表示になって、終わった後に次の動画を選べるということでエンゲージメント性を高めています。また、(今回はアルコール商品のため)未成年は配信を除外して、夕方以降のパフォーマンスが高くなる時間帯を狙いました。さらに、サムネイルにUGCを活用することによって効果を検証することで、新しいユーザーを連れてくることにも成功しています」と嶋瀬氏。

福吉氏も、「60秒の長尺に観たことがないようなUGCが出てきて、終わるとさらに次の動画を選択できることで、能動的な行動を誘発していますよね。エンゲージメントの高い人は『もっと観たい』という気持ちを持っているでしょうし、さらにエンゲージを高めるためには非常におもしろいクリエイティブだと感じました」と納得。

これらのソリューションを活用したことで、「indaHashの、自分の言葉で発信するユーザー目線に近いコミュニケーションとその多様性を知ることができましたし、アウトブレインやTeadsのプレミアムな面での発信では、これまで届かなかった顧客にアプローチできたのもよかった」と福吉氏。
ブランドの可能性が大きく拡大されたことで、これまでとは異なる形でのメディア発信に大きな意義を感じることができたと締めくくりました。

コンピュータビジョンはブランディング広告を変えるか? GumGumの挑戦 GumGum, Inc. CEO Phil Schraeder氏 / GumGum Japan K.K. Managing Director 若栗直和氏

人間の目が行うこと、たとえば顔やものを判別したり、物体を認識したりするコンピュータビジョンは近年、目覚ましい勢いで進化している。それに伴い、デジタル広告の世界も劇的に変わろうとしている。その一端を担うのがGumGum。AIを活用した独自の視覚情報処理技術を持つ、カリフォルニア発の企業である。AIが記事の文脈を理解し、不適切な内容が含まれていないかを判断し、広告の配信を見極める。そうした画期的なサービスが世界各国の主要ブランドから高く評価されてきた。日本では、2017年後半から本格的に広告ソリューションの提供を開始。これまで獲得型広告が主流だった日本のデジタル広告業界はGumGumの登場により、真の意味でのブランディングに目を向け始めた。

カリフォルニア発。AIを活用した独自の広告プラットフォーム

–御社の事業モデルと現在の取り組みについて教えてください。

Phil 当社の創業は2008年。アメリカのカリフォルニアで誕生しました。AIを活用した独自の視覚情報処理技術を用いて、日々生成される膨大なビジュアルデータの持つ潜在価値を顕在化し、さまざまな課題の解決に活かすことを目標に活動を展開しています。現在は北米、ヨーロッパ、オーストラリアなど世界各国でサービスを提供しており、日本では2017年後半から広告ソリューションの提供を開始しています。

若栗 当社は、パブリッシャー(媒体社)の方々がお持ちのコンテンツを新たな広告配信面として活用。AI視覚情報処理技術を用いて配信面の文脈を識別し、文脈に沿ったクリエイティブ表現を通して、ユーザー・ブランド・パブリッシャーそれぞれに有益な環境を構築しています。現在、日本国内ではおよそ100のプレミアムパブリッシャーと連携※。新しい収益の獲得や高いユーザーエクスペリエンスの実現など、多くの面で貢献しています。

–日本市場でのビジネスを本格化した意図は?

Phil 当社にとって、日本は4番目の市場です。比較的早く日本市場をビジネスの視野に入れました。というのも、日本市場は欧米と異なる、独自の特質と可能性を持っているからです。欧米と異なり、日本のデジタル業界はこれまで獲得型広告が主流であり、ブランド広告領域にはそれほど手をかけていませんでした。しかし現在、ブランド広告領域へシフトする傾向が強まっており、私たちは日本のブランド広告市場における発展の可能性に、大きく注目しています。

–近年の広告トレンドについて、どのようにお考えですか。

Phil 世界レベルでデジタル広告を考えると、さまざまなトレンドが起きています。そうした中で、私たちが最も注力し、課題解決に大きく寄与しているのではないかと自負しているのが、ブランドセーフティの問題です。ブランドは当然、自分のブランド価値を守りたいという気持ちが強い。だから、安全かどうかわからない場所、すなわち、広告を出稿するのにふさわしくない場所に、意図に反して広告を配信してしまうことはとても怖い。これは当然ですよね。もちろん、ブランドによって「安全か、そうでないか」という基準は異なりますし、広告配信に適正と確度を求めるなら、一つ一つ、文脈を判断する必要があります。特に日本のブランドは、欧米に比べて保守的な傾向が強いため、「こういうコンテンツに広告出稿は控えよう」と考える基準が、他国と比較してもっと厳しいかもしれません。
そうした点において、当社のテクノロジーはまさに有効に機能します。たとえば、一般的な視覚情報処理技術でも、「画像内に武器が写っている」ということは把握できます。しかし、そうした認識技術を私たちの自然言語処理と組み合わせることで、世界一ブランドセーフなプラットフォームを作ることができるのです。そうした点で、当社のサービスと日本の市場は非常に親和性が高いのではと考えています。

