デジタル広告の重要トレンド、「ブランドセーフティ」の考え方 CHEQ AI Technologies 日本法人カントリーマネージャー 犬塚洋二氏 / エグゼクティブアドバイザー Gadi Becker氏

インターネット広告配信における次世代型のアドセーフティプラットフォームを提供するCHEQ AI Technologiesが日本法人を設立したのは、2018年5月。以来、半年が経過していないにもかかわらず、その存在感と周辺からの期待はますます大きくなっている。世界的にブランドセーフティに対する関心が高まり、広告配信面への安全性の確認が急務とされている現在、同社が担うべき役割とは-。日本法人カントリーマネージャーの犬塚氏と、エグゼクティブアドバイザーを務めるGadi Becker氏にお話をうかがった。

ブランドにとって、本当の“セーフティ”とは?

–日本法人を設立して約半年。現在の状況はいかがですか。

犬塚 当社は広告の透明性、つまりアドトランスペアレンシーを主軸として事業を展開しています。現在、ウエブ広告の業界では、テクノロジーによるアドベリフィケーションが注目を集めています。DSPなどで配信された広告が、広告主のブランドイメージを低下させるようなサイトに掲載されていないか、また、ユーザーがきちんと認識できる場所にしっかり掲載されているかなどを確認し、配信をコントロールするためのツールを活用するといった取り組みは、日本でも2017年ごろから本格的に始まっています。多くのブランドがそうした事に対して関心を持ち、知識も深まってきたと感じます。

–そうした流れの中、御社が目指す方向性とは。

犬塚 CHEQはすべての広告主がインターネット広告を安心して活用し、マーケティング活動に従事できる環境を創り出すことを目的に、①ブランドセーフティの確保、②アドフラウド回避、③ビューアビリティの確保、の3つを柱に設定。軍事技術をベースとしたAIによる超高速情報処理技術や、NLP技術を駆使した「リアルタイム・アドセーフティプラットフォーム」を提供しています。特徴は、従来型のサービスでは、自社の広告がふさわしくないページに配信された後に検知するという事後報告型であったのに対し、CHEQは広告の配信そのものを未然に防ぐということ。交通事故でもそうですよね、事故を起こした理由を知るよりも、そもそも事故を起こさないようにすることの方が、もっと価値がある。これと同じで、CHEQのプラットフォームでは不適切な広告を事前に回避することを可能にしています。

–2018年8月には株式会社サイバー・コミュニケーションズとのパートナーシップ契約を締結し、同社によるCHEQのアドセーフティサービスの導入サポートも開始しています。

犬塚 現在、CHEQの本社はイスラエルにあり、支社をNYと東京に設置しています。そのうち、東京により多く投資されていて、2020年をめどにCHEQの機能を幅広くご利用いただける環境を創り、デジタル広告の領域において、ブランドが真に安心して広告出稿ができる状態を作りたいと考えています。

Gadi CHEQが目指しているのは「広告の透明性」と「コントロール」。最近までアドバタイジングの世界では、「デジタル広告は紙媒体やテレビと違ってコントロールができないもの」と考えられ、「不適切な広告を制御することはできない」と半ば諦められていました。しかし我々は、軍事技術で活用されてきたサイバーセキュリティーの技術やアルゴリズムを活用すれば、それは無理な話ではないと考えた。ブランドのバリューを守り、高めると共に、限られた広告予算を効果的に投下できるよう、デジタル広告の環境を整備するために、CHEQという会社を創ったのです。

–日本に対し、重点的に投資をしているのはなぜですか。

Gadi よく尋ねられる質問です(笑)普通、外資系の企業が世界へ進出しようとするとき、初めの一歩を日本に設定することはほとんどないでしょう。しかし私たちは、「まずは日本」と考えました。なぜかというと、日本のマーケティングは広告に限らず、非常に高度なレベルを極めているからです。また、CCIさんと組んでいても感じるのですが、アドセーフティに対する要求が極めて高く、非常に精密な設計が求められます。つまり、日本で我々がビジネスを成功することができれば、おそらく、世界のどこへ出かけても成功するだろうということ。日本において我々の真価が問われるだろうと考えています。

グローバルブランドを筆頭に、対策を取り始めている

–アドベリフィケーションというキーワードが注目されつつありますが、現時点では日本企業の中で、どれくらいが対策を練っているのでしょう。

犬塚 広告の安全性や透明性に対して関心を持っている企業は増えてきましたが、実際に対応している企業はまだそれほど多くないと考えています。ただ、昨年9月、NHKの『クローズアップ現代』でWEB広告不正の実態が取り上げられるなど、この分野に対する関心は急激に高まっています。2019年はこれらの問題に対する企業の対策が本格化する年になると感じています。

Gadi 現在、日本でブランドセーフティやアドフラウドについて関心を持ち、対策を取っているのは、大手のグローバルブランドがほとんど。日本のローカルブランドはまだこれからといった感じがします。しかし、市場でインパクトを持つグローバルブランドがデジタル広告の安全性や透明性に関心をもち、対策を始めれば、必ず他の企業も追随する。一旦その波が訪れればそれほど時間をかけずとも、多くの企業が対策をとるようになるのではと考えています。