–個人情報の取り扱いについても、現在ではますます厳しくなっています。

Phil 欧米では近年、パーソナルデータ活用のプライバシー問題についての議論が積極的に行われ、消費者の権限強化の必要性が一般に共有されてきました。特にEUは、2018年5月に一般データ保護規則(GDPR)を施行し、個人のプライバシーを保護する権利を強化していますし、こうした傾向は今後もますます強くなっていくでしょう。これまで多くの企業がリターゲティングやcookieデータの解析に注力してきましたが、今後はそうしたものへの投資が少なくなると見込んでいます。そうした中でも、当社が展開するAIを活用した独自のコンテクスチュアル広告は、ブランドが自分にとってふさわしい広告スペースを選択できる、そして、個人情報に頼ることなく効果的にターゲティングできるという点で、今後もますます多くのブランドにソリューションを提供できるのではないかと考えています。

若栗 これまで日本の多くのブランドは、獲得型広告に大きな予算を配し、ブランド広告キャンペーンにはそれほど多くを投下してきませんでした。しかし今後、日本ではブランディングがますます重要になってくると考えられます。特に、デジタル世代である若者たちは、生まれた時からインターネットをメインのメディアとして活用しています。これまでの世代は新聞やテレビなど、従来型のメディアでブランドの認知形成を行なってきましたが、今の若者たちは当然のように、インターネットでブランドに対する認知を確立させています。そうした点で、今後ますますデジタルにおけるブランディングが重要になってくると考えています。

ブランドリフト効果は10〜20%

–日本における現在の展開は?

若栗 先ほどお話しした通り、現在は約100のパブリッシャーと連携し、月間の広告配信は4億PV。リーチできるユーザー数は3,000万以上と考えています。つまり、Facebookやインスタグラムと同等規模のプラットフォームということです。
一方、ブランドのカテゴリーはさまざまであり、食品や飲料メーカーから、銀行・保険などの金融関係など多岐にわたっています。

–事例を挙げていただけますか。

若栗 最もわかりやすい事例の一つが、このANAハワイ線へのA380就航の広告です。ターゲットとして「ハワイ旅行」やトラベル関係の文脈を取り上げ、その中で、「ANAのハワイ線にA380が就航する」というニュースを出すのに、適切な文脈を判断。その記事内画像の下部にイン・イメージ広告として掲載しました。広告にはエンゲージメントを高めるためにアニメーションを採用。視認性の高いスペースへ広告を配信し、アニメーション・動画など自由度の高いクリエイティブ表現を用いることで、ポジティブなメッセージを確実に届けることが可能です。さらに、そうした自由度の高いクリエイティブ表現により、ブランドリフト効果にも力を発揮。つまり、この広告を目にした視聴者に対して、単純に「記憶してもらう」「覚えてもらう」だけでなく、ブランドに対して好意的な認知を醸成させることができるのです。
こちらのANAハワイ線へのA380就航の広告については、広告主であるANA様からも、画像認識を使った独自のターゲティング手法の面白さ、文脈識別の精度の高さ、エンゲージメントなどのパフォーマンスの良さにおいて、非常にポジティブな評価をいただいています。

–一般に、ブランドリフトの効果はどれくらいですか。

若栗 キャンペーンのメッセージや広告表現のクリエイティブ性にもよりますが、平均して10〜20%のブランドリフト効果を実現しています。ブランドリフトについて考えるときは、必ず競合に対する印象も計測することも必要。競合と比較して、イメージシェアやマインドシェアを多く獲得することができれば、市場におけるそのブランドの優位性はますます高まるでしょう。

–御社ではスポーツスポンサーシップという取り組みを行っていると聞きました。

Phil スポーツスポンサーシップとは、ブランドやライツホルダー向けに、テレビ・ストリーミング・SNS上でのスポンサーシップのメディア価値を評価・分析するサービスのこと。たとえば試合を撮影した画像や映像の場合、ホームゲームであることやロゴが含まれていることなどを認識し、さらに、「いいね!」などの数や放映された時間などからメディア価値を評価します。アメリカでは非常に成功を収めているソリューションで、放映権の保有者とブランドが意思決定をする際の共通認識となっています。まだ日本ではこのサービスを展開していないのですが、今後、時期をみて日本にも導入する予定です。日本ならではの文化や特性を配慮して、サービスの展開を決めたいと考えています。

若栗 こうした「日本ならではの文化や特性への配慮」は、あらゆる点で必要と考えています。実際、日本独自の商習慣は未だに根強く存在していますし、ある特定のビジネスが欧米で成功したからといって、それをそのまま日本に持ち込んでも、同じようにうまくいくとは限りません。あるブランドに対しては、レポーティングの頻度や回数を増やすことが求められるかもしれませんし、内容をもっとリッチにする必要があるかもしれません。そうした点を踏まえ、個別にワークフローを設定。綿密なプランニングと人的リソースの最適化を繰り返しながら、日本でのサービス展開を加速している状況です。

Phil 私はアメリカ出身なので、日本では信頼を醸成することを先に行わなければなりません。信頼やリスペクトが基盤にあるからこそ、日本でのビジネスがうまくいくのです。私たちの製品サービスや戦略ビジョンは世界的にみてどこもほとんど変わりませんが、各地域で展開させるためにそれらをローカライズさせる必要があります。そのため、ローカルリーダーシップ制を設け、私たちの商品ソリューションがその国や地域で意味を成すように調整していきたいと考えています。

デジタルにおけるブランディングの可能性を追求

–現在、広告業界が抱えている課題について、どう考えていますか。

Phil 現在、多くの企業において、広告の予算が分離されています。たとえば、予算の一部はパートナーに預ける、他の一部はソリューションに回すとか……。でも、そうやって予算を託したパートナーやソリューションは、他のライバル企業も同様のサービスを使っているかもしれず、そうなると、広告の差別化はますます難しくなってきます。また、多くの企業はデジタル広告を配信する際、ほとんど似たようなパブリッシャーを使っています。「安心できるから」という理由もあるのでしょうが、それでは広告の単価はますます高くなりますし、広告の独自性を打ち出すことも難しくなります。
その点、当社では日本で約100のパブリッシャーと連携していますが、それぞれ個性豊かな編集記事を制作していますし、また、専門的な情報を配信しているブログなど、これまであまり広告スペースとして注目されてこなかったところについても広告配信の可能性を探っています。
また、広告は全てインハウスで制作しており、各国ごとにローカルのクリエイティブチームを結成。それにより、ブランドに対してクイックなレスポンスが可能になり、自由度の高いクリエイティブを実現しています。

若栗 それから、広告の効果測定に一貫性がないという問題もあります。効果測定はどちらかというとデジタルの方がやりやすいものの、評価指標がCTRなどに終始しがちで、ブランドの認知やエンゲージメントの「質」を評価する考え方がまだ浸透していない。しかしそうした中でも、アトリビューションを測定するツールは少しずつ増えています。こうしたツールを使うことで、真の意味でブランド広告の価値を測るとともに、「デジタル広告でも効果的にブランディングができるのだ」ということを実感していただきたいと思います。

–最後に今後の展望について教えてください。

若栗 現在、日本でサービスを開始して約2年。徐々にGumGumの認知度が高まってきて、キャンペーン展開例は約150近くに上ります。これからももっと多くの方に当社のサービスを理解していただき、実際に活用していただくことで、ブランディングに貢献していきたい。同時に、パブリッシャーとの連携もますます強化して、ネットワークを拡充していきたいですね。

※2019年2月末時点

 

Phil Schraeder (フィル・シュレーダー) 氏
GumGum, Inc.
CEO

GumGumのCEO。グローバルにおける事業計画及、セールスマネジメント、財務計画、人材管理等を行う。『Adweek』『Huffington Post』等のメディアへの定期的な寄稿を行う他、2017年には『Los Angeles Business Journal』による『CFO of the Year』アワード受賞。
GumGum参加以前には、グローバル電子決済・リスク管理ソリューションプロバイダー『Verifi 』のVP of Financeとして活動。また、3Dテクノロジーライセンシング企業『RealD』、フィルムスタジオ『New Regency Entertainment』、 監査・税務・アドバイザリー企業『KPMG』等でアカウンティング・ファイナンス業務を歴任。
Northern Illinois Universityで会計学でのBachelor of Scienceを取得する他、コミュニケーションも専攻。旅行、フットボールを楽しむほか、フロリダキーズでの友人との休暇が趣味。