–現在、予定しているサービスやプロダクトの方向性について、お聞かせください。

犬塚 現在、当社は先ほどお伝えした通り、ブランドセーフティ、アドフラウド、ビューアビリティという3つの側面からサービスを展開していますが、その一方で、媒体社側に立ってみるとマルウェアの攻撃に対する施策の重要性が増しており、当社では、あらゆる種類のマルウェアをリアルタイムに検知・アラートし、即時性のある対策を可能にするマルウェア検知機能、さらに、前述のクローズアップ現代などでも話題になった悪質なトラフィック詐欺を検知、異常トラフィックのソースを突き止めるトラフィックフラウド対策機能などを提供してまいります。現在、最終テストを行っており、2019年早々にはリリースする予定です。

フリーインターネットの未来を守るために

Gadi そもそもCHEQのファウンダーであるガイ氏がなぜ、この会社を創ったかというと、フリーインターネットのコンセプトを守るため。我々が日常的に無料でインターネットを楽しむことができるのは、媒体社側がデジタル広告をマネタイズできているからで、万一、主要なブランドが「デジタル広告は危なすぎるので、これからは出稿を控えます」と撤退してしまったら、たちまちフリーインターネットの未来は閉ざされてしまうでしょう。そのための、いわば“武器”として、我々はCHEQを創ったのです。

犬塚 現在、デジタル広告配信におけるブランド毀損のリスクは、およそ10%前後と考えられています。とはいえ、この数値自体が確実なものではなく、測定手段も明確に定められていいないため、もしかしたらリスク要因はもっと多岐に広がっているかもしれません。しかしCHEQのテクノロジーを活用することにより、そうしたリスクが明確に解消され、広告主は有効なインプレッションだけを買い付けることで、広告予算の投入を最適化することができ、また、媒体社は良質な広告インプレッションを、より高い価値で販売し、広告収益を拡大することが可能になります。

–CHEQ導入の実例を挙げてください。

犬塚 あるブランド様の例です。そのブランド様はブランド管理の観点から、事件事故や災害ニュース、芸能人の訃報など、広告掲載を回避すべきコンテンツが多く含まれるニュース系の媒体へは出稿したくてもできない、という状態になっていました。ところがニュース媒体はご存じの通り、膨大な読者を持つ、マーケティング上重要な媒体です。このジレンマを解消すべく、CHEQのタグを導入してもらい、ニュース媒体においてブランドにふさわしくない記事だけを取り除いて配信する、という施策をご一緒しました。結果として全体のインプレッションの25%くらいの記事が配信対象外として除かれましたが、残り75%もの広告インベントリが有効在庫として復活し、ブランド様は大規模な読者層へ新たにリーチをすることに成功しました。「ニュースは全部、危ないよね」と言ってすべて排除してしまうのではなく、好ましいページに効率よく出稿できる。これはブランドにとってだけではなく、媒体社にとってもポジティブなことです。

–今後のデジタル広告を考える上で、どのような人材が必要と考えますか。

犬塚 従来のブランディングというと、どうしてもアナログというか、トラディショナルな価値観でものを考えることが多かったように思います。しかし、ブランドを守るという視点で言えば、今後、アドベリフィケーションは非常に重要かつ不可欠なテーマ。ブランドサイド、媒体社サイドともにテクノロジーに関する知識を持ち、また、フレキシブルに対応することが必要でしょう。

Gadi 媒体社側の目線でいうと、ときどき、「ブランドセーフティを考えると、広告在庫が売れなくなるのでは」と心配する方がいらっしゃいます。しかし、ブランドセーフティの戦略をどう実現するか、この点を考えることで問題は解決可能です。たとえば、まずはブランドセーフティに対して非常に感度の高いブランドが安全な広告枠を購入する。その他の広告枠はパスバックシステムを活用して、代替広告を設定する。このように、さまざまなアプローチを実践することが可能なのです。ブランドにとっても媒体社にとっても、安全性とスケールの両方を叶えることができ、誰にもダメージを与えないのがCHEQの特徴。今後も広告の透明性とコントロールを使命に、日本の広告主や媒体社への本格的な導入を支援していきたいですね。

犬塚洋二氏
CHEQ AI Technologies
日本法人カントリーマネージャー

1995年立教大学卒、商社勤務を経て2000年1月エキサイト株式会社入社、広告営業部長などを経て、2011年グラムメディア・ジャパン株式会社入社、アドバタイジングセールス・ディレクター、執行役員を歴任、2018年5月CHEQ Japan入社。

Gadi Becker氏
CHEQ AI Technologies
エグゼクティブアドバイザー

エルサレム・ヘブライ大学の数学とコンピュータサイエンスの学位を取得。
1992年コンサルタントとして独立後、イスラエルの先端技術を日本へ紹介し、日本市場での立ち上げをサポートしている。OutBrain、SundaySky、Checkmarx、Panayaなど多くの企業の日本市場立ち上げの実績を持つ。2017年6月よりCHEQ本社のアドバイザリーボードとして日本市場への戦略立案を担当。自身も7年間の日本在住経験を持つ。