若栗直和氏
GumGum Japan K.K.
代表

GumGum Japanの代表 /カントリーマネージャー。2000年より、広告会社『オグルヴィ・アンド・メイザー』にて、グローバル及びアジア・パシフィック市場向けのブランディングに従事。香港・上海・東京・シンガポールなどを拠点に、『フォーチュン500』企業向けのブランド戦略・ブランディング企画・キャンペーン運営を手がける。2018年よりAI画像認識を活用した広告事業を展開するGumGum(ガムガム)の日本オフィス代表を務める。
1998年東京外国語大学英米語学科卒。

データを駆使して“人”を読み解く。新時代のコンテンツマーケティングとは アウトブレインジャパン株式会社 代表取締役社長 嶋瀬宏氏

かつて雑誌広告が全盛だった時代には、ページをめくるたびに新しい発見と出会うワクワク感があった。だがデジタルマーケティングの興隆に伴い、予想外のものと出会う高揚感や期待は重要性を失い、その代わり、「ユーザーの興味関心に沿った広告を、どれだけ的確に表示できるか」という効率性が重視されるようになった。しかし本来、「ユーザーに新たな世界を提示し、豊かな時間を提供する」ことも広告の役割であると考えれば、確度の高さだけが広告の価値と考えることはできない。「広告によるユーザーエクスペリエンスを高めるためにも、ディスカバリーの要素が必要」と語るアウトブレインジャパン株式会社の代表取締役社長嶋瀬宏氏に、今後のデジタルマーケティングについてうかがった。

トレンドが一巡。広告の本質的な部分に回帰する傾向

–現在、日本のコンテンツマーケティングにおけるトレンドについて、どのようにお考えですか。

 いくつかのトレンドがありますが、まず一つはブランドセーフティ。欧米諸国では3年くらい前からよく聞かれていましたが、日本でも外資系企業を筆頭に、多くの企業でブランドセーフに対する意識の高まりが見られるようになりました。
 また、これまではどちらかというと、より多くのユーザーに対してどうやってリーチするかという点に主眼が置かれてきましたが、今後はエンゲージメント、つまり、どれだけ深くユーザーとコミュニケーションを図れるかという点が重要視されるようになるのでは、と考えています。今後、通信網が発展し、モバイルでできることがますます増えれば、よりインタラクティブ性の高いコミュニケーションの手法が一般的になるのではないでしょうか。

–そうしたトレンドの中、御社の取り組みについて教えてください。

 当社ではインタラクティブ性の高い動画コンテンツに力を入れており、中でも、ユーザー自らが動画を選択して視聴できる新しい配信サービス「FOCUS」は、ユーザーに「スキップされる動画」ではなく「選んでもらう動画」として、広告主の皆様にご好評をいただいています。また、広告のクリエイティブな部分に再度目を向けなおし、「どのようなコンテンツがユーザーに深く刺さるか」を考察。配信の手法や広告のフォーマットももちろん大事ですが、それ以前の課題として、「ユーザーに刺さるコンテンツとは一体何か」という、いわば、広告の本質的なテーマに今後、デジタルマーケティングは回帰していくのではないかと見込んでいます。
 では一体、どのようなデータがユーザーに「刺さる」のか? これを考えるには、データが大きく貢献するでしょう。つまり、インタレストデータを読み解くことでより確度の高いコンテンツを制作する。そして、どういったコンテンツがエンゲージメントに効いたのかアトリビューションを解析する。これらによって高速に PDCAを回し、よりユーザーに「刺さる」コンテンツを制作することができるでしょう。

–一般に、マーケティング先進国である欧米に比べ、日本は3年程度遅れていると言われています。

 確かに、そのような傾向もあるでしょう。先ほど述べたブランドセーフティについても、欧米ではすでにその概念自体が標準化していますし、デジタル広告を含めた運用自体もインハウス化されていて、リアルタイムに運用型広告を最適化したり、コスト効率を改善したり、透明性を担保したりしています。それに比べて、日本ではまだデジタル広告のインハウス化が進んでおらず、人員的にも体制的にも改善の余地がある。しかしその一方で、一部のアーリーアダプターたちは欧米と同様、もしくは、それよりも早い取り組みを見せています。彼らが最も進化している分野こそデータの活用であり、その分野に限って言えば、この1、2年の進化は非常に目覚しいと言えるでしょう。そういう意味では、日本におけるデジタルマーケティングは二極化が進んでおり、今後も益々この傾向が強くなるのではないでしょうか。
 
–そうした中で「刺さるコンテンツ」を作るための着眼点としては、どのようなものがありますか。

 私は、“3つのM”が関係していると考えています。一つ目は、「Mode(モード)」。たとえば、ユーザーが積極的にコンテンツを探しに行き、自らの意志で広告にアクセスすれば、当然、そのコンテンツはユーザーにとって深く刺さるのものになるでしょう。受動的に眺めるだけの広告よりも、その効果は明白です。このように、ユーザーのモードに合わせたコンテンツは、エンゲージメントに深く影響しています。
 二つ目は、「Moment(モーメント)」。コンテンツを作る際にはペルソナを設計します。もちろん、ペルソナはとても重要な役割を果たしますが、もっと細かく見れば、同じ人物でも朝と夜ではペルソナが変わります。つまり、今までのような1 format, 1 messageではカバー仕切ることができないとういこと。今後は様々なモーメントに合わせるため、コンテンツはより多くのバラエティを持つことが求められるようになるでしょう。
 三つ目は、「Measurement(メジャーメント)」。コンテンツマーケティングの成否は、KPIがしっかり設定され、それを実際にメジャーメントできるかという点が大きく関係しています。トレンドの移り変わりを的確に捉えながら、コンテンツをリアルに改善していくことが、刺さるコンテンツ作りに必要な3つ目の要素と言えるでしょう。

–メジャーメントについては近年、ツールの進化が目立っています。

 当社のパートナー企業であり、アトリビューションサービスを提供するTRENDEMONの登場に示されるように、ここ2〜3年でマーケターがデータ分析を行うのに最適な環境が整いつつあります。コンテンツの8割はカスタマージャーニーに貢献していないという調査結果もあり、データに基づいて問題点を改善すれば広告の雲鷹効率は単純計算で5倍に上がります。
 しかし、データの読み方には何通りもあるということも忘れてはなりません。つまりどれだけ計測ツールが進化しようとも、データを読み解き、対策を講じるのは人間である以上、どうデータを読み解くかというのはマーケターや編集者のカンや経験に頼る部分も少なくなく、そうした経験値は今後ますます重要になってくるでしょう。現在、データ分析は個の力に依存する部分が目立ちますが、ある企業はデータ分析のプログラムを自社で開発したりするなど、かなり意識の高い試みを見せています。その一方、まだ的確なKPIを設定せずに広告運用を行っている企業も多く、今後もこうした二極化はますます進むだろうと見込んでいます。

–日本におけるデジタルマーケティングは今後、さらに二極化が進むということですが、これを改善するには?

 日本の企業はそもそもの文化として、縦割りの事業部制が浸透しています。しかし企業によっては、ECサイトも運営すれば、楽天やAmazonでも商品を扱う、また企業サイトだけでなく、オウンドメディアやマイクロサイトも展開するなど、ユーザーとの接点は非常に多岐に渡ります。そうした中でメディアごとに担当者を分ける従来の体制では、全体を俯瞰的にみて戦略を講じることはほぼ不可能。つまりCMOが全体を俯瞰し、マーケティングの戦略を横串で繋げていき、企業全体で最適化を測っていくことが必要であり、体制そのものを根本的に変革していく必要があるのではないかと考えています。

–そうした中で、今後、必要とされる人材とは?

 デジタルマーケティングの領域は、現在、統廃合が進んでいます。どんどん新しいテクノロジーも開発されていますし、プロダクトのリリースも相次いでいます。各社が新しいツールを次々と提供する中では、適切なツールを、適切に使える人材が必要。決して新しい手法を取り入れ、先駆的な取り組みをすることがゴールではなく、定めたゴールに対して適切なツールをどう組み合わせて使っていくか、全体設計の視点においてツールを選択する視点がまず必要となるでしょう。
 しかしその一方で、最終的にユーザーのエンゲージメントを確保するという点では、より、クリエイティブの領域が重要性を増すだろうと考えています。今まではどちらかというと、デジタルマーケティングの領域では、計算や論理的思考を司る左脳が重要とされてきましたが、今後は、右脳的な創造性が必要になるのではないでしょうか。このツールを使って、このようにファネルを設計して、こうやってリタゲして…とどれだけ完璧に設計しても、そこを流れるコンテンツが良いものでなければ、ユーザーには刺さりません。どんなに高級なレストランで、インテリアやサービスが素晴らしかったとしても、そこで提供される料理がいまいちであれば、お客は満足しませんよね。それと同じ。つまり、デジタルマーケティングの領域では、よりクリエイティブ性が必要とされ、ユーザー経験の価値を高めることが重要視されるのではないでしょうか。

FOCUSのウィジェット例。動画の再生ボタンをクリックすることで初めて再生。
興味をもったユーザーのみが
主体的に視聴する。

確度だけではない。今、広告に必要な要素とは

–そうした中で、サービスやプロダクトの方向性についてはどのようにお考えですか。

 先ほど申し上げた3つのMのうち、モードとモーメントに関しては、アウトブレインが誕生以来、主軸に据えている分野であり、それらをコミュニケーション起点としてそもそものサービスが設計されています。そうした中で、今後、より重要になると捉えているのがメジャーメントです。つまり、我々が持っているユーザーのインタレストデータに、たとえばクライアントが持っているファーストパーティのデータや、パブリックなサードパーティのデータなどを結合させ、クライアントにとってもっと効果的なマーケティングを考えていくことが今後、ますます求められていくでしょう。

–それによって、ユーザーの行動変容はどのように起こりますか。

 適切なモードやモーメントはエンゲージメントの深さにつながります。それに加え、メジャーメントによって客観的な視点を加え、広告精度を上げていくことで、ユーザーのエンゲージメントは深まるだろうと考えています。
 しかし、矛盾するように思えるかもしれませんが、データはあくまでも過去の履歴でしかありません。つまり、未来を予測する領域にはまだ到達していないのです。たとえば、私がこれまでネパールの情報に触れておらず、現時点で興味を持っていないとはいっても、私がネパールを好きではないかというと、決してそうではありません。ネパールの広告を当てることによって、新たな興味を喚起し、行動変容につなげる可能性もあるのです。
 私たちは、広告にはディスカバリーの要素が必要だと考えています。つまり、ユーザーの興味関心に沿って、「その人に好まれるだろうな」という情報を提示することはもちろん大事ですが、その一方で、遊びの要素も必要であり、新たな世界を示してあげることも大切だと思うのです。自分の世界観に合致する広告ばかりが提示されれば、はじめはユーザーの関心を誘っても、やがて広告自体が飽きられてしまうでしょう。そこではフレッシュなお勧めがないからです。
 もともとアウトブレインは、「雑誌を読んでいるときの、次のページをめくるときの高揚感や、次にどんなコンテンツと出会うかわからない不確かさ」といったものにインスパイアされ、設立されたという経緯もあります。これまではデジタルマーケティングの精度を高めることに注力し、ユーザーが好みそうなコンテンツの配信に意識が向けられてきましたが、現在はその揺り戻しが起こっており、「広告をみる楽しさ」という原点が改めて見直されているのではないかと思います。たとえていうなら、情報のセレクトショップとなるでしょうか。どんなに優れたショップでも、品物を一つしか持っていなければすぐにユーザーに飽きられてしまうでしょう。しかし、「あなたはこういう商品が好きですよね、でも、こういうものもありますよ」と新しい世界を示してあげる。そうすることでユーザーの広告体験は価値が高まり、エンゲージメントにも貢献するのではないかと思うのです。

–“情報のセレクトショップ”は、オンラインだけでなく、オフラインにも拡大していくのでしょうか。
 
 当然、そうなるでしょう。今、クライアントと話していると、イベント重視の傾向が出ているように感じます。たとえば、自社の商品を愛用しているユーザーの中から影響力のある人たちを招待して、リアルなイベントを開催する、そしてその様子をSNSで拡散するといったインフルエンサーマーケティングも、ますます重要視されています。デジタルマーケティングというと、数値やデータだけで完結すると勘違いされてしまいがちなのですが、その先には「人」が存在しています。その人の感情や行動を細やかに読み取り、マーケティングに還元していくという、一見時代に逆行していくかのような施策が、今後のデジタルマーケティングにおいては価値が見直され、ますます求められていくのではないかと考えています。

嶋瀬 宏氏
アウトブレインジャパン株式会社
代表取締役社長

2001年三菱商事株式会社入社。国内外における新規プロジェクト開発などを担当。同社退職後、新規事業のインキュベーション・コンサルティングを行う株式会社ステラ・ホールディングスを設立。2013年11月より世界最大級のディスカバリー・プラットフォームを提供するアウトブレイン ジャパン株式会社の社長に就任。『適切なユーザーに適切なモーメントで』コンテンツを届ける同社のプラットフォームを通して、オンラインパブリッシャーとコンテンツマーケティングを展開するさまざまな企業をサポートている。